23.空飛ぶ箒に乗って! ①
前回のあらすじ:桃は風邪を移されて寝込んでいた。
雪が溶けて春の兆しが見えてくると、ようやく再びグレアムの家へ仕事に行けるようになりました。それまでは行き帰りが大変だから、という理由とグレアム自身仕事が減り、家にいることが多いということで晴れた日以外はお休みだったのです。
家にたどり着くと、グレアムが慌ただしい様子で玄関を飛び出してきました。髪の毛に寝癖がついたままになっていて、服の襟も曲がっています。珍しく寝坊してしまったみたいです。
「Seu batac, baar.(おはよう、ごめんね)」
「Seu batac.(おはようございます)」
いつもならそのまま走って仕事場へ行く筈なのに、今日の彼は庭に入っていきました。不思議に思い覗いてみると、柄の太い箒にまたがっています。そして地面を蹴ってふわりと飛び上がりました。すると、木の高さまで箒にまたがった彼が浮かんだのです。今度は輪を描くように進みながら高く上がっていきます。やがて屋根よりも高くなり、服をはためかせながら鳥のように西へ西へと行ってしまいました。
「わあ。すごい」
桃は姿が見えなくなるまでずっと外で見送っています。
(急いでいる時とか、雪の積もった時に飛べたら便利やろうなあ)
それに加えて、楽しそうだなあと思いながら見ていました。
朝はバタバタしていたので、きっと朝ご飯の片付けが終わっていないと予想し台所に入ります。案の定飲みかけのカップと空になったお皿が台に置かれたままでした。台を拭き、皿を洗って片付けます。
それが終わると洗濯物の入った籠を持って外に出ました。裏口に箒が立て掛けてあるのが目につきます。仕事中も朝の光景が気になって仕方ありません。洗濯物を洗っている最中もつい箒を眺めてしまいます。ようやく洗濯物を干し終わると
(お庭を掃くんやもん)
と自分に言い聞かせながら箒を手に取ってしまいました。辺りを見渡して人がいないのを確かめると、近くを掃いてはまたがってみたり、軽く枯れ葉を集めては飛びはねてみたり。ところが何度やってもすぐに落ちて尻餅をつくだけです。グレアムのように飛ぶどころか浮かぶことすらできません。
「モーモ!」
「わっ」
もう一回挑戦してみようと立ち上がり、箒を下に傾けていると声を掛けられてしまいました。大きく良く通る声は間違いなくフランのもの。また遊びに来てくれたようです。地面に叩きつけられる所を見られたかもしれないと思うと、顔が熱くなってきます。
「Seu batac.(おはようございます)」
「Seu batec. Ty……nerb batac , batec (おはよう。でも……bat“a”cじゃなくてbat“e”cよ)」
「ばてっく?」
首を傾げながら発音してみると、フランが何度も頷きました。「おはよう」は毎日使っている言葉なのに少し発音を間違えていたみたいです。ますます恥ずかしくなってきます。
『ところで、箒に乗ってどうしたんだね』
狐も桃の元へ走ってきました。やはり見られていたようです。相変わらず白くてつやの良い毛並みをしています。桃は抱きあげて撫でながら事情を話しました。
「あ、いえ、その。グレアムさんみたいに空を飛んでみたくて……」
『うむ。あれは魔法だからな。ちなみに“飛ぶ”は“valf”だ。覚えておくように』
「“ばるふ”ですね。ばるふ、ばるふ……」
『うむ』
狐が満足そうに前足で顔をこすります。体を震わせると、狐がまた話しかけてきました。
『だが、おぬしが箒で飛ぶのはかなり難しいだろうな』
「え、そうなんや。何でですか?」
『魔法を使うには特別な力が必要なのだ。それを持っている者もいれば、ない者もいる』
「うーんと、私には難しいってことは、その力がないんやね」
『残念だがな』
どれだけ頑張っても空を飛ぶことができないのです。仕方がないとはいえ、内心少しだけ期待していたのです。もしかすると空から故郷を探すことだってできるかもしれません。狐を下ろして庭掃除に戻ります。ため息をつきながらせっせと雑草取りをする姿を見かねたフランは、地面に倒れていた箒を手に取りました。
「モモ!」
「はい、何か? あっ」
話しかけられやっとお客様であるフランをもてなしていないことに気がつきます。
「お茶、忘れていました。すみません、すみません」
「いいえ」
フランは首を振り、不適な笑みを浮かべます。
『箒で空を飛んでみないか、と言っておる』
「え?」
『飛べるのはグレアムだけではない、とのことだ』




