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53.インチキ占い師の怪しい薬 最終話

前回のあらすじ:フランとスミス、口論になる。

前回までと視点が変わります。

   ***


 一行が帰ったあともサムは暫く酒場に残っていた。ミックが彼に仕込んだ薬について詳しく聞くために。仕事を終えた客がちらほらと入っている。流石にミックも忙しそうにして居たが、休憩の許可が出たようだ。彼はまかない食を携えてサムの隣に座った。


「で、本当に思っていることしか言えなくなる薬。だったんだな、あれは」


「そう。『スノーナル』って薬なんだ。でもその効果を出すには、リンゴが必要なんだって」


「リンゴ?」


 言われてみれば薬を盛られたであろう人達は全員リンゴの入った飲み物だった。フランとスミスはリンゴ酒を飲んでいたし、サムが頼んでいたのは「りんごふわふわ」。しかし、ある疑問が浮かんでくる。


「モモも飲んでいたはずだ。本当にアレには入っていなかったのか?」


「サムの物より前に作ったから。多分ね」


(どちらにしろ、元が素直で分かりやすい奴だから、傍目からは効果が分からなかったのかもしれない)


「あのさ」


 ミックがスプーンを置いて話しかける。


「何」


「良からぬこと考えてません?」


「当たり前だろ」


「え、怖っ」


「俺は忘れない。これが無いと不幸になると言われて気持ち悪いカエルのおもちゃ買わされたことや、貸した金が返ってきていないことや、喧嘩に巻き込まれたときにお前だけ真っ先に逃げたこと……全部忘れるつもりはない」


「ええー。それ何年も前の話じゃん、借金以外。過ぎたことをいつまでもぐちぐち言うなよ。あーあ。モモ

にあれ渡してあげれば良かった」


 彼は一度席を外してどこかへ行き、すぐに戻ってくる。手には鈍い鉄の色をした、薄くて四角い物が握られていた。両手の平で覆ってしまえそうなサイズ。そして片面には妙にリアリティのある顔が円の中に描かれている。


「今晩同居人さんは恥ずかしさのあまりに殴りかかってくるでしょう。そんな貴方にこのしゃべる盾。お値段銀貨一枚ってね?」


 ミックの口ぶりに苛立ちを覚えたサムは咄嗟に盾に向かって拳を突き出す。鈍く高い音が響いた。


『殴ッテンジャネーヨ』


 野太い声が盾のあるあたりから聞こえてくる。ミックの言うことが本当ならこの声は盾が発するものなのだろう。近くで誰かが声を出している可能性も捨てきれないが。


「本当に話すんだな」


「だから話すって言ったじゃん。やっぱり、いくら羞恥心に駆られていても奥さん殴っちゃだめだからね」


「分かってるよ。それとその言い方辞めろ」


「また夫婦じゃないとか言い出す?」


 ミックが口角を上げる。からかっている時の顔だ。


「あのさあ、俺は別にどっちでも良いんだよ。他に女がいるわけじゃないし。けどあいつは好きでも無い人と夫婦扱いされたら嫌だろ。あいつはいつか帰らなきゃいけない。どうせなら後ろ髪引かれることなく帰らせてあげたい。それに、あいつは変な真に受け方しかねないから……あんまりにも気の毒だ」


「もしかして、まだ薬が抜けてなかったりする?……うわあ、きっつ」


 ガン、金属音が響く。


『殴ッテンジャネーヨ』


「痛った。やっぱりしゃべるんだな、これ」


「だからそう言ってるじゃん」


「しかもちょっと顔が気持ち悪い」


『罵ッテンジャネーヨ』


「声にも反応するのか」


「……それは知らなかった」



   ***



 それから暫くたったある日のこと。サムは友人達とご飯を食べる約束をしていた。普段なかなか立ち寄らない地域にあるお店で彼は用を足しに行った友人達が席に座るのを待っていた。


「すっきりしたー」


「荷物、見てくれてありがとな」


「おう」


 同じ職場で働いている男友達二人が席に戻ってくる。


「お、もう飯が来てたんだな」


「待ってる間に」


 机にはオートミールとベーコン、付け合わせの野菜が四人分並んでいる。ベーコンにはソースが掛かっており、ちょっとした高級感を演出していた。だが、そんなことは彼らにとってどうでもいいこと。食べ盛りの青年達は久しぶりの肉に興奮を隠しきれずにいた。


 少し遅れてミックがやって来る。走ってきたのか、肩で息をしながら勢いよく余った席に座り込んだ。


「おまたせ」


「おい、飯より遅くてどうするんだ」


「ごめんって」


(どうせ昼まで寝ていたんだろ。いっそのこと忘れててくれりゃ皿一つ分、三人で山分けだったのに)


 ミックが遅れがちなのはいつものことなので、余程のことで無い限り、わざわざ咎める人はいなかった。


「そんなことより早く食べようぜ」


 彼らは豪快にかぶりついていく。中にはまだ昼なのに酒を頼みだすのもいた。


「そういやさ、サムにヤバいもの飲ませたんだって」


「やばいってほどじゃねえけど。あれは傑作だった」


 青年達はすっかり気を良くして談笑している。彼らの様子を見ていたサムは口の端を上げた。


「すっごい根に持つ奴なのによくやるよ」


「だって、面白いもん」


「そんなことより可愛い子触りたい」


 意を決してサムが口を開く。


「あのさあ、お前ら」


 一斉に彼の元へ視線が集まった。


「そのソース、隠し味にリンゴが入っているんだって」


 ミックから血の気が失われていく。


 その時彼らは改めて思い知った。サムが「すっごい根に持つ奴」だということを……。

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