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91.花咲く祭の前日に ⑦

 戸惑うマルクをよそに、ベラの母親は大きくため息をついて身の上話を始めました。


「私ね、小さい頃から魔法使いに憧れていて、有り難いことに魔法学校にも通わせて貰えたの。でも学校出たらお嫁に行きなさいって言われていて、まあ、今の夫なんだけど、相手はいい人だったし、魔術師試験も落ちたし、家庭に入るか、ってなったのよ。だけどね、ある日、夫が足を怪我しちゃって、しばらく働けなくなっちゃったのね。行商していたんだけど。その時、このままで良いのかなって、もし、また同じようなことが起きたら私達どうなるんだろうって。その時に、魔術師やりたいって思ったの。その事を夫に話したら、思いの他背中を押してくれてね。それからは毎日勉強勉強。まずは、試験に合格して、王家公認の資格、そう、このブローチを貰わないといけないなってことで頑張ってたの」


 そう言って彼女は誇らしげに胸元のブローチを見せました。緑色の小さな石がキラリと光ります。


「すみません。ギルドに所属している魔術師の中には、王家公認の人とそうで無い人がいるんですか?」


「当たり前よ。皆が皆あの試験を突破できるわけじゃ無いんだからね。私が何回受けたと思ってるの! だけど、私、女だし。魔力もあんまり強く無いから、何か箔をつけないとね。有名な魔術師の知り合いもいなかったから。けれど、試験に漸く受かったと思ったら今度は働き口探すのが大変で。あっちこっち行って、試験受けて、偉い人とお話して。私あんまり魔力なかったから。青色じゃなきゃ嫌だっていっぱい言われたなあ。青色魔術師なんて、そんなにいないの、だから重宝されるんじゃないの? そういうあんたは何色なのよ、どうせ緑なのでしょう。ってずっと思っていたわ。良いなあ。貴方位魔力があったら、もっと楽だったでしょうにね」


 そう言って目の前にいる魔術師はリンを見つめました。心底羨ましそうな表情で。桃は何となくしか理解できませんでしたが、魔法使いとして働くのも大変なんだなあ、とぼんやり感じていました。


「すみません。青色とか、緑色って何のことでしょうか」


 そうマルクが尋ねるのを聞いて桃も頷きます。色に関する部分は、話を聞いていても特に訳が分からない部分だったのです。魔術師は、そうねえ、と呟きながら、ローブの内側を探り、小さな石を取り出します。


「ほら、これをぎゅって握ってみて。あら、貴方も触ってみる?」


 桃とマルクの手に乳白色の石をのせました。


「ビアソネ石って言うの。元々白いんだけど、石に流れる魔力の量によって色が変わるの。だから、それで人の魔力量が量れるって訳。あんまり少ないと色が変わらないけど、多くなるにつれて黄色、緑、青ってなっていくの。どうだった?」


 魔力というのは魔法を使うときに必要な力のこと。桃は微かな期待を抱きながらぎゅっと石を握りしめ、ゆっくりと開きました。しかし、色はほとんど変わっていませんでした。


「Wrew(白)」


 と呟きます。白いままということは、魔法が使えないということです。随分前に箒で空を飛ぼうとしてかなわなかったことや、フランという友人が連れている狐の妖? に魔法の才能が無いと指摘されたことを思い出します。


「貴方も白いわね」


 魔術師がマルクの手元を覗き込んでいました。


「まあ、そうですね。でも、ほら、ちょっと、黄色くないですか。若干、黄色に見えるような、見えませんか?」


 本人は少し納得がいっていないようでした。


「どうですか?」


 手のひらに石を載せ、マルクに近づけます。マルクも手の平を隣にもってきて石を見比べてみました。


「確かに。並べてみると、微妙に色が違うわね」


「そうですよね」


 マルクが身を乗り出します。その様子に先ほどまで腹を立てていた魔術師もカラッとした笑い声を立てました。


「何ムキになっちゃってるのよ」


「すみません」


 一方、リンはマルクと桃の間に挟まるように座っていました。


(魔力があると色が変わるっていってたけど、魔法が使えるリンちゃんが触ったらどうなるんやろ)


「リンちゃん、リンちゃん」


 桃は小声で彼女に呼びかけると、リンは桃の座っている方へ顔を向けました。


「手、出して下さい」


 そう言って石を近づけるのと同時に、リンが出しかけた手を引っ込めます。そして丁度そのタイミングで白から変わることの無かった石が、僅かにリンの皮膚に触れた瞬間、みるみるうちに色が変わっていきました。思わず手を離してしまい、石が床に落ちてしまいます。


「あっ。すみません」


 慌てて椅子から降りて、椅子の下を探します。幸いなことにすぐ見つかり、割れている様子もありませんでした。これ以上傷つけてしまってはいけないので、速やかに返します。


 その様子を見ていたマルクも、リンが石に触れていないことに気がつき、


「失礼します」


 と声を掛けながら石を近づけます。すると彼の手をすり抜けて、石が机の上を二回ほど転がりました。青紫色をしています。


「あら、なにこれ。見たことない色しているじゃないの」 


 覗き込んでいるうちに色が薄くなっていきます。


「あ、戻ってしまいました」


 リンは椅子ごと後ずさりをしています。色が変わるということは、魔法を使う力があることを意味しています。それなのにリンは寧ろ嫌そうな雰囲気を纏っていました。


(魔法が使えるのって凄いことなんやおね。やけど、リンちゃんはいつもそう。あんまり嬉しそうやない。……そっか、その魔法で建物を壊してまったこととかを引きずってるんかなあ)


 人から羨ましがられるほどの才がありながら苦しんでいる彼女を見ていると、桃はなんだかやるせない気持ちになるのでした。



ゴールデンウィークということで、本日から5月6日まで毎日投稿します。5/1、5/3、5/6は通常通りの時間に投稿する予定ですが他はランダムな時間に投稿していく予定です。

ぜひお越し下さい!

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