御陵の館にて
都幾川を越えた先の丘陵地に、その異様な建造物群は姿を現す。
背後にそびえるのは、周辺の郷から役として多くの者がかり出され、酷使され、何万杯もの土を盛らされて築き上げた巨大な前方後円墳――のちに『将軍塚』と呼ばれることになる大墓である。
その威圧的な人工の山を背負うようにして陣取っているのが、小杵一族の本拠地『御陵の館』であった。
タッコの郷のような、地面を掘り下げた簡素な竪穴式住居の集落とは、規模も作りも根本的に異なっている。
館の周囲は、先端を鋭く削った太い丸太を隙間なく並べた防柵でぐるりと厳重に囲まれており、正面には見上げるような立派な正門が構えられ、ヤマト風の恰好をした門番たちが目を光らせている。
なお、身分の低い者や雑務での出入りには正門を開けることすら許されず、その脇にくり抜かれた小さな『潜り戸』を使わされていた。
防柵の奥、敷地の中央にふんぞり返るように鎮座しているのは、太い柱に支えられた巨大な高床式の建造物である。
高くそびえる葦葺きの屋根には、ヤマトの様式を真似たであろう立派な千木が交差して天を突き刺し、「我らこそが大王の代理人である」という成金的な自己主張を周囲に撒き散らしていた。
だが、どんなにヤマトの最先端の建築様式を取り入れようと、周囲を囲む深い森と、どこか今一つ垢ぬけない兵士たちとの間には、どうしようもないチグハグさが悲しいほどコミカルに漂っている。
それはまさに、同胞を売って中央の権力にすり寄ることで手に入れた、歪な権威の象徴であった。
潜り戸の先で、ソタイルは両膝をつき、額を地面に強くこすりつけていた。
持参した『鉄鋌』は、頭の先に用意された台の上に置かれている。
これが、定めの貢物を納める際の、屈辱的な作法なのである。
「……」
ソタイルは一言も話さない。身分卑しき者が、自分から声を出すことなど許されていないのだ。
通常であれば、館の者が無言で貢物を回収し、姿が見えなくなってから潜り戸を抜けて静かに退場するのが作法である。だが、今回は少し様子が違った。
「こちらに参れ。小杵殿がお呼びだ」
「ははっ」
ソタイルは、高床式の建造物の前へと移動させられ、むしろ一つ敷かれていないむき出しの地面に、先ほどと同様の格好で平伏させられた。
「ソタイの」
「はっ」
当主である小杵が、土着の郷の者に直接声をかけるなど異例のことである。
「これはなんだ?」
小杵は、ソタイルが持参した鉄鋌を手に取り、ねっとりとした声で問いかけた。
「なぜ、土着の民にすぎぬ貴様らが、大王から賜るはずの鉄鋌を持っている? これはどこから盗み出したものだ?」
「いえ、決して盗んだものではございません」
「では、なぜ持っておるのだ」
ボイが興味本位で実現してしまった『たたら製鉄』の技術は、当然ながら当時の日本には存在しない。タッコボが打ち上げたこの鉄鋌は、本来ならばヤマト王権に恭順した有力な豪族にのみ、大王から下賜される権威の象徴であった。
さらに言えば、ヤマト王権自体も鉄鋌を国内で製造することはできず、すべて朝鮮半島からの輸入に頼っていたのである。それを、辺境の村人がポンと出してきたのだ。小杵が目の色を変えるのも無理はなかった。
「郷で、作りました」
「ほう……」
小杵の目が、貪欲に怪しく光った。
「ならば、今後は貴様らが作った鉄はすべてワシに貢げ」
「それでは、私共の郷の分が……」
「ん?」
「……いえ、なんでもございません」
「それと、鉄づくりには、貴殿の娘が関与していると聞いたが」
「そ、それは……」
「貴殿の娘を、側女として差し出せ」
「え?」
「たしか、もう数えで十になるのではないか? そろそろよいであろう。側女の儀は三日後の太陽が一番高い時、都幾川の岸にて行う。……以上だ」
「は……」
圧倒的な武力と権威の前に、ソタイルは拒絶することすらできなかった。
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