33.甘いお店を探しに 最終話
前回のあらすじ:落とし穴に引っかかったらお店が見つかった。
二人はドワーフの後に続いて土手を降ります。足を乗せられる岩と岩の間が離れており、気をつけないと落ちてしまいそうです。
降りた先には広々とした洞窟がありました。入り口が大きな岩でふさがれています。ドワーフが横から岩を押すと、地面を引きずる音を立てながらゆっくりとずれていきます。すると洞窟の中が露わになってきました。ドワーフが中へ入るよう手招きします。天井が低いので、屈みながら中に入りました。背の高いサムは何度か頭をぶつけながら進みます。普段は背の高い人が羨ましい桃ですが、このときだけは小さくて良かったと思いました。
中には小さな机と、切り株のような椅子が置いてあり、奥には小さいながら使い勝手の良さそうな調理場がありました。そして、何より目を引くのは壁一面に飾られた光り物の数々。
「なんだこれ」
「キ、キラキラです」
金、銀、宝石、水晶、お金、よく分らないけど綺麗な色をした石、鳥の羽、虫の羽、短剣まで飾られています。その量は暗いはずの洞窟が眩しく見えるほど。サムは壁に飾っているものを見ようとして膝を伸ばします。すると案の定、頭がぶつかってしまい、顔を歪めました。
「大丈夫ですか?」
「多分」
ドワーフは早速調理場に立ち、お湯を沸かします。白い湯気が黙々とあがり、天井に開けられたまるい穴の中に吸い込まれていきます。そして、金属の長い棒を取り出して、持ち上げると、上の方から重たい音がしました。棒を下ろすと、その先に円盤のようなものがついています。そして日の光が竈の辺りに差し込んで来ました。
「あんたの足、埋まった穴、あの煙突だったんだな」
頭を抑えながらサムがぽつり。煙を逃がすために穴が掘られていて、あの固いものは雨が入るのを防ぐ栓のようなものだったのです。
ドワーフは壺からお茶の葉を取り出しました。お茶とお菓子の用意をしながら二人に話しかけています。竈 は綺麗に切り出された石を積み上げて作られており、綺麗な半円を描いています。机も丹精込めて作られていて縁も滑らか。切り株のような椅子も可愛らしく温かみがあります。
「座っても良いって」
背の低い机の側に置いてある切り株のような椅子に座ります。部屋のあちこちに気を取られているうちに、お茶と木のお皿に乗ったお菓子が運ばれて来ました。
「わあ、かわいいです」
二人は目を輝かせます。ドワーフもカップを持って椅子に腰掛けました。彼が頷いたのを確かめると、サムが速攻で一つ食べてしまいました。
お菓子は小さく四角い形をしていて、透明感のある飴色をしています。中には表面が白っぽく、ざらついているものもありました。噂のとおり一つの塊につき一枚花びらが閉じ込められています。
「あっま。これ蜂蜜?」
どうやら蜂蜜を固めたお菓子みたいです。サムはもう2つ目を食べようとしています。
(行くのが面倒とか、散歩のついでに探すとか言っとったのに、幸せそうな顔しちゃって)
なんだかんだ楽しみにしていたのだと知り、桃は袖を口元に当ててクスクス笑いました。お菓子を食べながらサムとドワーフが話しています。桃が分かったのは「花」という言葉だけでした。
「花びら食べて良いんだって。洗ってあるから」
三つ目に手を伸ばしながら教えてくれます。お皿に乗ったお菓子を数えてみると、あと四つしかありません。早くしないと全部食べられてしまいそうです。
桃は急いで一つ手に取り口に含みます。花の香りが一気に広がりました。表面はざらざらしていて固そうなのに、噛んだり舐めたりしていくうちにトロリと溶けていきます。固いけれど柔らかい。こんな感覚のお菓子は初めてでした。お茶に少し苦みがあるので甘さがあとを引きません。いくらでも食べることができそうです。
あっという間にお皿が空になってしまいました。名残惜しいですが食べさせてくれただけでもありがたいというもの。お茶を飲みながら二人の話に耳を傾けます。やはり断片的にしか聞き取れませんでした。
「へー。大工を。この家具も自分で作ったの?」
「うん。――」
「ああ、確かに。街の家は大きすぎるんだ。で、ここに住むことにしたと。なら大工のあんたが何でこんな甘いもの作ってるんだ?」
「――?」
「別に悪いとかじゃなくて、気になっただけ」
「――船――店」
「ふうん。たまたま船に乗せてくれた礼に作ったら他の人にも振る舞ったらどうかと勧められた、ね。色々あるもんだな」
「アナタ――は、――か?」
「違います」
「そう。ごめん」
急にドワーフの質問を切って捨てたサム。桃は一体何を聞かれたのか知りたいのですが、教えてくれそうな雰囲気では無さそうです。
少し気まずくなってしまったせいか、ドワーフがお茶のお代わりを勧めてくれました。ところが、鐘の音が微かにこだましてお昼を告げていました。そろそろ買い物に行かなくてはなりません。お代わりを飲めないまま二人は席を立ちました。
懐からお金の入った小袋を取り出します。すると、一緒に道端で拾った白い殻まで出てきてしまいました。路地を出る前に、懐へしまっていたのを忘れていたのです。
「あの……いくら?」
上手く伝わるか分かりませんが、聞いてみます。パン屋のお嬢さんが買えるのだから、それほど高くないはず。と特に何も考えることなくもてなしを受けた二人。ところが急に、とんでもない値段を言われたらどうしようかと不安になってきました。果たして、二人の持ち合わせで足りるのでしょうか? ドワーフさんは片手で指を4本立てました。
(4枚。銀貨4枚ってこと?)
袋の中にある銀貨は一枚。手汗が滲んできました。
「サムさん、サムさん。銀貨、足りませんよ」
「銅貨4枚だって」
「え?」
「本当に銅貨4枚で良いんですよね?」
サムが確認すると、ドワーフさんが大きく頷きます。ということは一人二枚という計算になってしまいます。パンでも三枚~五枚位は必要で、近くの酒場でご飯を食べると(勿論、桃はお酒は飲ませて貰えません)銅貨十枚近く飛んでいってしまうのに。基本的に甘いものは高いというイメージの強かった彼女は、こんなに少なくていいのかとかえって戸惑いました。
ドワーフは髭を撫でながらにこにこしています。そして何か話しながらおもむろに指先で殻を触りました。
「それが欲しい、って言ってる。この辺りでは滅多に手に入らないからって」
サムが桃にゆっくりとした口調で伝えます。
(うちが持っていても仕方ないし、殻一つで満足していただけるのなら何よりやな)
「どうぞ」
ドワーフさんは殻をつまみ上げて、入り口からの光に当てました。内側の滑らかな所が様々な色を見せながら輝きます。そして壁に飾られている青い石の上にそれを置きました。まるで殻を被っている生き物が、海を泳いでいるようでした。
屈むどころか殆ど四つん這いになりながらお店を出ます。首と腰の辺りが少し痛くなっていました。狭い所にいたせいか河は広大に、空は一層高く感じられます。土手を上ろうとした時、見送りに出てくれたドワーフが何か言いました。
「店の場所、教えるの、駄目だって」
パン屋のお嬢さんが場所を説明できないと言っていたのは、同じようにドワーフの店主に口止めされていたからでしょうか?
「どうして?」
と聞いてみると、豪快な笑い声が返って来ます。早口で答えてくれているので、「沢山」という言葉位しか桃には分かりません。サムが僅かに肩をふるわせながら言い直します。
「人が沢山来ると潰れちまうだろって。見ての通り小さな店だからさ」
結局店が小さい、という所しか伝わってきませんでした。きっと小さなお店に人が押しかけると困ると言いたかったのでしょう。桃は、他の人を誘えないのは残念です。しかし秘密というのも面白い気がしてくるのでした。




