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39.木イチゴ畑のふたり ①

前回のあらすじ:見た目と名前で性別を判断するのは難しい。

 街の周囲では羊の毛刈りが行われ、蛙の合唱が鳴り響く季節となりました。山奥の村に生まれ、十四年間そこで生きてきた桃が突如暮らすことになった街で迎える初めての夏。桃の生まれ故郷より遙か北方に位置し、雪深いこの場所が夏になると存外強い日差しで照りつけられることに驚いていました。


 この街は生まれ故郷とはなにもかも違う場所でした。桃の故郷では米が主食なのにここでは麦。ここの人は着物を着ない代わりに上下の繋がったドレスを着たり、丈の短い上着にズボンをはいたりします。しかも麻だけではなく、羊の毛を布にしているのです。肌は白くて髪や瞳も色とりどり。桃と同じように黒い髪、黒い目の人は三、四人に一人位でしょうか。


 今はサムという青年の家で居候中。どこか嫌そうな顔をしていたものの、右も左も分からない桃を匿ってくれています。ひょんなことから同郷の狐を連れたフランというお嬢さんと出会ったり、グレアムという青年の元でお仕事をさせてもらったり、時には武器を持った人に狙われたり……と色々な出会いがありました。


 いつまでここに住まわせてもらえるのか、狐は難しいと話していたけれども本当に帰る方法はないのか、そもそもどうやって来たのか。気になることは山積みですが、無力な桃にできることは特になく、生きていくのに精一杯な日々を送っているところです。


 桃達は建物の三階にある部屋に住んでいます。そして最近二階に年の近い女性がいるということが判明。お庭にある小さな畑をいじるのが好きみたいです。良い出会い方はできなかったものの、桃にとって少し気になる存在になっていました。


  

 ***



「うーん」


「どうしたんだよ」


 夜、繕い物をしながら考え込んでいる桃に、サムが声を掛けました。サムは棚の引き出しを修理している所で、やすりをかける音が小気味よいリズムを刻んでいます。


「Scat senat Rine hasclif ?(リンさんは何が好きですか)」


 最近覚えた言葉を交えながら質問を返す桃。不意に呪いを掛けてしまった本人とはいえ、その呪いを解き、魔除けの髪飾りをくれたことに対してお礼をしたいと思っていました。ところが、何を渡せば良いのか見当がつかなかったのです。 結局一晩経っても思いつかず、今日はずっと悩んでいました。


「Rezze ? (はあ?)」


 サムはやや呆れた口調で答えます。そして手短に


「知らね」


 と言い放って、引き出しの方に集中してしまいました。欠けてささくれ立った場所が滑らかになっているか触って確かめています。


「Scat riu senat tey hasclif ?(何の食べ物が好きですか?)」


「知らないって。聞けば?」


「そうですね。……できた」


 縫い終わると、袖部分を広げて確認。よれた所や曲がった所もなく、きちんとツギを当てることができていました。どうしても袖の辺りは穴が空きやすいようです。桃は針を片付けると大きく背伸び。立ち上がって外へ気分転換に出ようとしました。


「明るい割に結構な時間だからな。すぐ帰って来いよ」


「はーい」


 外は夕日があたりを橙色に照らしています。しかし、意外と時間は遅いらしく、日が沈む頃に三回鐘が鳴る(午後九時頃)ことがあるのです。


 先ほど鐘が一回鳴った(午後六時頃)のを耳にしたばかり。まだ寝るのには少し早い時間です。真っ暗な冬場ならともかく、まだ外は明るいのですから。


 階段を降りていって庭に入っていきます。子ども達が追いかけっこをしていました。すぐ下の弟、与一と同じ年頃でしょうか? 


 しかし、ここの人達は全体的に背が高いので、案外七歳になる築次郎くらいかもしれません。田んぼの周りで遊んでいる弟達を呼びに走ったり、幼い弟を背負って皿洗いをしたり、ついこの間まで当たり前だったことが懐かしく感じられます。


(家族には心配かけてまった。皆元気にしとるんかな。今頃うちを探しとるやろか、流石に諦めてまったやろなあ。与一ちゃんも松ちゃんも、ちゃんとおっ父おっ母の言うこと聞いて、弟達の面倒見とるんやろうか……。そういえば、そろそろ築ちゃんも学校に行く年やなあ)


 親としては長男の与一は最後まで学校に通わせたいと思っているでしょう。貧乏な家庭です。次男の築次郎は通わせて貰えるのか、通えたとして周りの子達と仲良くできているのか、ふと心配になってきました。


(だからって、松が学校を辞める羽目になったらあんまりや)


 あれこれ気を揉んだところで、遠く離れた桃にできることは何もありません。沈んでいく気持ちをかき消すようにかぶりを振り、畑のある方へ目を向けました。すると、なにやら座り込んでいる人影が。もしかしてと思って近づいてみます。やはり黒っぽい服を着たリンでした。彼女はたわわに実った木イチゴを摘んでいます。甘酸っぱい香りが風に乗って辺りに漂っていました。


明けましておめでとうございます。今年もぼちぼち作品を書いていきたいと思いますので、何卒よろしくお願いいたします。

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