表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/208

61.迫り来る祓魔師たち 最終話

前回のあらすじ:リンは有名人だった……?

「じゃあ、君の傍にナニカがいることには、気づいてる?」


 リンがこくりと頷いた矢先、気を失った様に桃の背中に倒れこみました。急に重さがのし掛かってきたことから異変を感じ、振り返ります。その頃にはゆらゆらと不自然な動きで立ち上がっていました。その動きを、どこかで目の当たりにしたような――。


「完全に取り憑かれてるな」


「私、あんまり道具持ってきて無いんだけど。困ったねえ」


「ある分だけでどうにかするしかないだろ」


 聖職者の人達が身構えています。思い出しました。以前、リンにフクロウの魔物が取り憑いて、からかってきた揚句、出て行った後にリンが寝込んでしまったのです。


 モモは、リンの足下にすがりつき中にいるであろう魔物に向かって「やめて」と叫びます。


『悪いね、お嬢さん。今日は面白い客が来たから挨拶しておかねばと思ったのだよ』


 あの時と同じように、腹の底から響くような低い声でリンが、いや、リンに取り憑いた魔物が話します。


(挨拶なんていいから、さっさと出て行きゃあて! しかも前より偉そうな話し方になっとるし)


 桃は首を振りながらローブを引っ張りました。


『すぐに出て行くさね。私とて契約者を傷つけるつもりはない』


 そういうと、桃の頭をくしゃくしゃと撫で、体を引きはがします。モモは体制を崩し、危うく頭を打ちそうになりました。


 その先には聖職者の一人、おかっぱ頭のマルクがいました。地面にぶつかりそうなところを彼に受け止められます。そして、彼に腕を抱えられながら半ば引きずるように離れさせられてしまいました。手を離した途端、リンの所へ戻ろうとしますが、


「危ない、ここにいて」


 と強く止められます。力ずくでリンから魔物を引きはがすのは無理だと分かってはいたので、桃は仕方無くその場に座りました。


「挨拶してくれるってなら、あんたの名前と契約の内容を聞かせてもらおうか」


 ライリーが魔物と化したリンに向かって啖呵を切りますが、首筋に汗が浮かんでいます。


『名乗る程の者ではないがね。聞きたいなら教えてあげよう。私は魔力を糧に生きる者、この者の魔力を頂く代わりに、彼女を異界に住まう有象無象から守護する。幼き頃に交わした約束だ。さて、そちらも名乗ってもらおうか』


「私達も名乗る程の者ではないのでね。悪魔祓いとだけ言っておこうかな」


 アシュリーが息巻きました。ですが、その手には鷹の羽根飾りが握られています。手が赤くなっている様にも見えました。


『悪魔払い、か。かつては神と崇めていた者を悪魔と罵り、その上排除しようと申すか。眷属の身ながらその落胆、怒り、察するに余りある。なんという厚顔、傲慢、嘆かわしいことこの上ない』


 急に強い風が巻き起こりました。畑の藁が巻き上げられ、落ちていた石が転がり、立ってた礼拝所の人々が一歩、また一歩と後ずさります。今のは偶然風が起こっただけなのか、それとも戯れに魔法を使ってみたのか。


(もし今、リンちゃんが沢山魔法を使ったらどうなるんやろう……)


 リンの体を憂いた桃は声を張ります。


「すとらすさん、リンちゃん、疲れます」


『もう少し話をさせてくれないかな……』


 魔物が僅かに弱気になっているようでした。このまま説得し続ければ離れてくれるかもしれない……そう思った時でした。


「あのー。人の家の庭に勝手に入らないで欲しいんですけど。って、何これ」


 サムの声が裏庭に響きます。聖職者達との一悶着が起きている間に、仕事から帰ってくる時間になってしまったようです。


「あ、サムさんお帰りなさい。ああ、リンちゃん」


 リンが倒れ込むのを捉え、慌てて駆けよりました。辛うじて間に合いましたが、受け止めたというより、押しつぶされているような形になってしまい、胸から腹にかけて重い衝撃が来ました。


 漸く魔物がリンの体から離れたのです。颯爽とサムが中に入ってきて、リンをどかし、桃を立たせました。


「はあ、苦しかった、です」


「なかなか見物だったぞ」


「酷いです」


「それより、あいつをどうにかしないと」


 彼がリンを見やります。頑張れば二人でも運べそうですが、急な階段を上るのが辛いでしょう。


「あの人達に責任取ってもらおう」


 サムが親指で礼拝所の人達を指します。結局皆で倒れた彼女を運び込みました。その頃にはすっかり暗くなってしまい、お腹が空いたということで、一旦サムの部屋で夕食を食べてもらうことになりました。


 グレアムの家で多めに作り、持ち帰ってきたおかずを出しますが、五人で分けるには量が少なく、一人一口しか入りません。


「リンちゃんにはまた今度渡すとして、これ食べてもらおっか」


 アシュリーがおもむろに包みを外します。すると、大きなケーキが表れました。生地を焼き上げただけの、シンプルなものでしたが、桃とサムの給料では一年に一度買えるかどうかの代物。均一に広がった焼き目と、仄かに香る小麦と砂糖の香りが、食欲をそそります。礼拝所の人曰く、これまで追いかけ回していたことと、扉に穴が開く原因を作ったお詫びとのこと。


 いつの間にか開いていた扉の穴と礼拝所の人達に何の関係が? という疑問は頭の片隅に追いやり、いそいそと小刀を持ってきて五つに切り分けます。


「あんたのを半分……」


 サムが顔を近づけてきました。


「ええ……」


「仕方ねえなあ」


 サムの舌打ちを無視しながらお皿にケーキを移し、声を掛けます。


「皆さん、食べて下さい」


 礼拝所から来た三人組も一切れずつ手にとっていきます。初めて口にしたケーキはパンよりずっと柔らかく、舌がとろけるような優しい甘さ。サムに至っては空になった皿を名残惜しそうに見つめています。


「ケーキ貰えるならもう一回くらいドアが壊れても良いかも」


 というサムの呟きに、桃は内心呆れてしまったのでした。


   ***


 後日、桃は礼拝所のマルクとアシュリーに誘われて、リンと一緒にある場所へ出かけました。それは一見町外れにあるただの家。動物の骨が扉に飾られていることを除けば。入り口付近は草も刈られ、泥汚れも少なく、定期的に手入れがなされているようです。


 玄関に足を踏み入れるとリンの部屋とよく似た光景が広がっていました。書きかけの円が残っている床、散らばった草花、汚れた鍋、よく分からない動物の骨。大きな棚だけで無く、机の上にも散らばっています。奥に土間が確認できるので、結構広い家のようです。


 肩につきそうな長さの髪を後ろでまとめているアシュリーが奥へと入り、桃達を手招きします。中途半端な所にある扉を開けた先には、庭が広がっていました。ここでも薬草を育てているみたいで、畑が広がっています。植えられている草花を踏まないよう慎重に進むと、今度は背の低い木がいくつも生えているところへ差しかかりました。マルクが先を行きながら通りやすいようかき分けてくれます。


 どうにか通り抜けるとぽっかりとした空間がありました。地面に布が被せられています。アシュリーがそれをはがすと、先ほど部屋の中で見かけたのとよく似た模様が現れました。


 あー、と小さな低い声。リンが頭を抱えてその場にしゃがみ込んでいます。


「リンちゃん? 何か?」


 モモが顔を覗き込むと、リンの顔色が悪くなっているような気がしました。


(体調を崩してまったんかなあ)


 背中をさすろうと手を伸ばしかけた時、リンの唇が震えます。何か伝えたい事があるようです。桃は手を引っ込めました。


「やっぱり、ここ、前に住んでた所。あ、えっと……知ってるんだっけ?」


 リンはつっかえ、つっかえ話しながら礼拝所の人達を指します。あのフクロウ、という囁き声が微かに聞こえてきます。


「すとらすさん?」


 こくりと頷きました。


「彼ら、知ってます」


 リンは悪魔と名乗るストラスに取り憑かれていました。その後は気絶するように眠ってしまったのです。礼拝所の人達があの魔物と言葉を交わしたことを知らなかったのでしょう。


(取り憑かれている間、リンちゃんはどうなってるんやろ)


 そんな疑問が、ふと浮かびます。リンの話す声。緊張しているのが伝わってきます。


「え、えーっと、五年毎に、け、契約更新するから、そ、その時書いたのを……あーっと、消し忘れました。申し訳無いです」


 それを聞いた二人は、たいそう面食らったようでした。


 帰り道、マルクが礼拝所がどんなところなのかについて教えてくれました。やはりお祈りをする場所なのだそうです。


「ですが、代わりに手紙を書く仕事もしていますよ。難しい文章は書けないという人はおおいですから。それに、子ども達に勉強も教えています」


「文字も書きますか?」


「ええ」


(文字が書けるようになったら、他の人に頼まなくてもリンちゃんと石板でやりとりできるやん)


「私、文字、書きたいです」


 興奮気味にマルクへ事情を伝えます。


「そういうことでしたら、礼拝所へ来て下さい。教えますよ。子ども達も一緒ですけど」


「ライリーもね」


 アシュリーが笑いをこらえながら付け加えます。マルクは肩をすくめながら彼を見やりました。


「大丈夫です」


 桃は目を輝かせながら頷きます。ずっと兄弟の面倒を見てきた桃にとっては、大人に囲まれるより楽だと思われました。こうして桃は、文字を書けるようにするため、時々礼拝所へ通うようになったのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ