止められない
結局、朝になってしまった。ボイは昨晩一睡もしていないのに、恐ろしいほどに目がさえてしまい、まったく眠くない。
ただ、じんわりと背中にまとわりつくような粘っこい汗をかいているのを感じていた。
とにかく、ただ、とにかくボイはタッコの郷に向かった。どうしたらよいかが全く分からない。だが、とにかく行かなければならないのだ。
タッコの郷に着くと、鍛冶場に向かう。とにかくタッコボに話してみるのだ。
それしかなかった。
『ねえ、タッコボちょっといい?』
『ああ、ボイか。なんだ?』
ボイは、昨晩考え抜いた『タッコの郷が鉄のせいでバラバラになってしまうという危機』をタッコボに必死に話した。しかし――
『ごめん。まったくわからない。鉄がたくさん作れるのは良いことじゃねえか。たしかに、最近変なやつがたくさん入ってきた。それに、俺らの鍛冶場だけだと追いつかないからって、勝手に鍛冶場を作り始めたやつらがいて、今日親父様が話に行っている。
ただ、鉄を作るのを減らしたり、お前がたくさん預かったりすれば、みんなが今までどおり暮らせるって理屈が、全然わからねぇ。......。うーん。どうしてもわからねえ。わるいな』
『うう……っ』
『おい、どうした、おい!泣くなよ』
ボイはタッコボの胸をポコポコ殴った。
――言語化できない。
昨日、あれほど考え抜いたのだが、ちっとも説明できていない。たしかに、相手はタッコボである。義務教育どころか小学校すら卒業していない。縄文時代のような暮らしをしている、ただの鍛冶場の少年なのだ。
一番の理解者だと思っていた。たしかに、彼はボイの言葉を受け入れようとしてくれている。だが、知識の土台が全く追いついていない。これはもう、どうしようもないことなのだ。
『っぐす......へらせないかなぁ』
『うーん。俺も、ごめんな。なんで減らさなきゃいけないのか、全然わからねえんだよ。みんなに、説明できないんだよ。ごめんな……』
タッコボは優しい。本当に優しい。でも、タッコボにもできることとできないことがあるのだ。
そこへ、新参者たちとの話し合いを終えたタッコルが帰ってきた。手には、綿入れだろうか、ヤマト風の暖かそうな服を持っている。
『いやー。彼らもちゃんと話が分かるやつらだった。使主様にお納めする分は、しっかりとこちらに預けてくれるそうだ。これなら、使主様にも面目が立つ。お、マネボもいたのか、ほれ見てみろ、暖かそうだろう。』
『本当だ、親父殿、よかったな!』
だめだ。
ボイは説明ができない。そして、止められない。どうすることもできない。ボイは絶望のあまり、頭から血の気が引いていくのを感じた。
まさにその時、悪いことというのは重なるものである。
大串さんがいつも以上に青い顔をして大慌てで鍛冶場に転がり込むように走りこんでくるやいなや、馬を止め、手綱を括り付ける時間も惜しみ、悲鳴のような声を上げた。
「小杵がっ!毛野と手を結びっ!再びこの郷を狙っていますっ!!」
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