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74.郵便屋と少年とお菓子 ②

前回のあらすじ:値段交渉する文化をようやく理解した

 確かこの仕事を始めたばかりの頃だから、十六、十七歳になるのかな。そう、確か母さんを亡くしたばかりだったんだ。兄貴も急に家を出て行ってしまって、父さんもかなりショックを受けていてね、絵描きの仕事も手に着かない状態で。


――そんな。


 ね、信じられないでしょう? 


――絵が描けなくなってしまったのですか?


 うーん。ちょっと違うかなあ。流石に筆を折るような人じゃなかったよ。ある意味すごいよね。でも、母さんみたいな女性の絵ばっかり描いていて、ギルドからの依頼を断っていたんだ。今から思えば随分しんどい時期だったな。


 あの頃はまだ帰りが早い日がもっとあってね。だからよくこのお店に立ち寄っていたんだ。そうそう、思い出した。その頃は自分の仕事でも悩んでいたんだっけ。


 郵便屋ギルドって一年目はひたすら箒に乗る練習をするんだよ。安定して乗れるか乗れないかで今後の担当業務も変わってくるし、仕事で乗るとなるとかなりの訓練が必要だからね。それは結構楽しかったんだ。それがこの仕事を選んだきっかけでもあったからね。まあ、絵の仕事をしないかって誘われたこともあったんだけど。


――そうなんですね。お父さんは絵描きなので、不思議でした。


 普通そう思うよね。話すと長くなるんだけど、絵描きってあんまり収入が安定していないから。いくらギルドに入っているからって親子揃って絵描きじゃ生活が不安だなっていうのもあって。でも練習の途中で高い塔の上や木の上でスケッチしてたっけなあ。なんだかんだ描くのは好きなのかも。


――今でも絵を描いていますね。


 まあ、休みの日にちまちまと、ね。


 話を戻して、二年目になると手紙や荷物を届ける仕事をはじめるんだ。街中の、拠点から歩ける範囲での仕事なんだけど、その、道とか届ける時の規則とかが、なかなか覚えられなくてね。ひっくり返しちゃダメとか、他の荷物を上に置いちゃダメとか色々あるし、効率よく回らないと時間内に届けられなかったりするし、そういうのがなかなか上手くできなかったんだ。


 この頃は練習もなくて、箒に乗ることもできなかったし。空を飛んで遠くに届けるのは何年か経ってからなんだ。あれは花形の仕事だからね。新人は手入れの時くらいしか箒に触れなかったっけ。


 毎日へとへとに疲れて帰ってさ、料理するのも嫌になっちゃって、ここのベニエッシュで夕飯を済ませることも多かったんだ。種類も豊富でね、野菜やチーズが挟んであるのとか、香辛料が練り込まれているのとか、甘くないものも色々あるんだよ。だからそういうのをしょっちゅう買ってた。


 やっとサム君の話になるんだけど、彼、そのお店を木の上からずっと眺めていたんだ。周りの人と明らかに違う雰囲気だった。はじめは、「ああ、ロッジ地区の子が来ているのかな」くらいの印象だったよ。おっかない人達がいるところで有名だからね、あそこは。でも、僕が立ち寄る度にいるんだよね。時には追い払われそうなほど近づいたりして、物欲しそうな顔をしてさ。


 それである日、僕はいつも買っているベニエッシュを一個余分に買って、木の所にいた彼にあげちゃったんだ。なんでそんなことをしたのか、今でもよく分からない。ほんの出来心だったのかもしれないし、お腹を空かせた少年を気の毒に思ったのかもしれない。そう、彼の背丈は今のモモちゃんと変わらない位だったんだよ。僕はてっきり十歳いくかいかないかだと思っていたんだ。


 でね、それを貰ったサム君は何て言ったと思う?


――うーん。ありがとう、とかは言わないですよね。


「ねえ、いま俺が仲間を呼んできたらどうするの? 二十人とか三十人とかが来たら、全員に買ってあげる気?」


 だよ? うん、今振り返れば貰う側がそんなこと言うのってどうなのって感じだけどね。あの時は、どうしようかなあ、そんなにも手持ちはないなあって焦った位だったかな。だってすぐさま


「あと、俺が欲しかったのは、蜂蜜味だったんだよなあ」


 て言ってくるんだもん。なんかイラッとしちゃったよその時は流石に。


――ええ……。


 だよね、そうなるよね。僕が変な訳じゃ無かったんだ、良かった。そりゃあ、勝手に味を選んだのは僕だけどさ、もらい物にケチつけるのはおかしいだろって思うよね、普通。お礼を言って欲しいっていうのは傲慢かもしれないけど、せめて何も言わずに食べて欲しかったって何度も思ったよ。


 それでね、後々お店に行ったときも、またいたんだ。気にしなければ良かったんだろうけど、なんか虫の居所が悪くてさ、今度はちゃんと蜂蜜味を買って渡しちゃったんだよね。


「はい。君はこれが欲しかったんでしょって」


 そしたら何ていったと思う? 大げさにため息ついて


「同情してくれてどうも。だけど、この調子じゃすぐあんたもこっち側だな」


 みたいな感じだったよ。まあ、むしゃくしゃしたね。自分でもこんなこと続けていたら全部彼みたいな子に取られちゃうなあって思ったけど。


 けど、食べている彼の顔はそれは幸せそうで。今、一人の子どものお腹を満たすことができたんならそれでいいのかなって思えたんだ。母さんがいないから慣れない家事を自分がしないといけないし、仕事でも失敗続きで、役に立たないのに働いていていいのかな、とかなんのために生きて居るんだろうとか考え込んだりして、多分、病んでいたんだ。


 だから、そうすること少しでも自尊心を慰めようとしていたのかもしれない。サム君にはそれが透けて見えていたのかも。結局歳を聞いたらあらびっくり、5歳くらいしか違わなくて思っていたより子どもじゃ無かったんだけどね。本当、それくらい背が低かったんだよ、今じゃ人並みくらいまで伸びたみたいだけど。君の隣にいると逆に背が高いなって勘違いしそうになるなあ。


 えっ、そんなしょんぼりしなくていいと思うよ。確かに背は歳の割に低いかもしれないけど、そこが可愛いところだし、中身は僕達よりずっとしっかりしているし、ね?


――そんなこと無いですよ。あっ、お話の続きを聞きたいです。



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