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50.インチキ占い師の怪しい薬 ②

前回のあらすじ:手紙を書いてみたよ。

 時は少しさかのぼり、先週末のこと。


 サムとグレアムは、週末になると外へご飯を食べに行きます。最近はそろそろこの街の生活に慣れてきただろうということでついて行くようになりました。


 場所はサムの家からほど近い酒場。きらびやかなドレスを纏い、長い髪を編んだお兄さんが切り盛りしているお店です。三人にとって行き慣れた場所ではあったのですが、サムは機嫌が悪そうにしています。


「たまには店を変えてもいいと思うんだけど」


 飲み物が来るのを待っている間、サムが小刻みに指を机に打ち付けながら呟きました。


「ごめんね。家から近いし、安いからついここに来ちゃうんだよね」


「たまにはあんたの家ら辺のところにしようか。今度から」


 と彼は言っていますが、実際のところグレアムの住む家がある区画のお店で食事となると倍以上の値段になってしまいます。サムと桃の収入ではとても払えません。かといって桃達が住むロッジ地区にある飲食店の殆どは盗賊ギルドの傘下。万が一ギルド内で揉め事があった場合、関係のないグレアムを巻き込む心配があります。


 これらを考慮した結果、盗賊ギルドから距離を置いている店主が営むこの酒場をいつも選んでしまうのでした。


「そう? でも毎週となると……僕一人分でも懐が厳しいかなあ」


「なら半月に一回にすればいい」


「ええ……そう来ちゃったかあ」


 グレアムが申し訳なさそうに話している間、サムがチラリと入り口の方を見やります。視線の先にいたのは、黒っぽい髪に日焼けした肌。紺色のエプロンを掛けて、何個もカップを抱えながら笑っている青年の姿がありました。彼はミック。この店で働いているサムの友人です。


「ねえねえモモちゃん、彼、嫌な事あった?」


 向かいに座っているグレアムが身を乗り出して声を潜めます。心当たりが思いつかない桃は首をふりました。


(ついさっきまで何とも無かったのに。むしろ食費が浮くって嬉しそうにしていたはず。折角グレアムさんが来てくれたんやから、もっと楽しそうにすればいいやん。どうしたんやろ)


「そっかあ」


「貴方は悪くないです」


「ありがとう。君は優しいね」


 サムがいつも以上に素っ気ない理由を図りかねた二人は、同時に大きなため息をつきました。するとミックが店の奥にある三人の席へやってきます。木のカップを抱えていました。


「はい、お兄さん麦酒ね」


「ありがとう」


 グレアムの前に泡だった麦酒を置きます。


「君はこれ」


「はい。ありがとうございます」


 桃の前にも小さめのカップが置かれました。温めたリンゴジュースに蜂蜜やシナモン、クリームの入った「リンゴふわふわ」と呼ばれる飲み物。お酒の飲めない桃が口にできるものの一つで、少し値段は張りますが、リンゴの食感がやみつきになってしまい、つい頼んでしまったのです。


「お前もこれだよな」


「どうも」


 サムの前には一回り大きいカップ。甘い物が好きなサムも時々これを頼んでいました。


 乾杯をした後、桃はカップに口をつけると、シナモンの香りが漂い、リンゴの酸味と蜂蜜の甘みが口いっぱいに広がります。ほんのり加えてあるショウガがアクセントとなって、体がじんわりと温まっていくような心地がしました。リンゴの果肉をすくって食べようと、スプーンに手を伸ばしかけます。その時、サムがカップを覗き込みながら首を傾げました。


「どうしたんですか?」


「いつもと味が違う。変な匂い」


「そうですか?」


 桃はもう一口飲んでみますが、特に違和感はありません。


「どれどれ」


 とグレアムが身を乗り出すと、サムがカップを差し出しました。手で仰いで匂いを嗅ぎますが、首を傾げてしまいます。


「スパイスだと思うんだけどなあ、普段飲まないから分かんないや」


「だろうな」


「けど、君がそう思うんなら何かあるかもね。間違えて別の材料をを入れちゃったとか」


「モモが何ともないって言うのなら、それはないと思う。それとも、こいつが鈍いだけか?」


 さらりと馬鹿にされたような気がしましたが、まだ故郷にいた頃のことがふと思い出され、確かに鈍いのは本当かもと考え直します。


 いつの頃からか母と手分けをしながらご飯を作るようになっていました。母親と同じ材料、手順で味噌汁を作っているはずなのに、何故か弟や妹達にはいつもどちらが作ったのか当てられてしまいます。桃が味見をしてもどこを変えれば同じ味になるのか分からないまま。


(これはこれで美味しいと言ってくれたけど、何がそんなに違ったんやろう? そういえばおっ父は全然気づいてなかったな。うちはおっ父の鈍感なところを受け継いでしまったのかも……)


 桃が我にかえった頃、サムは席を立っていてカウンター越しに店員のミックを問い詰めていました。


「変なものを入れたんじゃないだろうな? いつもと味が違うんだけど」


「おっ。分かってるね」


 何故かミックはにっかりと笑みを浮かべています。


「今日のはミック様特製のオリジナルブレンドなんだ!!」


「で、何を入れた訳?」


「隠し味に少々」


「どうせ変な薬の類いを見繕ってぶち込んだんだろ。それを入れたのは俺のだけなんだろうな?」


「た、多分……」


「もしモモが飲んで体調崩したらどうしてくれるんだよ」


 と吐き捨てた途端、サムは目を見開きます。自分の発言に驚いたかのように。


「珍しい」


 桃はついこぼしてしまいます。彼は表だって他人の心配をしている旨をさらけ出す人ではなかったはず。グレアムに至っては麦酒の入ったカップを置いて、軽く咳き込んでいました。


「あれ、もう効果が出ているんじゃねえの?」


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