第83話 森の奥
帰り道。
行きに通った、あの開けた土地まで戻ってきた。
「ここで少し休憩じゃ」
ルーヴァがそう言うと、生徒たちは思い思いに腰を下ろした。水筒を出す者、寝転がる者。
レイは立ったまま、道の南側を見ていた。
背の高い草の向こうに、森が続いている。木が重なって、奥は見通せない。
耳を澄ますと、その奥から、かすかに水の音がした。
(滝、かな)
(……あっちは、どうなってるんだろう)
そう思って、歩き出す。
数歩進んだ時
ばち。
指先で、紫電が一度だけ弾けた。
「……あれ?」
(どうしたんだろう)
レイは、背の高い草をかき分けて、森へ入った。
水の音が、少しずつ近づいてくる。
思ったより、すぐだった。木の間を縫って進むにつれ、木々の向こうが少しずつ明るくなっていく。
そして
「……わあ」
思わず、声が出た。
森が、ぽっかりと開けていた。
背の高い木々が、柵のように周囲を囲んでいる。
左手の奥で、黒く濡れた岩肌から、白い滝が、しぶきを上げて流れ落ちていた。小さな滝壺からあふれた水が、小川になって、木々のあいだを抜けていく。
(さっき、川から見えた滝だ)
瞑想のとき、遠くでずっと鳴っていた音。やっぱり、これだったんだ。
足を踏み出すと、じゃり、と鳴った。土に白っぽい小石が混じっている。角の取れた、丸い石。さっき川底で見たのと、同じだ。
草は足首ほどの丈で、斑に残っている。けれど中央のあたりだけは草がなく、土がむき出しのまま、踏み固められたようになっていた。
風が吹き抜ける。
(すごく心地がいい)
滝の音が、あたりを包んでいた。生徒たちの声も、ここまでは届かない。振り返っても、木々に遮られて道は見えない。そこまで遠くないのに、ここからは何も見えない。
奥は、土の見えた低い斜面になっていた。斜面の上へ、道のようなものが一本、細く延びている。獣道かもしれない。
(……今日は、やめとこう)
草地の広さを、目で測る。走るにも、木刀を振るにも十分だった。今の訓練場より、たぶん広い。
ただ、滝の音で、ほかの音が少し聞こえにくい。
(あ、ここで朝練をしてから学舎に行くのも良いかもしれない。今度、みんなに聞いてみよう)
そこまで考えて、はっとする。
(あ、帰らないと)
慌てて、来た道を戻った。
草をかき分けて道へ出た途端、生徒たちの声が聞こえてきた。
「休憩終わりじゃ。帰るぞ」
ちょうど、ルーヴァが呼びかけたところだった。
「どこ行ってたんだよ」
隣に並んだサクが、レイの袖についた草の種をつまんで払う。
「ちょっと、その辺」
とっさに、そう答えてしまった。
なぜ言わなかったのか、自分でもよく分からないまま、レイは列に戻った。
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