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ムサシカムイ 〜古墳時代の関東に転生した理系女子がたたら製鉄をしたら、豪族の覇権争いにまきこまれた話〜  作者: 四 二
第一部 第四章 開かれる郷

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水路計画

タッコの郷とソタイの郷は、使主の庇護下に入った。課せられたのは、鉄鋌三割の納入と、郷から前玉までの道づくりである。


もともとタッコの郷には鍛冶場があり、野だたらも主にそちら側に作られていた。そのため、鉄鋌の製造はタッコの郷が、道づくりはソタイの郷が中心となって担うことになった。


この時代は、現代と比較して恐ろしく道が整備されていない。郷から前玉までは直線距離で二十キロ程度なのだが、道はくねくねと曲がり、川にまともな橋など架けられているはずもなかった。

タッコの郷やソタイの郷から前玉へ向かう場合、考えられるルートは二つある。

一つ目は、都幾川を下り、越辺川などとの合流地点を越え、荒川と合流したところで上流へと遡り、最後に忍川から前玉を目指す舟運のルート。距離と時間はかかるが、陸上を運ばなくて済むし、船を乗り継ぐ必要もない。

もう一つが、直線的なコースをとる陸路のルートである。しかしこの場合、川に阻まれるたびに渡し舟と陸路を繰り返さねばならず、大量の鉄鋌を運ぶ物流としては不都合極まりない。


ボイは、道づくりのために使主から渡された地図を広げた。現代の高い測量技術をもとに作成された地図ではないため、おおよその位置関係しかわからない。それでもこの時代、地図というものは非常に貴重な軍事機密であり、そうそう貸し出されるものではなかった。


さて、その地図を見て、ボイは一つ考えた。

(都幾川から市野川に水路を作ったらどうだろう?)

前世でこのあたりを車で通りがかった時、農業用水が道路と並行して走っているのを見たことがある。とても平らな土地なのだから、運河を作ってしまえば大幅なショートカットができるではないかと考えたのだ。


ボイはタッコボを連れて、使主が居る前玉の館へと向かった。


「ほう、水路とな」

「はい。ここの都幾川から市野川まで、水路を繋げます。そうすれば、横渟からタッコへ行くのが劇的に楽になります」

「なるほど」

使主は少し思案するように目を伏せると、鷹揚に頷いた。

「よし、問題ない」

「ありがとうございます」

「ただし――」

「ただし?」

「掘り出した土は、すべて前玉に運べ。こちらで買い取ってやる」

「ははっ、ありがとうございます!」


(……なんで土なんか欲しがるんだ? へんなの)

ボイは内心で首を傾げたが、深くは追求しなかった。


「して、ソタイマネボ」

「はい」

「貴様、ワッカムイマと呼ばれ、郷の者たちから崇拝されているらしいな」

「い、いや、それは……」


ワッカムイマ――水の神の御子。いい迷惑である。

確かに、現代の数学や材料工学などの知識があったおかげで、タッコルにピタゴラスの紐を渡したり、この騒動の発端となる野だたらを始めたりはした。でも、その実態は神がかり的な奇跡などではなく、ただの科学的な現象だ。あくまで『数百年後に科学的に証明されること』を、ちょっとフライングで広めているに他ならない。したがって、断じて神なんかではないのだ。


「自分では認めておらんのか」

「はい」

「……名乗っても構わんぞ」

「は?」

「まあ、それ相応の『覚悟』があればの話だがな。――この話は終わりだ、帰っていいぞ」

「……はっ」


前玉の館からの帰り道。横を歩くタッコボが、肘でつつくように話しかけてきた。


『なあ、使主さま、お前のことワッカムイマとか言っていなかったか?』

『言ってたけど』

ボイは少し不機嫌に答えた。

『やるの? 神の御子』

『やらないよ』

『……そうか』

タッコボはそれ以上何も言わず、前玉の空を見上げた。


冬の訪れを感じさせる、少しひんやりとした風が、火照った頬を撫でていった。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


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