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ムサシカムイ 〜古墳時代の関東に転生した理系女子がたたら製鉄をしたら、豪族の覇権争いにまきこまれた話〜  作者: 四 二
第一部 第四章 開かれる郷

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プロフェショナル

翌朝。ボイは土掘り衆の様子が気になり、ちょっと覗いてみようとテントの近くまでとことこ歩いて行った。しかし、そこに男たちの姿はなく、女たちと子供たちが朝食の片づけをしているだけだった。

ニッネたちはどうしたんだろうとボイが訝しげに眺めていると、片付けの手を止めて、女たちの代表格と思われる人物が声をかけてきた。


「あれあれ、ワッカムイマ様。おはようございます」

「あ、ああ、おはようございます。ニッネさんたちはどうしたの?」

「ええ、親方たちはもう現場に行きましたよ」


だそうだ。早い、早すぎる。ボイは、土掘り衆のスピード感に改めて驚いていた。

そもそも、昨日からしてそうだ。昨日突然現れた土掘り衆だが、すぐに「これからの段取りについて、ソタイの代表者と話をしておきたい」と言ってきたのだ。


ただ、残念ながら族長のソタイルは現在不在にしている。

ソタイのような内陸にある郷では塩が取れない。そのため、毎年秋に米を収穫して脱穀などの作業を終えると、いかだを作って籾を満載し、川を下って海沿いの郷まで行くのだ。そこで塩や海岸の特産物(乾燥した海藻や干魚など)と交換し、いかだはその場で燃料用の木材として引き取ってもらい、陸路で歩いて帰ってくるのである。

ソタイから海まではかなりの距離があり、道中には盗賊が出没する危険地帯もある。川下り中に大雨でも降ればひとたまりもない、まさに命がけの交易なのだ。したがって、腕に自信のある郷の若者や、ヤマト言葉を使って交渉ができる族長などの男衆が、半月ほど郷を空けているのである。

実は、冬の始まりであるこの時期こそが、内陸の郷にとって一番の『アキレス腱』となるタイミングなのであった。

というわけで、族長の娘であるボイが土掘り衆の相手をせざるを得なかったのである。


さて、その土掘り衆との打ち合わせであるが、さすがに十歳になったばかりのボイが単独で大人たちとの話し合いに臨むのはいささか体裁が悪い。使主への謁見であればタッコの族長の息子であるタッコボを連れて行くところだが、今回はあくまでソタイの郷だけで対応する話だったため、交易に参加せず郷に残っていた年配の男たちを数名、同席させたのである。


彼らはソタイの郷に来る前に、すでに水路の予定地を確認済みだった。あとは正確に測量すれば、一〜二ヶ月ほどで簡単な水路は完成するという。


ただ、実際に掘り始めたあとは人手が必要になるため、郷の男衆を少し貸してほしいとのことだった。また、掘った土は途中の良さげな場所に積み上げておくので、使主から命じられた「前玉への土の搬送」は郷のほうでやっておいてほしい、という段取りである。


ボイが昨日、ぼんやりと干し肉を噛んでいる間にも、彼らはあっという間にすべてを進めていたのだ。

ボイは前世の記憶を思い出した。大学が実家から少し遠かったため一人暮らしを始めたのだが、その時の引越し業者がまさにこのスピード感だった。

凄まじい速さで段ボールをトラックに積み込んであっという間に去っていき、ボイが追いかけるように電車で引越し先に向かうと、すでにアパートの下にトラックが駐まっていた。焦って玄関の鍵を開けると、バタバタバタッと荷物が押し込まれ、部屋で突っ立っていると「邪魔だから端っこにいろ」と言われ、気づいた時にはすべてが終わって完了報告書にサインさせられていた……。

そんな記憶が蘇るほどの、圧倒的な手際である。


そんなことを考えていると、土掘り衆のテントの中から大串さんがのそのそと這い出してきた。そしてボイと目が合うなり、「あッ!!」と焦った顔をして再び天幕(てんと)へ引っ込んでしまった。

昨日の打ち合わせには大串さんも同席していたのだ。十歳であるボイはもちろん遠慮したのだが、そこでは口噛み酒が振る舞われており、大串さんは勧められるがままに飲んで、途中から話し合いに参加せず船を漕いでいたのである。

どうやらそのまま酔い潰れて、今頃起きてきたらしい。


少し経つと、身なりを整えた大串さんがひょこひょこと出てきた。


「あの、ニッネ殿たちは?」


「もう現場だってさ」


「ああっ、もうッ! まただ! まだ、祈祷の儀式とか色々していないのにぃぃ!」


どうやらヤマトでは、土木工事のようなことを始める際、事前に儀式をしてから取りかかる規則になっているらしい。現代の地鎮祭の原型のようなものだろうか。大串さんはもう一度天幕(てんと)に入ると、昨日持ってきた祭具などの荷物を再び馬に括り付け、慌てふためきながら現場へ向かって馬を走らせていった。


その後、少し遅れてボイも現場に行ってみたのだが……そこには異様な光景が広がっていた。


チウラクの郷の近くの都幾川の河原から遥か遠くまで、一直線に草が刈られ、木が切り倒されていたのだ。

さらに等間隔に杭が打たれており、その上には何か印がある板切れが数枚置かれている。少し先で作業しているので目を細めて眺めると杭の間に樋のようなものを置いて水を張り、水平を取っているではないか。


(えっ……あれって、ピラミッドとか造る時に水平をとるのに使ってたやつじゃん……!?)


てっきり「適当に掘り進める筋肉頼りの集団」だと思っていた古代の土木職人たちの、あまりに洗練されたスピードと高度な測量技術に、ボイはただただ驚愕するしかなかったのである。

参考情報:本作は、ボイ達の活動以外は史実から大きく外れない形で組み立てていますが、「土掘り衆」については史実として確認されていない架空の集団です。


ただ、全国に現存する前方後円墳は、縮尺を変えただけで全国津々浦々で全く同じ様式で造られています。そこから、「ヤマト王権の支配の外側に、(まつろわぬ民として)土掘り衆のような専門技術を持った集団がいたのではないか?」という独自の創作を入れさせていただきました。


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