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70.温泉のある別荘にて ⑦

「モモ。おい、モモ」


 懐かしい声が振ってきます。眩しさに眩んだ瞼を上げると、サムの姿が眼前に飛び込んできました。奥には狐を抱きかかえたリンや、松明を手にしたグレアムもいます。


「何してたんだ」


「サムさん……。私、閉じ込められて」


「だろうな。飾られていた槍が倒れて取っ手に引っかかってたし」


 だから内側から開けることができなかったのだと納得がいきます。チラリと視界に入った槍の穂先には赤い羽根のような飾りが付いており、柄の部分にはフェルトのような物が巻かれていました。


「あのさ、わざわざこの部屋に入る理由が分からないんだけど」


「えっと、その……道に迷ってしまって、それから、色々ありまして」


「ふうん」


 フランとの約束を破ってしまわないよう必死でごまかします。しかし嘘をつくのが苦手で、しどろもどろに。歯切れの悪い話しぶりに訝しまれてしまいます。一方隣では口ひげを生やし、装飾的な襟の服を纏った男性がフランの両肩に手を置いて涙を浮かべていました。スミスが苦々しい顔で立っています。桃には自身を責めているかのように映りました。


「娘よ……もしこのまま見つからなかったらと思うと生きた心地がしなかったぞ」


「お父様。申し訳ありませんわ」


「良かった。無事で本当に良かった」


 フランの父親がわざわざ探しに来ていたのです。互いを思う気持ちに胸が熱くなりました。


「モモ」


 囁き声と共にリンが近づいてきます。藍色一色のゆったりした部屋着を纏い、長い前髪で片方の目が隠れています。そのおかげが表情は普段と変わっていないように見えました。しかしどこか力の抜けたような雰囲気を醸し出しています。


『遅くなってすまぬ。気配を探るのに時間が掛かってしまった』


 相変わらす古風な口調で狐が話します。


「いえ、ありがとうございます。リンちゃんも」


 桃が笑いかけると、リンは狐の胴体で顔を隠してしまいました。


「何も、していない、から」


「来てくれました」


 赤く染まる耳の端。


「二人ともお腹空いたでしょ。実は僕達もご飯まだでさ。早く食堂に行こうよ」


「はい」


 グレアムの呼びかけに桃は立ち上がりますが、フラン達は気づいていないようです。


「感動の再会? っていうほどのもんでもないけどさあ。水差してやるなよ」


 当惑して親子とスミスを交互に見ているグレアムを、サムがからかいます。


「ごめん。だって松明が熱いんだもん」


「なら俺が交代してやる」


「わあ、助かる」


 サムはグレアムから煌々と燃える松明を受け取るともう片方の手の平を差し出しました。


「じゃ、銅貨一枚」


「サム君のケチ」


 こうして桃達一行はようやく夕飯にありつくことができたのでした。


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