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24.空飛ぶ箒に乗って! ②

前回のあらすじ:箒で空を飛ぶのは皆の夢

『箒で空を飛んでみないか、と言っておる』


「え?」


『飛べるのはグレアムだけではない、と』


 一人で飛ぶことはできなくても、乗せて貰えば飛べるということ。桃の顔が一気に明るくなりました。フランが箒にまたがったあと、彼女の後ろにまたがって捕まっているようにと指示されます。その通りに乗ってみると狐が懐に入ってきました。温かいけれど毛がくすぐったくて変な感じです。


『気をつけろよ、こやつは飛ぶのが下手だからな』


「余計なお世話よ」


 フランが不服そうに何か呟きました。一緒に地面を蹴り上げると、足が離れお腹の下から何かがせり上がってくるような心地がします。強い風が吹き込み、どんどん眼下の庭が小さくなっていきました。橙色の板を重ねた様な所から煙突が伸び、煙をはき出しています。


(わあ。あれはきっと、グレアムさんの家の屋根や。橙っぽい色してたんやなあ)


 屋根を見て感動したのもつかの間、いきなりフランが体を倒します。すると箒が急に角度を変え勢いよく動き出しました。止まったかと思えば今度は右へ曲がり、ゆっくりになって、安心しかけたところで左へ。フランにしがみついていないと振り落とされてしまいます。


(クラクラしてきました……でも、これはこれで楽しいかも)


 ようやく真っ直ぐ進むようになり、フランは陽気に歌を歌い出します。全然知らない歌でしたが、つい体を揺らして口ずさみたくなってしまうような旋律でした。とても不安定な場所なのに安定した声量が出ていて、町中に響き渡りそうな勢いです。


 彼女の歌に耳を傾け、時には急な速度の変化に驚きながら進んでいくと、桃がまだ行ったことのない区画でフランが高度を落としました。全体的に白っぽい家が多く、半円型の大きな窓が並んでいて、屋根の上には鳥や羽の生えた子どもの小さな彫刻がついています。箒が屋根の下まで降りてきました。


「グレアム!」


 フランが手を振った先に人が二人。グレアムがある家の人に手紙を渡しているところでした。足元には大きなお届けものが置かれ、箒が立て掛けてあります。グレアムが家を出たタイミングで桃とフランは大きく手を振りました。


ところが、彼は肩を落とし大きなため息をついています。何か困っている様子。振り向いたフランと顔を見合わせ、彼の肩くらいの高さまで高度を下げると浮いたまま箒が止まりました。


「こ、こんにちは……」


「こんにちは。ってモモちゃんどうしたの」


「その、すみません」


「あ、別に怒ってないからね。ただ、どうしたのかなって」


 グレアムが、申し訳なさそうに縮こまっている桃を慌てて慰めます。そして、桃の前にいるフランを見ると、大きくため息を吐きました。何故彼女たちがここに居るのかおおよそ察したようです。


「フラン、モモちゃんは仕事中なんだよ」


「ほんの少しだけ気分転換していますの。箒にまたがってぴょんぴょん跳んでいたから乗せてあげたのよ」


「そ、そうなんだ……。まあ、箒に乗るのは皆の憧れだからね。仕方ないね。……はあ」


「貴方こそどうしたの、落ち込んじゃって」


「それがさ――」


『どうもあの男、急に飛べなくなって頼まれた仕事ができなくなったらしい――ウッ』


 狐がいつのまにか桃の肩に乗り、耳元で囁きかけてきました。ところがなんだかぐったりしています。先が茶色くなっている小さな腕が、ブラブラと力なさげに揺れていました。


「どこか具合でも悪いんですか?」


 声を潜めながら狐に尋ねます。少なくともフランは事情を知っているとはいえ、大っぴらに動物と話すのもはばかられるからです。


『ちと気分が悪くてな。おぬしは無事か』


「ええ。むしろちょっと楽しかったです」


『……これが若さというものか? うぐっ』


「狐さんが大変や、どうしよう。お薬って効くんやろか?」


『酔っただけだ。直に治るだろう。まあ、ともかく魔法を使うには精霊――神や妖怪みたいなものだと思えばよい――の力が必要なのだ。ところが奴らは気まぐれで、あの者のように朝は良くても昼からそっぽを向かれる、ということも稀に起こるのだ』


「辛いのに教えてくれてありがとう。あれ、でも狐さんも妖怪さんやろ? どうにかならへんの?」


『それは火の精霊に水を出せと命令するようなものだぞ』


「とりあえず難しいんやね。みんな大変なんやなあ」


『魔法とて万能ではないということだ。あーまだ気持ち悪い』


「大丈夫ですか」


『話せば気が紛れると思ったのだがな』


 その頃グレアムは、桃の家の近くに届ける予定の手紙があったのに、この調子では時間内に届けられないことをフランに打ち明けていました。


「他の人に頼みに行くんだけど、皆出払っているから探すの大変でさ。お互い様なんだけどね。みんな自分の荷物があるから。ああ、気が重いなあ」


「だったら私が代わりに届けてあげるわよ」


「ありがとう。でもこれは僕の仕事だから」


「いいじゃないの一つ位。どうせ桃を送り届けに行くんだからついでよついで。何ならサイン貰って渡しに行くわ。他の人を探すより早いはずよ」


「早い遅いの問題じゃないんだって」


 とグレアムは必死に断りますが、結局押し切られ手紙を渡してしまいました。フランは貰ったお届け物を桃に渡します。


「Ciojetec okagne.(大事なもの)」


『あの男の代わりにその手紙を届けに行くらしい。全く困った主だ』


「なら、しっかり持っとらんといかんね」


 桃は落としてしまわないよう懐にしまいます。そして箒に乗った二人と一匹は空高く上がっていきました。


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