22.病と出会い、そして夢を見る 最終話
前回のあらすじ:おっさんこわい
今回はサム視点です。
熱が出てから数日経ち、ようやく一日起きていられるようになった。桃が急に家を出て行ったのだけは覚えている。その日の夜、何故か酒場の店主が来て、桃が薬を求めて雪の中を駆けずり回っていたと聞かされた。
(雪の中とか、凍え死ぬだろ。馬鹿じゃねえの)
その無茶が祟ったのか今度は桃が熱を出して寝込んでいる。あいにく薬が残っていたのでそれを飲ませたところ、だいぶ咳が治まってきた。
ここ数日なぜか酒場の店主、パトリックが飯を作りにくるようになった。店から食材を持ち込んでくれるおかげで、厳しい冬に色々なものが食べられる。ところが、後から何を要求されるのかと肝が冷えてサムは喉に食べ物が通らなかった。
普段の食事ではあり得ないほど肉と魚がごろごろ入った粥を前にため息をつく。
「ほら、病み上がりなんだからしっかり食べなきゃ。体が弱るから風邪を引くのよ」
「はいはい、分かってますよ」
「なら食べる」
パトリックは更に大きなスプーン一杯分、サムの椀の中に継ぎ足す。
「モモがこれまで稼いだ金じゃあ薬は買えなかっただろ」
「どうしたの? いきなり」
「さっきゲラーシムが冷やかしに来たんだ」
「えー。あたしも、もっと早く来るんだった」
「あいつ、あんたの首飾りをしていたそうだ。一体何を企んでいる?」
(ここまで単刀直入に聞いてしまうと返ってはぐらかされるか。まだ頭が完全には回っていないみたいだ)
パトリックは自分の椀に粥を注ぎながら目を細めてクスリと笑った。
「たまには素直に厚意を受け取っても良いんじゃない? 確かにここはろくでもない人もいるけどさ。ずっと疑っていても疲れるわよ」
(確かにろくでもない奴は多いだろうな、自分も含めて)
ゲラーシムは、モモの身を狙っている人がいたから気をつけるように、と忠告してきた。
(どの口が言ってるんだ)
とサムは苛立ちを募らせる。先ほどゲラーシムがノックもせずに部屋へ来た時、桃は毛皮を頭から被って縮こまっていた。相当トラウマを植えつけているのでは? と勘ぐってしまった。
「いや、すみません。わざわざ食事まで用意してもらっちゃったから」
案の定ごまかしに来ていると思ったサムは、乗っかったふりをする。
「だって風邪だと聞いたら放っておけないでしょう? 病は怖いんだから。これ以上悪化させちゃ駄目よ、あの子を置いていくようなことしちゃ」
ところが、そう語るパトリックの目は遠くを真っ直ぐに見つめていた。きっとサムの知らない過去に何かがあったのだろうと思わせる程に。
(やばい、調子狂ってきた)
「別に好きで一緒にいるわけじゃないし、お互い。どうにでもなるだろ」
「そうかしら? 結構頼りにされている気がするけどね」
所詮くじ引きで押しつけられた相手。今の彼女には職場もあるし、フランというお嬢様にも頻繁に会っている様子。言葉が通じる狐? もいるし、困った時には彼女を頼ることだってできるはずだ。
モモは毛皮にくるまりながら静かに寝息を立てていた。サムは図らずも彼女のおかげで命拾いしてしまったのである。
――久しぶりにあの人の夢を見た。竈に火をつけているのを寝床から覗いている夢を。規則正しく打ち付けられる音が不思議と心地いい。
石を落としてあたふたしているのが、全然あの人らしくなくて、これが夢だと気がついた。
今となってはどうしてあんな夢を見てしまったのか、見当もつかない。静かな冬の日々が終わりを迎えようとしていた。




