第48話【反逆-3】微笑みに、愛を込めて〜10日目の夜明け〜
「アリア!!!」
セシルが血相を変えて飛び出し、崩れ落ちるアリアを抱きとめる。
アリアの口の端から、一筋の赤い血がこぼれた。
「くそっ……!」
ハルカが剣を構えて二人の前に立つ。
セシルは震える手で、矢を抜こうとするが弾かれる。力を込めるとアリアの肉ごと持っていきそうに絡みついている。セシルはすぐにアリアの傷口へ力を流そうとする。金紫の光が、彼の掌から溢れた。だが、届かない。光はアリアの身体へ入る前に、胸を貫く銀の矢へ吸い込まれていく。
「なんでだよ……!」
もう一度。さらに強く。
それでも、矢はセシルの力を奪い、アリアへ届かせなかった。
「せし、る……」
アリアの唇から、小さな吐息がこぼれる。セシルの顔が歪む。
「喋るな。今、止める。絶対に止めるから」
アリアは、自分の中の力という力が抜け落ちていくのを感じた。
そして、霞む視界の中でセシルを見た。
これまでの旅路が、浮かんでは消えていく。
雨の匂い。
焚き火の温かさ。
読み続けた本。
そこに書かれていた言葉たち。
ハルカの笑い声。
セシルの不器用な手。
怖かったこと。
苦しかったこと。
それでも、楽しかったこと。嬉しかったこと。
そして、
恋をしたこと。
あなたを選ぶことで、自由になれた。
あなたが、私を、自由にしてくれた。
私の、初めての恋人。
「せ、しる……ありが……と……」
何度も助けてくれたね。
初めて出会った時、
魔獣に襲われた時、
貴族の館でも、
いつでも…
いつでもアリアの前に立った、セシルの背中が思い出される。
心の中のセシルが、振り返って、不敵に微笑んだ。
(あぁ。私にも、守りたいものができたのね…)
アリアは手を伸ばした。
そしてセシルに向かって笑ってみせた。
その手に光が宿る。
「…だめだ!やめろ!アリアやめるんだ!!」
(これで、いいの。)
アリアの指先から、小さな灯火がふわりと生まれ、セシルの頬に染み込んでいった。
(大好きだよ)
アリアは微笑んだ。
それは、本当に小さな微笑みだった。
けれど、暗闇の中で最後に散る花のように、儚く、綺麗だった。
(大好きだよ、セシル)
その微笑みの中に、全ての思いが込められていた。
伸ばしていた腕が、力を失う。
ぱたり。
細い手が、セシルの腕の外へ落ちた。
そして。
瞳から、光が消えた。
「「「アリア!!!!」」」
悲痛な叫びが、雨の降る謁見の間に重なった。
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