表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デメキン姫と呼ばれた聖女、今日も華麗に逃げ出します! 〜最凶魔術師にいじめられてた私が、なぜか番契約で溺愛されて国へのざまぁも始まりました〜  作者: みょんたま
後編 / 帝都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/56

 第41話【愛の告白】「時に男は」〜9日目の深夜:風の魔術師の失恋と、情けない雷魔術師〜

 地下通路を抜け、土砂降りの雨に打たれながら辿り着いたのは、王宮裏手のひっそりとした廃教会だった。


「ここで別れよう」


 ハルカは、雨に濡れた黒髪を払いながら言った。


「僕は一人なら、風に乗って走れる。三人で動くより、その方が追手を撒きやすい」

「……ふざけんな」


 セシルの声が低くなる。


「お前、最初からそのつもりだったな」

「まあね」


 ハルカは少しだけ笑った。


「僕が追手を引きつける。撒いたら、一度身を隠すよ。船は三時間後、旧港の第三船着場から出る」


 アリアは息を呑んだ。


「ハルカは……?」

「間に合えば、そこで合流する」

「間に合わなかったら?」


 ハルカは、ほんの一瞬だけ黙った。

 けれど次には、いつものように柔らかく笑う。


「その時は、先に乗って」

「そんな……!」

「大丈夫、必ずノヴァリアで会おう」


 ハルカの声は、どこまでも優しかった。


「君は今、『逃げる』って自分で決めたんだろう? なら、止まらないで」


 アリアの胸が痛む。

 ハルカは、廃教会の奥にあった狭い『懺悔室』の古い扉を開け、アリアをそっと中に押し込んだ。

 そして、入り口に立つセシルへ視線を移す。


「セシル」

「……なんだよ」


 ハルカは、困ったような、けれどひどく優しい顔でふっと笑った。


「セシル、こんな時に言うのもアレだけどね。君の気持ちはよーーーく! 誰よりも僕が分かってるつもりだよ?」

「……ッ!」


 唐突に図星を突かれ、セシルの肩がビクッと跳ねる。

 ハルカは人差し指を立てて、わざとらしくウィンクをして見せた。


「でもね。時に男はだね、言葉にしてちゃんと言わないといけない時があるってことを、僕はこれまで君に態度で教えてきたつもりなんだ。……理解してくれるね?」


 セシルは耳まで真っ赤にしてギリッと歯を食いしばり、顔を背けた。


「君がぼやぼやしているなら、僕がアリアちゃんと残って、アリアちゃんをもらっちゃうけど、いいのかい?」


 セシルの顔色が変わる。指先に、ぱちりと青白い火花が散った。

 ハルカは心の中で、自嘲気味に小さく笑った。


(……本当にもらえたら、どんなに良かったか)


 実は結構、本気だったのだ。

 ノヴァリアへ行く船を手配しながら、あわよくば彼女と二人で、なんて甘い夢を見なかったわけじゃない。言葉や態度で、それとなく仕掛けてきたつもりだ。


 けれど、この過酷な逃亡劇の中で、ハルカは嫌でも気づかされていた。

 アリアが本当に心細い時、その視線が無意識に探すのは、いつだって不器用な雷の魔術師だった。彼と口喧嘩をしている時のアリアが、一番生き生きとして、普通の女の子の顔をしているのだと。

 

 そして自分自身が、セシルほどの気持ちがあるか、「喉から手が出るほど彼女がほしいか」と聞かれたら、それはまた、違うと言う事。


(告白もしてないのに、すっかりフラれちゃった気分だなぁ……)


 だからこそ、目を覚まさせる必要があった。僕の大切な女の子を任せるんだから、そのくらい必死になってもらわないと困る。


「…………ッ、うるせぇ!」

「あはは、良い返事だ」


 そこで、ハルカはスッと真顔になった。

 雨音が、壊れた廃教会の屋根を激しく叩く。


「アリアちゃんを、サーネルカに奪わせるな。……だけど、君も奪うな」


 ハルカの空色の瞳が、セシルを真っ直ぐに射抜く。


「言葉にして、選ばせろ」


 セシルは答えなかった。

 ただ、不器用な手が、懺悔室の扉の枠を強く握りしめる。

 ハルカは満足したように息を吐いた。


「ここに隠れて。追手は僕が引き受ける」

「ハルカ!」

「大丈夫」


 彼はアリアに向かって、人差し指を唇に当てた。


「会えなければ、ノヴァリアで」


 そして、次の瞬間。

 ハルカの足元で爆発的な風が弾けた。黒い軍服の裾が翻り、彼は雨の夜へと矢のように飛び出していく。


「いたぞ!」

「黒髪の男だ! 魔塔の従卒だ、追え!」


 外から追手たちの怒号が響き、無数の軍靴の音が一斉にハルカの方向へと遠ざかっていく。

 ハルカは、アリアとセシルを残して、嵐の夜へ消えた。


 ■■■


 狭く、埃っぽい懺悔室の中。

 大人が二人入るにはあまりに狭いその空間で、アリアはセシルの胸にすっぽりと閉じ込められる形になっていた。

 外の雨音に混じって、セシルの早鐘のような心音が聞こえる。


「……行っちゃった」


 アリアが震える声で呟くと、セシルがギリッと奥歯を噛む音がした。


「あいつは死なねぇよ。しぶとさだけは俺より上だ」


 暗闇の中、セシルの荒い呼吸がアリアの髪を揺らす。

 ハルカの言葉が、重くのしかかっていた。


『時に男はだね、言葉にして言わないといけない時がある』

『奪うな。選ばせろ』


 ハルカに散々釘を刺された通り、自分の言葉で伝えなければならない。


「……アリア」


 セシルの声は、抑えきれない熱と極度の緊張で掠れていた。

 暗闇の中で、セシルの大きな手が、壊れ物に触れるようにアリアの頬を包み込む。


「俺は、お前をあんな蛇野郎に絶対に渡さない。……渡したくない」

「……」

「俺はお前が……っ、」


 セシルは一度言葉を詰まらせ、暗闇の中でギュッと目を瞑った。


「俺は、お前が好きだ」


 セシルは、今まで見たことないくらい、情けない顔をしていた。

 何かに怖がっているようで、それでいて、何かに挑んでいるような。

 いつも強引で、不遜で、無敵の雷魔術師が、たった一人の少女の答えを前にして、震えるほど臆病になっている。


「俺の番になってほしい」

リアクションや、☆☆☆☆☆を★★★★★に変えていただけると、執筆の励みになります^^

感想、ご指摘、ブクマも大歓迎です!

毎日21時頃更新予定です。完結約束、ハッピーエンドです(^ ^)

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ