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27.テレパシー少女の襲撃 ②

前回のあらすじ;怖い女の人と再会してしまった。

「お姉さん、そんなのを抱えてどちらへ向かわれるんですか?」


 聞き慣れた低い声が聞こえてきました。腕で抱えられている体をよじると、その姿を見ることができます。サムでした。服が汚れているので、仕事帰りにすぐ来たのでしょう。


「何か問題でも?」


 女の人が言い返します。口から出てきたのは桃には分からない言葉でした。サムと会話ができているということは、ここの言葉のはずです。


「質問に答えていただきたいですね。どこへ行くのか、としか聞いていませんけど?」


「あえて言うなら、主様の元へ。かな?」


「そいつ知り合いじゃないですよね。売りさばく気ですか? そんな地味で鈍くさい女、大した値がつきませんよ。お姉さんの方が余程価値があるでしょ」


 女の人は桃を引きずりながら少しずつサムに近づいてゆきます。サムは一歩一歩後ろに下がって距離を取ろうとしました。


「そんなことない。この子には価値がある、アナタには分からないだろうけど」


「へー。是非とも聞いてみたいもんだ。どうせあんたの主は余程酔狂な奴なんだろうな」


 女の人は桃を抱えていた手を離し、斧を両手で握りしめてサムめがけて走っていきます。


「あの方を、馬鹿にする気?」


 サムは身を翻して彼女が振りかざした斧を避けたかの様に見えました。ところが腕を押さえています。避けきれずに切られてしまった様子。桃が慌てて駆け寄ろうとすると、彼は手で払いのけるような仕草をします。近づいて欲しくないことを感じ取った桃はその場で立ち止まってしまいました。


「邪魔」


 とサムが女の人を見据えたまま言いました。斧を高く上げた彼女が迫ってきます。邪魔だという彼の言い分は尤も。サムの怪我は心配ですが、ここにいては再び捕まってしまうでしょう。


(だからって、怪我しているのに放っておけんやろ)


 せめて傷口を縛ろうと手巾を取り出し、彼の指示を無視して近づくと、サムはすぐさま立ち上がりました。そして、


「先に手を出したのはあっちだからな」


 遠巻きに歩く人にも聞こえる程の大きな声で何か吐き捨てると、斧の攻撃を避けていつの間にか持っていた小刀で腕を切りつけました。女の人は全く気にする様子を見せずに斧を振り下ろします。サムは背中を向けないように徐々に後ろへと下がっているようです。


桃はこれ以上二人に近づくことができそうにありません。今のところ攻撃を避けているようですが、できる限り逃げて、助けを呼びに行くべきだと考えました。


(パン屋さんとか、酒場の人なら何とかしてくれるかも)


 家の方に向かえば、少なくともどちらかは居るはず。桃は帰り道を必死で思い出しながら走りました。


(止まっちゃだめ。急がなきゃ)


 息が上がって咳き込み、お腹の横が痛くなってきましたが走ります。荷物を持って歩くのは平気な桃ですが、走り続けるのはあまり得意ではありません。そして故郷の子ども達とかけっこをした時はいつもビリでした。


 ですが、ここで止まったら助けを呼ぶのが遅くなります。彼が大怪我をしてしまうかもしれません。女の人は大きな斧を持っていました。あんなのが当たったらひとたまりもないでしょう。


 ふくらはぎの辺りに痛みを覚えながらパン屋の前にたどり着きます。丁度夫婦と思しきお店の人が片付けをしているところでした。


「あの、サムさんが、サムさんが」


 息を切らしながら呼びかけると、パン屋ご夫妻が一斉に桃の方へ振り向きました。奥さんの方が近づいて来て、肩で息をしている桃の背中をさすりながら


「Scat?(なあに?)」


 と声を掛けました。


「えっと、えっと、サムさんが――」


 桃は息を整えながら言葉を続けようとしたけれども、出てきません。「喧嘩をしている」にしろ、「襲われている」にしろ、どう言えば良いのか分からないのです。


(どうしよう、どうしよう、早く止めに行かなきゃいけないのに)


 焦れば焦るほど頭が真っ白になります。ドンドン、ドンドンドンと、慌てて階段を降りる足音と共に恰幅の良いお嬢さんが現れました。母親であるパン屋の奥さんを押しのけて桃の側へやってきます。


「Scat kiitef?(どうしたの?)」


 お嬢さんが尋ねると、奥さんが代わりに答えました。


「この子が血相変えて走って来て、サム君に何かあったみたい。ちょっと一緒に様子を見てきてやりな」


「分かった。行こう」


 お嬢さんに手を引かれ、彼女を連れて行けば良いことを悟る桃。しかし、戦っている所に連れて行くと寧ろ危ないような気がしました。話して説明できない以上、状況を伝えるためには現場に連れて行くのが一番です。


しかし本当に連れて行っても良いのでしょうか?


「Ot pifas.(気をつけて)」


 桃はさっき狐に教えて貰った言葉を掛けます。パン屋のお嬢さんは少しの間首を傾げていましたが、何かを察したのか母親に向かって叫びました。


「ママ、一応衛兵か最悪ゲラーシムおじさんでも良いから誰か呼んできて! 結構ヤバいのかも」


「はいはい。あんたも気をつけな。喧嘩なんかに首を突っ込むんじゃないよ」


「分かってる!」


 桃はパン屋のお嬢さんを案内しながら来た道を戻っていきました。


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