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32.甘いお店を探しに ③

前回のあらすじ:人狼は何も悪くない、タブンネ

 一休みするついでに河沿いから街を見てみようというサムの提案で、東へと進みます。河沿いには水が街へ溢れてくるのを防ぐために、土地を高くしている土手があり、そこから街を見渡すことができました。とはいえそれほど高くはないので、城壁の外に広がる区画しか見えません。


 河が近づいてくると人通りが減り、穏やかな雰囲気になってきました。河の流れに沿って木々が植えられ、水の青と緑の対比が鮮やかです。大きな荷物を積んだ渡し船が何艘も行き交っており、大きな橋が遠くに見えます。橋を渡る人影が波打っていました。


 二人は土手に植えられた手頃な木の根元に腰掛け、持ってきたお水で喉を潤します。桃は、足がどっと重くなるのを感じました。


「私、お腹空きました」


(外でつまめるものでも作って持って来れば良かった)


 足をぶらつかせながらこぼす桃に、サムがすかさず言い返します。


「だから、これから甘いものを食べに行くんだろ?」


(あ、そうやった)


 今はお菓子を売っている謎のお店を探しているところでした。ここからでもお店が見つからないかと、立ち上がって辺りを見渡してみます。


 あそこで人が集まっているのはお店の形からして八百屋でしょう。向こうは赤い色をした塊がいくつもぶら下がっているので肉屋? ある建物の前では布を体に当てている人達がいます。浅瀬に丸太が積み上がっているのは、森で切った木をこれから運びだすため。ひときわ高くそびえ建っていて、上で金色の鳥が羽ばたいて見えるのは礼拝所の筈です。


 広場に目を向けると、そこには人だかりができていました。端っこの方で鳩っぽい鳥に餌をやっている、筒型の帽子を被った人がいます。旅芸人が来ている様子。それ以外は大体似たような建物が並んでいるのでよく分からないままでした。


 桃は河の方も見てみようと木の反対側に回ります。足を動かすと、妙に地面が柔らかいような気がして首を傾げました。すると突然、足元が崩れ、右足が地面に埋まってしまいました。


「おい、どうした」


「サムさん、ど、どうすれば……」


 サムさんが立ち上がって駆け寄ってきます。幹に手をつけているのでなんとか転ばずに済んでいますが、湿った土が滑り、手に力が入らず抜け出すことができません。


「あのなあ、気をつけて歩けって言ってるだろ、すぐこうなるんだから」


「ごめんなさい」


(確かにちょっとした段差でつまずきやすいかも。足元を見ながら歩くと人や看板にぶつかっちゃうし、前を見て歩くと転ぶし、他の人はどうして何事もなく歩けるんやろ……?)


「謝らなくて良いから、二度と躓かないようにしてくれないかな」


(だからってそこまでイライラしなくても良いやん。この人は一度も転んだことがないんかな? 子どもの頃でも?)


 しかし、自身が鈍くさいほうなのは分かっているので謝るしかありません。


「そうしたいです……すみません」


「あーもういい。ちょっと失礼」


 呆れながらもサムは服をつかんで引っ張り上げました。ついでについた泥も払ってくれます。


(この人、意地悪なのか優しいのか分かんない)


 申し訳なさと気恥ずかしさと訳の分からなさで、桃の頭の中はぐちゃぐちゃになってきます。

そんな彼女をよそにサムは、足の埋まった場所を木の枝で調べていました。


「穴が掘ってあるみたいだな。モグラか? にしては大きい」


 その穴は、彼の手の平くらいの大きさです。そして結構深くまで掘り進められていることが分かりました。彼の肘が埋まったところで木の枝が固いものに当たるような音が響きます。彼が腕を引き上げ、二人で穴を覗き込んでみます。


「なんか埋まってるな」


 円形の石っぽいものが暗い穴の突き当たりにありました。自然にこんな綺麗な円ができるはずがないので、きっと誰かが作って埋めたものでしょう。


「誰が何の為にこんな所へ?」


「うーん」


 と首を傾げる桃。その時、サムが急に彼女の袖をつかみました。強く引っ張るものですからつい体が動いて彼のいる方へ引き寄せられてしまいます。彼は河の方に鋭い視線を向けていました。なんと、背の低い毛むくじゃらの人が二人に向かって歩いて来ています。


「ドワーフか」


 子どものように背が低い割に肉付きのよいおじさんみたいな見た目をしています。サムの言うとおり、相手はドワーフでした。長い眉毛で目元が若干隠れていますが、怖い感じではありません。ドワーフが話しかけてきます。しかし、桃は彼が何を言っているのかさっぱり分かりません。


「客って、あんた店やってるのか」


 サムが固い声で言い放ちます。桃はサムがドワーフと会話をしていることに驚きました。人間とドワーフは似ているようで異なる種族。住む場所も話す言葉も違います。が、サムが聞き取れるということは、相手は人間の言葉で話しているはずです。なぜ桃だけ分からないのでしょうか?


 またドワーフがモゴモゴ言葉を発します。


(あ、今のは「店」っぽい)


 少しだけ分かる単語があったので、ドワーフが人間の言葉で話していることは確実です。それなのに桃は何も分からなくてもやもやしていました。


「それって透き通っていて花びらが入ってるやつ?」


 サムさんが言い返すとドワーフが大きく頷きます。


(サムさん花びらって言っとった。あれ、もしかして……)


 話が途切れた隙にサムの袖を引っ張り、小声で尋ねてみます。


「あの人、何言ってるのですか?」


「そっか、早口だし、訛りもきっついから仕方無いか」


 小声で何か呟いた後、ゆっくりと明るい声で教えてくれました。


「俺たちが、探してたのは、あの、ドワーフの、店だったんだ」


「やっぱり、やったあ!」


 ようやく見つかった嬉しさに、これまでの疲れが一気に吹き飛びます。まさかドワーフのお店だったとは思いもよりませんでした。どおりで街を探し回っても見つからなかったはずです。

ドワーフが下を指しながら話を続けています。


「ついて来いってさ」


「はい!」


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