38.魔女の瞳 最終話
前回のあらすじ:サムが手紙を読めなかったのは単に字が汚かったから
玄関先で見送られながら部屋を後にすると、いつのまにか降りていたフランが飛びついてきます。
「大丈夫?」
と聞かれたので、
「はい!」
と大きな声で答えます。後ろで扉が勢いよく閉まる音が響き渡りました。フランの肩に乗っていた狐が毛を逆立てています。
「驚いたわ。もう、何よ」
口をとがらせるフランに、
「でも、優しいです」
と言って包みを見せました。
『貰ったのかね』
「はい」
「部屋で見せて頂戴よ」
そうフランに促され、軽い足取りで階段を駆け上がりました。
中に入っていたのは、一対の髪飾り。薄紅色に白い刺繍が施されたリボンに、丸くて薄い石の飾りが縫い付けてあります。石は乳白色でしたが、その薄さの為かリボンが透けて見える程透明感がありました。早速、髪を結んでみます。
『よく似合っている。と言っておるぞ』
「可愛いね」
とグレアムが笑いかけ、スミスも頷きました。黙っているサムも、先ほどと比べると顔に赤みが戻っています。
『今から思えば、あの者は邪視持ちだったのかもしれんな』
狐が桃の耳元で囁きました。
「何ですか、その……」
『この辺りでは、視線で人を呪う力を持つ者がいると信じられておる。嫉妬の目とも言われていて、地位や権力、富を持つ者が標的にされやすいそうだ。珍しい格好のお主も視線を集めやすいだろう。それでつい視てしまったのかもしれんな』
「はあ」
狐の話すことが難しくて、なかなかついていけません。桃は曖昧な相づちを打っていました。
『あの者の視線を避けたところで、結局誰がどこで視ているかなど分からぬ。こればかりは自分で身を守るしかあるまい。その髪飾りには魔除けの力があるようだ、丁度良かったな』
「そうなんや。……次は呪われないようにって用意してくれたんかな」
(リンさん、内気で口下手な感じやったけど、多分とても誠実で温かい人。……もっとお話できるようになれたらいいなあ)
桃は片方のリボンを外し、丸い飾りを指で撫でました。
「とにかく、元気になったみたいで良かったよ」
ホッとした様子のグレアム達に桃はぺこりと頭をさげます。
「Biedott. Saa lik nibh. (ありがとうございます。彼は親切です)」
サムがその言葉に首を傾げました。本当は「親切でした」と言いたかったのですが、伝わっていなかったのでしょうか?
「Tey.(彼女は)だろ」
「ん?」
(「てい」って女の人の時に使うって聞いたのですが……)
今度は桃が首を傾げる番。その顔を見たサムは、桃が言葉を間違えている訳ではないことに気がつきました。
「リンは女だ」
「えっ」
(髪は短いし、声も低かったからてっきり……。あ、さっきお兄さんって言って待ったやん。どうしよう)
「そういうことは早く言ってあげなさいよ」
落ち込んでいる桃を見かねてフランが口を開きます。
「いや、だって……。名前で気づくだろ普通」
その夜。桃はお礼とお詫びに何を持っていこうか考えるあまり、また眠れない夜を過ごしたのでした。




