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20話:巨像の沈黙、ペットショップの魔境


「……何よ、面影もないわね」


能美の湿った風が、錆びついた鉄の匂いを運んでくる。時刻は午後二時を回ったところだ。

かつてのレジャーランドの面影を残すその場所で、ひときわ異彩を放つ「巨人の像」が、濁った空を仰いでいた。

周囲のペットショップ跡地は、魔力汚染によって植物と檻が癒着し、生物の鳴き声一つしない「魔境」へと変貌している。


「……あいつには、誰も勝てない。ギルドのA級パーティが全滅したって噂だ。……刺激するなよ。俺たちは、その足元のショップ跡で『マナ結晶』を回収するだけだ」


コウタはアイアン・パイン号のエンジンを切り、震える手でドローンを起動した。

配信画面には「進入禁止区域:巨像の足下」という警告テロップが踊る。

だが、カナの【飢餓のハンガー・ドライブ】は、目前の絶対的な強者――巨人の像を見上げ、ゾッとするような昂ぶりを見せていた。


「勝てない? ……ふふ、いいじゃない。圧倒的な暴力に踏み潰されるのって、どんな気分かしらね。……コウタ、あんたもそう思わない?」


カナは、コウタの首筋に冷たい指を滑らせた。

巨像の影が、二人を飲み込むように長く伸びている。

ショップの内部に入ると、そこは「かつて可愛がられていたもの」たちの怨念が、魔物となって蠢く檻の迷宮だった。


「……カナ、来るぞ! 影に潜んでる!」


コウタが【水槍ウォーターランス】を低く構える。

檻の隙間から、変異した水棲魔物や小型の獣型魔物が次々と襲いかかる。

カナは【絡め取る残火エモーショナル・バインド】を縦横無尽に展開し、魔物を捕獲しては、執拗に壁へと叩きつけた。


「……見てよ、コウタ。あそこに閉じ込められてる子たち。……あんたに似てるわね。檻の中で、飼い主に愛されるのを待ってるだけの、無力な生き物」



「……っ、そんな話してる場合か! 巨像の魔力が……共鳴してる!」


巨像がわずかに震えただけで、ショップの床が激しく波打つ。

抗えない絶対的な重圧。

コウタは膝を突き、激しい疲労感に襲われた。

その時、カナがコウタの背後から抱きしめるようにして、彼の耳朶を噛んだ。


「……ねえ、怖い? あの巨人に、全部踏み潰されるのが怖い? ……大丈夫よ。アンタを殺すのは、あの石像じゃない。私なんだから。……ねえ、もっと私を見て。外の世界なんて、全部壊れちゃえばいいのにね」


巨像の見守る静寂の魔境で、カナの独占欲が、魔物以上の脅威となってコウタを縛り上げていく。



飼育の檻、剥離する安寧


「……ねえ、コウタ。見てよ。あの子、まだ生きてるみたい」


崩れ落ちたペットショップの天井から、巨像が放つ重圧が粉塵と共に降り注いでいた。

カナが指差したのは、変質した蔦に絡みつかれた、ひしゃげた檻の一つだ。

中には魔力汚染で異形化した小型の獣が、力なくこちらを見つめている。


「カナ、遊んでる暇はない。……巨像の共鳴が強くなってる。さっさと素材を回収して脱出するぞ」


コウタは【水槍ウォーターランス】を短く生成し、足元の影を警戒した。

疲労がじわじわと脚に溜まるが、巨像の威圧感による精神的な磨耗の方が激しい。

誰も勝てない、あの圧倒的な「正しさ」の巨像に見下ろされているだけで、自分の存在が全否定されているような気分になる。


「逃げるの? ……あんなに強くて、誰も勝てないものの前で、惨めに逃げ出すのね。……まるで、実家に帰りたがってる時のあんたみたい」


カナは笑いながら、【絡め取る残火】を無造作に放った。

黒い影の糸が檻を粉砕し、中の獣を無慈悲に引き摺り出す。

逃げようとする獣の四肢を、カナの「執着」が編み上げた糸が、執拗に締め上げた。


「……っ、カナ! 何を……!」



しつけよ。……この子はね、外に出ちゃいけないの。……誰かに飼われて、愛されて、その代わりに自由を全部差し出さなきゃ。……ねえ、コウタ。あんたも、この子みたいになりたいんでしょ?」


カナが放った影の糸の一部が、獲物を変えてコウタの足首に絡みついた。

それは移動を助けるためのものではなく、彼をこの「魔境」に、そして自分に固定するための錨だった。


「……やめろ、カナ。……巨像が、動き出す……!」


轟音。

巨像の巨大な足首が、わずかに位置を変えただけで、ショップの床が激しく陥没した。

コウタは衝撃で膝を突き、喉の奥から込み上げる魔力の逆流に耐えた。

激痛が全身を走る。

【肉体回帰】 何とか回復で持ち直す。

カナは崩れる瓦礫の中で、恍惚とした表情でコウタを見下ろしていた。


「……いいよ。もう動かなくて。……巨像が全部壊してくれる。……実家も、あんたの記憶も、全部。……残るのは、この檻の中にいる、私とあんただけ」


カナの指先が、コウタの頬に触れる。

その手は震えていた。

圧倒的な強者への恐怖と、それ以上に、コウタを自分の支配下に閉じ込められたことへの歪んだ歓喜に。


「……カナ。……俺を、……離せ」



「……死んでも離さないわよ。……ねえ、コウタ。一緒に飼われようよ。……この地獄で、永遠に」


ドローンのカメラが、崩壊するショップの中で抱き合う二人の異様なシルエットを映し出していた。


瓦礫の隙間から見える空は、巨像の影に覆われて暗く澱んでいる。

それでもカナは、コウタの胸に耳を当て、その鼓動を確かめるように深く息を吸い込んだ。


「……ねえ、コウタ」


掠れた声が、静寂に溶ける。


「もしもずっと、あんたと一緒にいられるなら……こんな檻の中でも、私たち、幸せなのかな」


コウタは答えない。

ただ、彼女の震える指が、彼のシャツをぎゅっと掴む。

その仕草だけで、カナは満足そうに目を細めた。


「……ううん、違う。幸せかどうかなんて、どうでもいいや。……ただ、一緒にいられるだけで、それでいい」

読んでくれてありがとう。作者はマブラブ買って脳がショートしてます。

ここでポイント・コメント・お気に入りを押すと、作者の脳みそに微量の安定剤が注入されます。

もう頭爆発しました。

ちなみに今日の飯はカレー。翌日はカレーうどんです。

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