49.インチキ占い師の怪しい薬 ①
前回のあらすじ:本を水で濡らしてもそのうち元に戻るとか。
最近桃はリンと石板でやりとりをするようになりました。勤め先のグレアムという青年の家で「歳が近い友達ができたけれど、彼女は引っ込み思案で話すのが苦手。
自分自身まだ言葉が出てこないことがあって困っている」という話をしました。すると彼は、
「話すのが苦手なら書いて貰ったら?」
と言って物置からこの石板を引っ張り出してくれたのです。
彼が学校に通っていた時に使っていた物で、もう必要ないのだそう。桃はありがたく受け取ることにしました。しかし問題は桃が読み書きできないということ。それを伝えたところ、グレアムは
「持って来てくれれば読むのは僕がするし、書くのはサム君とかに頼んでもいいと思うよ」
と微笑んだのでした。
その晩、桃は早速同居人におずおずと石板と石筆をサムに差し出してみました。
「あの、書いてくれませんか、これ」
それを見たサムは顔を引きつらせます。グレアムは頼めば引き受けてくれると言っていましたが、二つ返事でしてくれる相手ではないようです。桃は肩を落とします。サムは今日何度目かのため息をつきました。今日はやけに落ち込んでいる様な気がします。
(きっと、疲れているのでしょうね)
他の人に頼むか、桃自身が文字を覚えるまでお預け。そう思って石板を引っ込めかけました。ところが、
「いや、書くよ俺」
考え直したのか、承諾してくれました。桃はなんだか肩すかしを食らったような気分です。
「で、何て書けばいいわけ?」
「そうですね……。ご飯、食べたいです。一緒に。いつ空いてますか?」
「ふーん。飯に誘いたいからって予定を聞けばいいんだ」
桃は大きく何度も頷きます。
「分かった」
サムはそのまま石板を机の上に置いて寝る支度を始めました。すぐに書く気配はありません。桃は寝ながら待つことにします。いつ渡せるのか、返事は来るのかと胸を躍らせていました。カリカリと石をこすりつける音が、微かに聞こえてきます――。
翌朝、いつもより少し早く目が覚めると寝床にサムがいないことに気がつきました。体を起こすと毛布を被って机に突っ伏している彼を見つけます。机の上には石板があり、その中には文字と思しき白い跡が。夜遅くまで書いているうちに眠ってしまったのでしょう。
石板には何度も布でこすった跡があり白っぽくなっています。書いては消してを繰り返し、苦戦しながら書いている彼が目に浮かぶようでした。そっと石板を持ち上げ、それをはめ込んでいる木枠に穴が空いていたので紐を通します。
まじまじと見つめても、結局書かれている文字が正しいのかは分かりません。ですがそのまま二階まで降りていき、扉の取っ手にぶら下げておきました。階段を上る足音は軽やかです。灯火を胸に抱いているような心地で桃は身支度に取りかかったのでした。
その日の夜。桃は寝間着に着替え、明日持っていく荷物をまとめていました。
大きな羽音と共に窓に掛かった布が揺れています。桃が顔を覗かせると、全長の二倍はありそうな羽を広げたフクロウが静かに飛んでいました。その姿は夕闇に溶け合い、夜をすべているかのよう。鋭い爪の先に紐を器用に引っかけており、その先には四角い石板がつり下げられています。
そして、身に覚えの無い小包も引っかかっていました。
桃が石板を掴んでそっと絡まった紐をほどきます。するとサムが桃の横に来て、小包を掠め取るように持っていきました。どうやらサム宛の荷物だった様です。
(フクロウさんが持ってくるなんて変やなあ)
桃はほくそ笑んでいるサムの横顔を見て首を傾げます。フクロウは静寂を保ったまま急降下し、暗闇に消えていきました。




