新たな敵、新たな力3☆
ついさっきロマリーに向かう途中でやらかしたと思いましたが、一日のうちに二回ですか……。
まあ、起きてしまったものは仕方ありません。今回も再発防止のための原因分析を始めましょう。
今回の死因:つり荷の落下に巻き込まれての圧死。
この件について、今回も人的、物的、管理的要因の三つの視点から見ていきましょう。
まずは人的要因。第一に挙げられるのが、前回と同様にリスクを過小評価したことでしょう。
以前、理人さんの性格を「一つのことに集中すると他が見えなくなるタイプと評したことがあります」が、今回の場合は少し事情が異なります。災害発生直前、理人さんは頭上の状況=壊れた柱の残骸が鎖で吊られているという状況を確認していました。加えて、それが落ちてくるかもしれないという危険予測も今回は出来ていました。つまり、今回は目の前の問題以外も見えていたのです。
しかしその上で、倒れている鍛冶屋さんの下に急行することを優先し、吊られた柱の下を通るという選択をしてしまっています。
心情としてはおかしいとも言えませんし、道義的視点で見れば「倒れている人を発見した時、何にも優先して安否を確認する」という姿勢事態を批判することは出来ません。
ですが同時に「救助者の安全確保が優先される」ということも覚えておくべきでしょう。
倒れている人の下に一刻も早く駆け付けたいという思いは立派ですが、今回のような二次災害を避けるためにも、一呼吸おいて周囲の安全を確認してから行動に移すべきです。
人命救助を前に自らの身の安全を確保するというのは決して不誠実なことではありません。それどころか、その救助者が第一発見者の場合、万が一二次災害に巻き込まれた場合には被災者も救助者も手遅れに可能性が非常に高いということは忘れないようにしましょう。
そして災害の人的要因の視点で見れば、彼の行動は安全確認を省略したということになります。被災者の下に駆け寄ることを優先したというのは、言い方を変えればつまり「『急いでいたから』という理由での安全確認の省略」になります。
また――結局は立ち止まってしまいましたが――急いで駆け抜ければ大丈夫という考えも災害の原因と言っていいでしょう。
今回彼が異音に気を取られて立ち止まってしまったように、実際の現場には予想できない事態は常に発生します。
「不安全行動をしても自分の能力でリカバーすれば大丈夫」という考えは、リスクの過小評価に他なりません。
次に物的要因ですが、これは柱が吊られたままで放置されていたということでしょう。
当たり前の話ですが、重力の影響のある場所では上から下へ物が落ちます。つまり、吊られているものは落ちるという事です。また、吊っている鎖が切れる可能性についても考慮するべきでした。もし仮に鎖が切れなかったとして、何らかの要因で揺れが発生して吊り荷が落下したり、玉掛の状態が悪く、荷が落下する可能性は十分にあります。特に吊り角度が大きくなるようなものの場合、より切れやすくなります。
物を吊った状態で放置されていたというのは、まさしく危険な状態を放置していたということに他なりません。
「吊られているものは落ちる、積み上げられたものは崩れる」という認識をもって対策するべきでしょう。
人為的にものを吊り上げる必要があった場合、その必要が満たされた場合は速やかに安全な場所に吊り荷を下ろしておくべきです。
また、今回の様に普段人が立ち入らない場所で、それを下ろすことが難しい場合、物理的に立ち入りを制限する措置も必要でしょう。
続いて管理的要因ですが、これには吊り荷の下に立ち入らないという警告が不十分だったという点が挙げられます。
工事現場などで見かけることもあると思いますが、クレーンやデリックの設置されている場所ではよく注意喚起の掲示がされています。
また、進入禁止エリアを明確に表示していなかったことも、事故の起こりやすい環境であったと言えます。
吊り荷の真下は無論の事、風や地震――今回はその可能性はないと思いますが――吊り荷の移動の際に生じる揺れは荷崩れによる落下の範囲を大きく広げます。
こうした点を考慮し、物を吊り上げている場合、或いは吊り上げて作業をしている場合、必ず周囲の人払いを徹底する必要があります。
それでは、こうした点を考慮して、今回もより安全な方法、安全な環境で彼にやり直させましょう。それでは、ご安全に!
(つづく)
今日は短め
続きは明日に




