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28.テレパシー少女の襲撃 ③

前回のあらすじ:助けを呼びに行ったよ。

今回サム視点になります。

 (淡々としていたけど,案外直情的なタイプらしいな。少し煽っただけで殴りかかってきた)


 相手は誰かの命令でモモを連れ去る気だったらしい。小綺麗な身なりをしている上に、比較的人目につきやすい場所で襲っていた。おそらくこの辺りの人ではなさそうだとサムは推測する。革靴を履けるほどの報酬を与えられるということは、依頼主はそれなりの身分の可能性が高い。


 そして、サムが対峙している女は、依頼主に相当の忠誠を誓っている雰囲気を醸し出していた。冷静さを失っているのか、攻撃をしてくる方向が大体決まっている。


(読みやすいけど、一回でもまともに食らったらまずいな)


 得物が重量のある斧である上、ナイフしか持っていないサムはリーチの差で反撃できない。今のところ気配は感じないが、仲間が潜んでいる可能性もある。サムは左右から振りかざされる刃を避けながら徐々に後ろへと下がっていき、細い道へ誘い込もうとした。再び桃を追いかけていかないよう、引きつける意図だ。一瞬後ろを見て、挟み撃ちされていないのを確認する。


「そんな重いのを振り回しているのにその程度?」


「うるさい」


 抑揚のない声で返しながら相手が得物を振り上げた時、勢い余って斧頭が家の壁に当たる。木くずが落ち、落書きのされた壁にへこみができた。我に返ってそのまま手を下ろす。彼女の腰辺りまで伸びている柄。狭い路地でそれを振り回すことは不可能だと気づいたらしい。


 彼女は意外にも、斧をあっさりその場に捨て、素早く腰からナイフを取り出した。お互い構えて相手の出方を伺っている。


(攻撃して来ないな。こっちが刃先を見せているせいかもしれないけど。できればこのまま戦意喪失してくれないかな)


 逃げた人を追いかけに行かれたら仕掛けた意味がなくなってしまう。肘を少し上げて隙を作り、誘ってみることにした。姿勢を低くしながら右側を狙ってきたところで一歩踏み出し、首から肩を切りにいく。相手は素早く身を引き、ナイフを持っていない方の手で肩を押さえる。


 服の上からしか女を切ることができなかったので、皮膚まで届いていたとしても傷口は浅いはず。しかし青い顔をしながら何か呟いていた。


「おかしい……何も聞こえなかった。こんなの初めて」


 サムは、何を言っているのか意味が分からなかった。彼女が醸し出す異様な雰囲気に押されて、背中から冷や汗をかいているのを感じた。


「分からないんじゃ、あの方のお役に立てない」


 女は赤い血が滲み出でいるのも構わず、ふらりと立ち上がる。すると、いきなり全速力でサムに突っ込んできて、鬼気迫る表情でナイフを振り回し始めた。


「何で……なんでなんでなんでなんで聞こえないんだ。――そうか、同族だからか!!」


 意味不明な叫びの意味を考えている暇は無かった。サムは相手の殺意、とでも言うべきものが自分自身に向けられているのを確信する。しかし、倒されるいわれもなければ死んでやる義理もない。当然女だからと手加減する気もなかった。相手の後ろに回り込み、首元にナイフを突きつける。


「アタシを殺すつもり? 罪悪感ってものはないのね」


「命乞いするなら、もう少しまともなのを聞かせろよ」


 その時、路地の中でも日の当たっている場所に人の形をした影が落ちていることに気がついた。


(不味い。挟まれた)


 仲間とおぼしき人が建物の上に立っている。彼女を突き飛ばして路地の出口に向かう。


「サラ。一体何をしているのです」


 声が降ってきたその直後、薄い緑色のローブを着た肌の白い男が女のそばに降り立った。耳元までは見えないがすらりとした体型と長い髪の毛からしてエルフかもしれない。サラと呼ばれた女に手を差し伸べ体を起こしている。 


(逃げるなら今のうちだ)


 男の方が追いかけて来ないよう、腰に差してあったナイフを足元めがけて投げる。が、突如光の壁が現れ、ナイフをはじいてしまった。


(相手は魔法使いかよ、逃げようが喚こうが死ぬしかない奴じゃねえか。こんなの相手にする羽目になるなんて冗談じゃない)


 いざ逃げようとサムの体が前のめりになった途端、サラが叫びだした。逃げるべきだと思いながらも、壁に張り付くように立って聞き耳を立ててしまう。


「待って。あの男はアタシが殺す」


「また随分と気が立っているみたいですが、一般人を相手にしている暇はありませんぞ」


「モモちゃんにだって会った。あの男のせいで取り逃がしたんだ」


「ああ、あの小娘ですな。半年近く街で元気にしているそうじゃありませんか。結果としては十分でしょうな」


「でも、他に目をつける人が出る前にっておっしゃってたわ」


「なるほど確かに。あの方の考えはいつも分かりませんからなあ。しかし更に優先すべき事項ができたともおっしゃっていましたぞ。……が街に戻ってきたとの噂が」


「そう」


「いずれにせよ、無理に追う必要はありませぬ。まずは君の治療が最優先ですな」


 少なくとも魔法使いはサムに対して興味を持っていない様子。ほっと息を吐く。早足でその場を離れ、万が一追いかけて来た時に居場所が知られないようわざと遠回りをして帰った。一旦川沿いに出て、できるだけ目立たない道を選びながら家を目指す。


 脈打つ音に合わせて腕や顔の痛みが広がっていく。いつの間にか頬の辺りも切れていた。

 手で押さえつけながら歩き続け、広場から行きつけの酒場の横にある路地へ入ろうとした時、見覚えのある二人組の姿が彼の目に入った。奇妙な服に髪を二つ結びにしている桃と、短く切りそろえているふくよかなシルエットをしたパン屋の娘。二人もサムに気がついたらしく、大きく手を振る。桃がかけよってきて、頬から耳の辺りにある筈の傷を覗き込んだ。傷口に当てるものを取り出そうとしたのか、懐や袖の中を探し始める。その間にパン屋の娘が話しかけてきた。


「まあ、無事で良かったよ。一旦喧嘩しているのが見えてこれはまずいねって衛兵さん呼びに行ってたんだ。けど戻って来たらいなくなっててさ。二人で探し回ったんだから」


「そりゃどうも」


 ようやくハンカチを探し当てたらしく、綺麗に畳み直してサムに差し出す。怪我は複数箇所あり、血は止まりかけていたので殆ど意味はない。しかし拒否をしたらパン屋の娘に「冷たい」とかぶつぶつ言われそうな気がしたので、何も言わずに受け取った。今にも涙がこぼれそうな顔をしている桃。


(俺、何でこいつのために体を張ってるんだっけ?) 


 サムは変な胸のざわめきを覚えた。


(ああ、そうだった。こいつといれば半年家賃タダって約束したんだ)


 盗賊ギルドのマスターを巻き込んだ甲斐あってか、今のところは彼のもとに請求が来ていない。そろそろ期限が迫っていたのだが、ギリギリまで免除されたいとは思っていたのである。


(きっとそのせいだ。そういうことにしておこう)


 

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