第43話【愛誓】金紫の聖雷と、繋がれた魂。〜10日目の境界線:理性を焦がす、真の番契約〜
「きゃっ!?」
突然視界が開け、アリアは思わずセシルの首に腕を回してしがみついた。
二人が出たのは、廃教会の最奥。
かつて神聖な祈りが捧げられていた、崩れかけの大祭壇の前だった。
天井のステンドグラスは半分以上が砕け落ちており、そこから吹き込む激しい雨粒が、冷たい石の床を濡らしている。
けれど、奇跡のように。
分厚い雨雲の切れ間から、蒼く澄んだ月明かりが一筋、祭壇の中央だけをスポットライトのように美しく照らし出していた。
セシルは祭壇の前に立つと、片手でアリアを抱き抱えたまま、もう片方の手で自分の軍服の肩口にあった銀の留め具を外した。
バサリ、と。
分厚く、上等な生地で作られた漆黒の軍用マントが、冷たい石の祭壇の上に丁寧に敷き詰められる。
セシルは、その黒いマントの上に、ガラス細工を扱うような手つきでアリアをそっと寝かせた。
「セシル……」
冷たい石の感触は全くなく、背中にはセシルの体温と、彼がいつも纏っている雨上がりのような香りが残っていた。
「ここなら、誰にも邪魔されねぇし、ホコリもねぇだろ」
セシルが、アリアの上に覆い被さるようにして手をつく。
月明かりを背にした彼の顔は影になっていたが、その紫の瞳だけが、暗闇の中で獲物を射抜くように妖しく、そしてひどく優しく光っていた。
「……痛くしないように、努力はする。なるべく優しくしてやる」
セシルの大きな手が、アリアのハチミツ色の髪を梳き、震える頬を撫でる。
「……でも、泣いてももう逃がさねぇぞ」
アリアは、コクリと頷いた。
怖くなかった。サーネルカに首を絞められた時の恐怖や、見知らぬ大人たちに運命を決められる時の息苦しさは、微塵もない。
私は今、この人を選んだのだ。
「うん……逃げないよ。私を、セシルの番にして」
その言葉が、最後の鍵となった。
再び重なった唇は、もう後戻りのできない深い契約の始まりだった。
――擦れの音。熱い吐息。
肌と肌が直接触れ合い、セシルの魔力が、アリアの身体の奥底へと流れ込んでくる。
「……っ、ぁっ……!」
刻印を打たれるような鋭い熱と快感がアリアの背筋を駆け抜け、彼女の口から甘い悲鳴がこぼれた。
痛い、けれど、それ以上に満たされていく。
二人が完全に結ばれた瞬間。
廃教会の祭壇を、目も眩むような強烈な光が包み込んだ。
セシルの身体から溢れ出した、圧倒的な破壊力を持つ「青白い雷」。
それに呼応するように、アリアの身体の奥底から、無尽蔵の「ハチミツ色の聖力」がぶわりと溢れ出す。
青と金が混ざり合い、この世のものとは思えないほど美しい『金紫の聖雷』となって、祭壇の周囲を神々しく照らし出す。それは互いを溶け合わせるように混ざり合い、二人の肌を眩い光のヴェールとなって包み込んだ。
「……アリア」
汗ばんだ額をくっつけたまま、セシルが低く呟く。
繋がった身体の奥底から、アリアの聖力がセシルの魔力回路へと怒涛の勢いで流れ込んでいた。
それは一方的な「搾取」ではない。セシルの魔力もまた、アリアを包み込み、あらゆる外敵から隠蔽し、守るための強固な盾となって還元されている。
互いが互いを高め合うように肌が触れ合う。
「あ、はぁっ……セシル、っ……!」
「はぁ、くそ! もっとだ……アリアっ、もっと……!」
セシルの熱が放たれ、アリアのおへその下に、淡く光を放つ『金色の紋章』が浮かび上がる。
月桂樹の葉が丸く連なるように、おへそを優しく囲んだ。
そしてセシルの首。
脈打つ太い血管の上に、鮮烈な『赤い花の紋章』が燃えるように刻まれていった。
「……いいじゃん、これ」
彼は荒い息を吐きながらも、アリアに浮かんだ金色の印を指先でなぞる。
「は、、、はぁ、おわ、終わったの?」
そして目がぎらりと光った。
「いいや? まだだ」
―――――嘘だった。
深く刻まれた番の証を確かめ合うように、再び熱い口づけが降ってくる。
「……!」
何もかもが初めてで、ただセシルの熱に包まれていた。
そこから先は、セシルの深い愛情と魔力に溺れるような、甘く蕩ける時間だった。
■■■
雨音はまだ止まない。
アリアはセシルの上に寝転がり、脱力しきっていた。
胸に頬を寄せると、セシルの心臓の音が聞こえてくる。
「……もう、渡さない」
「……どこに?」
「どこにも。誰にも」
セシルはそれ以上は、何も言わなかった。
ぐったりとしたアリアを強く、壊さないように抱き寄せた。
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