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97.花咲く祭りの狂奏曲 ④

前回のあらすじ:予期しないところで知り合いと出会うとめっちゃ気まずい。

※しばらくサム視点になります。


 その頃、廃墟では黒衣の人達とサムがいた。子ども達がいなくなり、屋敷全体に掛かっていた魔法が解けて諦めがついたのか、それとも裏口付近から広がる煙に危険を感じたのか、バラバラと帰っていく。おそらく彼らの多くは、魔術に傾倒しているだけの一般人。袖口から見える服の装飾やつけている指輪からしてある程度は余裕のある暮らしができているようだ。


(なるほど。神様に祈るにも金と時間がいるってことだ)


 魔法のことはさっぱりなサムだが、「魔女」とか「魔法使い」と呼ばれる人達が夜な夜な集会を開いているという噂を聞いたことはあった。彼らもその類いなのだろう。


 同じ魔法を使う人間でも職業として領主の元で働いたりギルドを結成したりする「魔術師」と非公認で活動する「魔女」は別物。さらには秘密裏に儀式や集会を行う者達が「魔女」とは限らないのだが、サムを始め大多数の人々には区別のつかないものである。


(盗賊ギルドとしては厄介だろうな、探りを入れておきたい気持ちも分からんではない)


 「魔女」の集会を野放しにしたとなれば礼拝所に仲間と認識される可能性が高くなるし、薬や武器の闇ルートが把握しきれなくなる危険性もある。武器の流通を管理する、それがスラムと化したロッジ地区の治安をギリギリのところで維持する手段だ。多くの住民はそれを理解しているからこそ彼らにギルドに金を払い、言うことを聞く。


 逆に言えばギルドで管理ができなくなった時点で均衡は瓦解するのだ、好き勝手に徒党を組んでは闘争を始め、闘争が絶えなくなれば都市が警察や軍隊を派遣する。そうすればこの地区は「治安維持」という名の下に行われる襲撃と略奪によって焦土と化すだろう。


(それにしても、なんであいつがいやがるんだ)


 黒衣の人達に捕まっていた桃の姿を思い出す。家の中に入り込んだ瞬間、桃がいた場所の先に逃げていくアビーの姿があったことを思い出す。


(酒場の娘と一緒にいたよな?)


 彼は桃がこの危険な場所に来た理由を考え始める。廃墟のことをおそらく桃は知らなかっただろうし、知っていたとしても自ら誘って行くような人ではない。


(あの娘に誘われて行ったという可能性はあるが、ここが危険だってことが分かってるならわざわざ危険を冒すか?)


 だとすれは、可能性は二つ。桃が廃墟の意味を知らなかったか、彼女らをそそのかした第三者が裏にいる、ということ。


(そういや昨日、モモが酒場の店主からの手紙をリンに渡していた。幾分か急だが金の量からしてもあの中身はここの調査依頼か? とりあえずそう仮定すると店主はここのことを知っている。なら娘を簡単にここへやるはずがない。……帰ったら一旦店主に探りをいれてみるか、彼女たちが行くことを知っていたかどうか)


 モモは自衛の術をもっていないくせに危機感がなさすぎる傾向があった。サムとしてはせめてできる限り自分の目の届く範囲に居て欲しかったし、好き勝手出歩いて欲しくもない。かといっていつも彼女に付き従う訳にもいかず、そんな彼の気持ちを吐露する気にもなれずにいる。


 彼女には「自分の身は自分で守れ」と言い続けるだけで問題ないのだが、それで彼自身の気が済むのかといえば、別の話。


(どうしたもんかなあ、俺はあいつを守ってやれるほど強い人間じゃないのに)


 壁に寄りかかってため息をつくと、ミシリと音がした。崩れそうな危険を察知して離れる。黒衣の人達はあらかたいなくなっていた。日が傾き始めている。部屋で相対しているのは黒衣の人間達と見分けのつかない格好をしたリンと、老人。部屋に入ったリンが真っ先に足止めに行き、最期まで残った彼が黒幕なのだろう。


「お嬢さん、一体何の用かね」


 しわがれた声で老人が話しかける。リンは彼の問いには何も答えず、杖の先端に引っかけていたランタンを手に持っていた。サムは今のうちに家の外へ向かおうとした時、カランカランとランタンの転がり落ちる音がした。


(まさか、あの爺さんがはたき落とした……?)


 サムの目でも追いきれない程の素早さ。彼の背中から汗が噴き出してくる。もしあの老人が吸血鬼で自分が狙われたとしたら避けられる気がしない。目をつけられる前に逃げなければ、という警鐘が頭の中で鳴り響く。一瞬


「自分だけ逃げて女性を一人で戦わせるなんて」


 という騎士道精神あふれた人の言いそうな言葉がよぎったが、


(下手に守ろうとして自分が死んだら元も子もない。それにあいつは女じゃなくて魔女だ。適材適所という言葉もあるじゃないか)


 と言い訳して起きたことだけ報告できるよう息を潜めて外に出る。ランタンが落とされたせいで火が消えたのだろう、漂う煙が薄くなっているが、甘い香りはまだ残っていた。


『あーあ。この地区の荒くれ者達はまた君を僕によこしたんだ』


 はじめは老人の籠もった声だったのが段々若返るように明瞭になっていく。


『折角君がいなくなったって聞いたから楽しいこと色々しようと思っていたのに。なんで帰ってきちゃったのかなあ?』


 みるみるうちに黒い髪と鋭い牙をもつ青年の姿に変化していった。赤い瞳に青白い肌、そして、八重歯のようにも見える牙。噂に聞く吸血鬼の特徴と合致している。そして摩訶不思議なことに背中からコウモリのような羽根を生やし、羽ばたかせながら浮き上がった。


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