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25.空飛ぶ箒に乗って! 最終話

前回のあらすじ:妖なら何でもできると思ってた。

 勢いが良すぎて振り落とされそうになりながら、箒は城壁を通り過ぎて貧民街の上を飛んでいきます。どこまでも続く大きな河と広大な麦畑、そして奥には深い森。家が密集するこの地区では中々降りるところが見つからず、仕方無く目的地から少し離れた広場に降り立ちました。ここからは歩いて目的地に向かいます。


「ここよ」


 と声を上げてフランが立ち止まったのは桃の住む家の斜め前にあるパン屋さんでした。少し突き出たひさしの下に机が置かれ、焼きたてのパンが並んでいます。丸くて黒っぽいのがほとんどですが、たまに花の形をしていたり、木の実が混ぜてあったりと様々な種類のパンが見られました。


 小麦の香ばしい香りでお腹が空いてくる二人。そこでは恰幅の良い桃と同じ歳くらいの子が、店番をしています。この時間帯はまだあまり人が来ていません。そのせいか彼女は椅子に座って切り落としたパンの耳をかじっていました。


 桃は懐から手紙を取り出すと、それを店番中の子に差し出します。彼女はパンを食べる手を止めて、目を輝かせながら受け取りました。


「お届け物よ」


 とフランが話しかけると、彼女は可愛らしい声で顔を赤らめながら


「ありがとう。兄ちゃんからだ」


 と返し、二人に微笑みかけます。桃もパン屋のお嬢さんの言葉を聞き取ることができました。兄は出稼ぎ中なのか、一緒には住んでいないようです。


 ですがきっと便りを毎度楽しみにしているのでしょう。早く渡すことができたことに満足感を覚えます。


 フランが紙を渡すとお嬢さんは一旦建物の中に入りました。建物の中では父親とおぼしき男の人が窯からパンを取り出しており、奥さんと思われる女の人が小麦粉をふるったりしています。


 お嬢さんは持って来たペンでサラサラとサインを書き付けフランに渡します。そして、パンの入った籠を桃に差し出しました。桃は持ち手を握りペコリと頭を下げます。そこに入っているパンには、燻製のお肉や野菜が挟まっていました。お昼ご飯に丁度良さそうです。


『主のことだから箒に乗ると折角のお礼が落ちてしまうだろう』


 という狐の意見により、二人は歩いて桃の仕事場であるグレアムの家に戻りました。


(きっとこれ以上箒に乗りたくなかったんやろうな。具合悪そうにしていたから)


 狐はフランの腕に抱かれています。少し毛並みの艶が悪くなっているような気がしました。家に戻ると、桃は二つのパンをそれぞれ四等分して、そのうち二切れをグレアムのお父さんの為に取り分けます。グレアムが帰って来たら食べられるように二切れを籠に残しておきました。スープが残っていたのでそれを温め直して仕事場の机に置いておきます。


 桃とフランは台所でお昼ご飯です。


「あ、狐さんも食べる?」


 椅子の上で丸くなっている狐は、『要らぬ』と一言。パンを半分に割ろうとした桃の手が止まります。狐は小声で『肉だけなら』と付け加えましたが、桃の耳には入りませんでした。


 淹れたてのお茶と焼きたてのパンはちょっとした贅沢です。パンは歯ごたえがしっかりとしていて、麦の

香ばしい香りとジューシーなお肉が相性抜群。フランも大きな口を開けてかぶりついていました。


「Bib lik laphe. (美味しいわね)」


「えっと、Laphe.(美味しい)」


 頬を抑えながら身もだえするフランの言葉を真似して相づちを打ちました。フランは拳を縦向きにして親指だけを上に突き立てる様な仕草をします。


『あれは“良い”ということを伝えたい時の仕草だ。言い方は大体合っておったぞ』


 フランにお肉を分けて貰った狐が頬を膨らませながら近寄ってきました。酔いがおさまってきたのか、足取りが軽くなっています。


「良かったあ。でも何でフランさんはうちなんかに付きあってくれるんやろ?」


『ん? それがどうした?』


 フランが首を傾げ狐に目配せをしています。桃が何を言っているのか知りたい様です。


「前から気になってはいたんよ。こうして遊びに来てくれて、色々教えてくれるやん? 何でやろって。フランさんいつも服が綺麗やし、おつきの人もいるし、うちみたいな貧乏人といて嫌やないんかなって」


 狐を通して桃の疑問を知ったフランは食べかけのパンを置き、お茶を一杯飲むと、手の甲を口元に当てて、


「ふふ、ふふふ、あははははは」


 と高笑いし始めました。お腹を抱えています。そして席を立って桃の所に行き、そっと抱き寄せました。


「えっ」


 急にフランが来たので桃は驚きの声を上げます。見られたらどうしよう、という恥ずかしさが段々こみ上げてきますが、無理矢理引きはがすのも恐れ多く、されるがままでした。


「私、楽しい。貴方と一緒」


 フランはわざと単語だけを使ってゆっくりと囁きかけました。狐に教えて貰わなくても何を言っているのか何となく伝わってきます。


「Cuy’norb cra egnus?(貴方は嫌?)」


 眉を下げ、瞳を潤ませて尋ねるフラン。不安げな顔を見上げて桃は首を横に振ります。


「E egnus !(私、楽しい)Biedot.(ありがとう)」


 その言葉を聞いたフランは花が咲くように顔をほころばせました。桃もつられて破顔します。


『おぬしといると見飽きた街が新鮮に見えるといっておったぞ』


 という狐の声が聞こえてきました。毎日が新しいことばかりの桃とは違い、フランにとって今の生活は当たり前で溢れているのでしょう。


 ご飯を食べ終えると、パン屋のお嬢さんから貰ったサインをグレアムに届けるため家を出て行きます。


『おぬしはそろそろ文章を言えるようにならんとな』


 と言って狐がフランの後を追いました。桃は背筋を伸ばして彼女たちの後ろ姿を見送りながら、普段どんな暮らしをしているのだろうと思いを馳せるのでした。


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