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ムサシカムイ 〜古墳時代の関東に転生した理系女子がたたら製鉄をしたら、豪族の覇権争いにまきこまれた話〜  作者: 四 二
第一部 第六章 前玉の館

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前玉舎童

木簡の本(冊)を読んでも良いということになったので、しばらくニコニコ顔で通っていたボイだったが、さすがに挿絵もない漢字ばっかりの本を読んでいると、段々息抜きがしたくなる。

ということで、今日はタッコボの家に遊びに行くことにした。


しかし、なんだかここのところ、館の中、人が多い気がする。

まえは、出入り口と主要なところに何人かポツポツと立っているだけだったが、ここのところあちらこちらに立っているのを見かける。

また、縄張りの柵の外にも、いくつか建物ができているのが見える。


なんか、雰囲気が良くないなと思いながら歩いていると、館の外から一頭の馬が突っ込んできた。馬だけかと思ったら、痩せぎすの男が必死にぶら下がって目をぱちぱちさせていた。大串さんである。


「あ、おおく……」

「すみません。マネボ殿、先を急ぐのでっ!!」


そういって、大串さんは館の中央に走っていった。


(忙しいのかな……)


そう思うとボイは、タッコボの家に向かって、足早に歩いた。


――タッコボの家に着いたはいいが、そこにタッコボの姿はなかった。隣の竪穴住居を見ても、誰もいなかった。


「あれ? タッコボがいない……」


付近を見ても誰もいない。いや、正確には誰もいないわけではない。

タッコボの家は縄張りの端っこ、柵の近くにあるので、当然外からも見える。


柵の外に新しく作られている建物の住人だろうか、全然見ない顔の男がじっとこちらを見ている。


ボイはちょっと怖くなって、足早に自分の高床式建物に向かった。




◆◆◆



ボイがそそくさと歩いていると、建物の影に将官っぽい男が二人いてなにやらこそこそ話をしている。意識を向けたわけではないのだが、どうしても意識が向いてしまい、耳に入ってきた。


「いや、まだ早いでしょう、まだ全然力も弱い子供なのですから……」

「しかし、そうもいっておられんのだ……」


何だろう? 自分の事かな? と少し身震いして立ち去ろうとしたが、少し離れたところで懐かしい叫び声が聞こえてきた。


「イテテテッ! 痛てえよっ!」


タッコボの声だっ!


ボイはふらふらと声のする方に吸い寄せられていくと、そこには棒を持つタッコボが、数人のこちらも棒を持った子供たちに囲まれていた。


「「やあっ!!!」」

子供たちが一斉にタッコボに襲い掛かる。


顔を狙われ、それを躱すもすぐに別の子供の突きが腹に一発入る。だが、タッコボも身体だけは大きいので子供に棒で突かれたぐらいでは問題なく耐える。

が、すぐに一斉に突きが来る。こりゃたまらんと、後ろに一歩下がろうとしたところ、横から足の隙間に棒を挟まれ、後ろに転ぶ。

あとは、スイカ割りである。


ばしんばしんばしん。


「イテテテッ! 痛てえよっ! もういいだろ!」


「なにやって……」

とボイがすかさず止めに行こうとしたが、

「「「「姫様、いけません!」」」」

と、男たちが目の前に立ちふさがった。


たしか大串さんがタッコボの配下にってつけてくれた、いつぞやの護衛さんだ。


「あ、護衛さん」


「多古様は、ああやって、子供たちの訓練に協力してくれているのです」


「訓練?」


「そうです。ここは郷の子供をお預かりして、大和言葉や武術を教える、舎という場所なのです」


「ああ、あの学校の?」


「学校? 学校が何かはわからないのですが、きっとそれです」




◆◆◆



その後も、幾度となくタッコボはスイカ割りをされて、あざだらけになっている。でもピンピンしている。よっぽど頑丈なんだろう。そう思いつつも、ボイは少し違和感を覚えた。


これって、実戦想定していない?


子供は弱い。確かに弱い。だが、こうやって集団で武器を取り、一対多に持っていくことができれば、小さな子供達でもいくらかは戦力になる。


「こ、これって……」

「そんなことはありませんよ」

ボイがつい言葉に出してしまいそうになった時、大串さんが隣にいて、言葉をさえぎってきた。


「大串さん! 何時からいました? 全然わかりませんでしたよ」


「ええ。さっきからずっといましたよ。いや、確かに、これは、『そういう場面』を想定してやっています。ですが、さすがに実戦では足手まといですからね。郷や館に賊が踏み込んできたときに、彼ら自身で身を守れるようにするための訓練なのですよ」


「…………」


ボイは、少し言いたいことがあったが、『ここでは口に出すべきではない』と考えて、何も言わなかった。


「それと、先ほどは大変失礼いたしました。麻禰様。火急の用件でした故」


「なんのこと? 急いでたんでしょ。しょうがないよ。ちゃんと急いでますって言ったじゃない」


ボイがそう言うと、大串さんは目をぱちぱちさせている。ボロボロのタッコボはあちこちに痣と擦り傷を作っていた、使用人の女に傷の手当てをされてちょっとデレデレしてやがる。あんなの笹の葉で叩いておけば治る。

ボイは少し不機嫌になり、感情の行き場がなくなったため、大串さんに質問をぶつける。遠くで、男たちが怒声とともに走る音が聞こえる。


「それで、急ぎの用事って何だったの?」


すると、大串さんはいつもの表情がすっと消えて、ボイを真正面に見据えて言った。


「毛野が、前玉(さきたま)に攻めてきます」


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

本作は今後、毎日0:00に更新していく予定です。


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