新たな敵、新たな力4
「気を付けて、何があるか分からない」
その言葉を聞きながら、奥へと一歩ずつ進んでいく。
柱の間を抜け、他の柱からこちらを見ていたり飛び出してくる者がいないか、常に意識を向け続ける。
距離にすれば、およそ20~30メートル程度だろうか。幸いにも襲撃するものはなにもいなかったが、リンの言う気配というものが分からない俺にも、この空間の雰囲気は非常に居心地が悪く感じる。
いわゆる心霊スポットと呼ばれるものも、実際に行ってみたらこんな感じなのだろうか。
奥に行くほど柱の状態が悪化しており、途中でなくなっているものや、完全に倒壊しているものが増えてくるのも、また居心地の悪さに一役買っているような気がした。
リンが不意に声を上げたのは、その居心地の悪い空間を奥へ奥へと進んでいくところでだった。
「ッ!!?ねえ、あれ!!」
彼女の指さす先=正面の途中で折れた柱の向こう。おそらくここの一番奥なのだろう、やや高くなった祭壇のようなもの前に、人が倒れている。
「あれ、鍛冶屋さんじゃ……!?」
「きっとそうだ!行こう!」
正面の柱と柱の間を抜けて一直線。
沢山の人魂のような光が照らし出しているその壊れかけた柱は、柱同士を繋ぐ鎖によって吊られるような形で、二つの柱の間に浮いている。
そしてその手前に張り巡らされた太い鎖。そこに掛けられた「立入禁止」の表示と相まって、その道を通るべきではないというのが明確に伝わってくる。
加えて、その鎖の手前からでもはっきりとわかる光景=今にも切れそうな鎖だけで吊られた巨大な柱。
落ちて来るかも―もしそうなれば、倒れている鍛冶屋らしき人物を救出する以前の問題だ。誰かを助けに行って自分が死んでは笑い話にもならない。
「他に道は……」
幸い、すぐに求めているものは見つかった。
鎖で封鎖された道を右に。その吊られている柱の残骸を迂回するように向こうへと続く迂回ルートを駆ける。
柱と柱の間を抜けてやってきたのは、そうした柱のない広い空間。
その真ん中に倒れている人物と、それより奥の一段高くなった場所に佇んでいる人影が一つ。
「ほう……」
その人影は、新たに現れた侵入者の方に目を向けると、人魂のように周囲に浮かぶ火に照らされた青白い顔に一瞬だけ驚きの表情を浮かべた。
「間に合わなかったか……まあいい」
何の話かは分からないが、間違いなくまともな存在ではない。特別鋭い方ではない俺でも、第六感というものが働くことがある。
目の前の人影=ボロボロのローブを纏い、青白い顔に周囲の火の玉がそこに埋まっているかのようにギラギラと光を発し続ける二つの目。
そして何より、目の前に倒れている人間に対して一切の反応を示さないその態度と、その不安を掻き立てる笑み。
「……気を付けてリヒト」
同じ感想を抱いたのだろうリンが、硬い声を漏らす。
「今までの気配の正体、多分こいつだ」
「ッ!!」
その一言に、俺は改めて相手の方を見る。
奴に聞こえていたのかは分からない。だが、どちらにせよコミュニケーションをとるつもりはなさそうだ。
「ふん……聖剣の方からこちらに来たか。いずれ見つけ出して破壊しようと思っていたが……まあいい。探す手間が省けた」
ビクン、と隣でリンが身を震わせた。
聞き間違いではない。間違いなく目の前のローブの人物は聖剣を見つけ出して破壊しようとしていたと語った。
「聖剣を破壊……だと?」
それが事実なら、奴ははっきりと敵だ。
そしてそれを俺が理解したとみると、奴はひらりと両手を広げておどけて見せた――当然、打ち解けようという意思は全く感じられない。
「おっとっと、今君たちとやりあうつもりはない。私は君のような冒険者とは違うのでね」
その言葉にはリンが先に反応した
「あなたは何者だ」
曖昧な答えは許さないー―はっきりとそう感じる声。
考えてみれば当然だ、聖剣の破壊とは、詰まるところその精霊である彼女を害することを意味している。
「何者……?そうだな……、まあ、何者でもよかろう?」
奴は肩をすくめ、それから引き裂いたように不気味に笑みを浮かべる。
「生憎私には君たちとやりあう前に色々準備が必要でね。これで失礼させてもらう。それに……」
そこで、俺にも感じとれる強い気配が背後から現れた――金属同士が立てるカチャカチャという音と共に。
「ッ!!」
反射的に振り向いた先。先程の柱の残骸が吊られた場所よりこちら側。柱の根元にぐるりと巻き付くように設置された沢山の棺から崩れてきたのだろう白骨を踏み越えて現れた、2mに達しようかという背丈の鎧。
「こいつは……ッ!!」
かなり古いものであることはそのボロボロの見た目でわかるが、それよりも更に目に付くのは、奴の首から上が存在しないということ。
そして、にも関わらず、まるで人間の様にこちらに向けて歩み寄り、その手には長大な身長と同じほどの巨大な剣を携えている。
「デュラハン……ッ!」
当然ながら、初めてみるモンスター。
明確に危険とわかるその姿に目を奪われていたのは、おそらく数秒もないだろう。
「さて、私はこれで失礼するよ」
「ッ!!」
背後からのその声に反射的に目を向けると、ローブの男の足元では複雑な魔法陣が蛍光塗料のように光を発していた。
「……そいつらを消せ」
そしてその一言だけを残し、光に包まれて消えていった。
それが誰に対して向けられた言葉なのか、そして“そいつら”が誰と誰を意味しているのか――そんなことは、考えるまでもなかった。
(つづく)
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