幕間:ノヴァリアの異端児たち
同日夜明け前。
帝都ゼノスレガリアでは、速報の号外が次々と刷られていた。
「黎明の御子アリア、王弟殿下の領地を魔獣から救う!」
「ゼノスレガリア魔道騎士団の若手二人、魔獣を倒す!その素顔とは!」
「北部前線では、未だ魔獣が荒れ狂う――」
数時間後。
帝都ゼノスレガリア。
皇室経営の高級ホテル。
貴賓のみが立ち入りを許される豪奢なバルコニーで、小洒落たグレーのスーツを着込んだ青年が、眼鏡を押し上げながら新聞を読んでいた。
細身ながらも筋肉質な体躯。スーツは彼の体にひどく馴染んでいたが、未だこの帝国には流通していない最新の仕立てであるため、周囲の貴族たちからは少し浮いて見えた。
『……『黎明の御子、アリア・ブランシュ・メイフィールド嬢、近日帝都入り』、だそうです』
『見せてくれ』
グレーのスーツの青年の前でコーヒーを飲んでいた男が、ゆっくりと腰を上げた。 青年の横に立ち、新聞を覗き込む。彼もまた、周囲とは違う洗練されたデザインのスーツを着こなしていた。 知的な眼鏡の奥で、グリーンの瞳が面白そうに輝いている。
『へぇ。この国の新聞は、挿絵も下手くそなんだなぁ。実物とは大違いだ』
『彼女を知ってるのですか?』
『ほら、通訳のくせに船に乗り遅れた誰かさんの代わりに、街で僕を助けてくれた子さ』
『あぁ、あの子か。……悪かったって言ってるじゃないですか。でも、相手は少女だと言ってませんでした? この下手くそな挿絵では、随分とグラマラスな大人の女性に見えますが』
青年の呆れたような言葉に、グリーンの瞳の男はふっと息で笑った。
『少女、さ。それも知的で、ひどく聡明なね。……僕には、彼女の両脇を固めていたこの護衛の二人が、まるで彼女を縛る『手錠』のように見えたのさ』
眼鏡の奥で、瞳が宝石のように鋭く光る。
『……僕はこの国の、バカみたいな制度にほとほと嫌気が差している』
『同感ですね』
先進国たるノヴァリアの人間にとって、聖力保持者を閉じ込めるエデンも、人の自由を奪う強制的な『番制度』も、野蛮な法律でしかなかったのだ。
『ふむ。近日、帝都入り。ねぇ…』
もう一度座り直して、コーヒーを飲み、帝都を眺めた。
朝日が登り、街には人々が歩き、活気を見せ始め、その向こうに魔塔が聳え立ち、さらに向こうには皇宮が構える。
『この古の都が、変わらないのなら、さもありなん。ってね。』
『…やめてくださいよ。大っぴらに動くのは。』
『ふふ。わかってるさ。』
飲み掛けのコーヒーをテーブルに置き、商人たちは立ち上がった。
テーブルには、コーヒーカップと、美しい女性が微笑みながら高らかに歌う新聞だけが残されていた。
後編へ、続く。
「今から言うことは、本当のことだよ。すごく、綺麗だ。」
アリアは真紅のドレスに身を包み、華麗に着飾った。
——帝都編、開幕。
いよいよ後編に続きます。後編では帝都編ですが、旅路編と違って、人、思惑が複雑に絡み合いながら、恋愛が表面化していきます。
どこかに処女作は短編からって書いてあったのに、思いっくそ長編になっちゃって、自分でびっくりしてます。こんな物語があればいいのにと、頭の中で妄想していた世界を解き放つのがとても楽しいです。
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