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19.病と出会い、そして夢を見る ①

前回のあらすじ:的当てゲームに巻き込まれた

 いよいよ冬本番。寒さも厳しくなり、雪が降り積もるようになりました。働きに出られる日も少なくなってきます。買い込んだ食料もまだ残っており、晴れた日にはサムが買い物に出かけますが、日に日に少なくなっていきました。


 殆どご飯を食べられない日も増えてきます。はじめは夢を見ているかのような銀世界や、ぎゅむっとした雪の感触を楽しんでいましたが、段々寒さと不自由さが身にしみるようになり、起きるのも辛くなってきました。


 そんなある日、朝の身支度を終え、ご飯ができたと呼びかけてもサムが起きてきません。いつもならこの位の時間までには身支度を終えているはずです。最近は彼に起こされる日も増えてきました。


 胸騒ぎがして様子を見に行くと、頭まで上着を被りながら眠っています。顔にかかっている上着をめくってみると、顔を赤くして汗びっしょりになっていました。彼の額に手を当ててみます。


(熱い……風邪をひいてしまったんやね。大変!)


 桃は慌てて棚という棚の引き出しを開け、新しい服を探します。体を温められるよう干してあった上着も持って来ました。できるだけ綺麗な布を水に浸して固く絞り、顔の汗を拭います。寒そうにしていますが、汗をそのままにしておく訳にはいきません。上半身の服は脱がせて、ズボンもできる限りまくって体を拭きます。


 サムはうっすらと目を開けたかと思うと、勢いよく体を起こしました。嫌がっているのか眠いだけなのか、それとも恥ずかしいのか、思いっきり睨みつけてきますが、桃はひるみません。


「はいはい、ごめんなさいね」


 そう言って新しい服を着せます。流石の彼も抵抗する気力は無いのか、言われるがままに着替えました。


「食べる?」


 作ってあったスープを椀についで彼に渡します。


「どうも」


 彼の声は弱々しく、かすれていました。半分くらい飲むと、もういいと首を振ります。食欲がないみたいで、桃はますます心配になりました。時折様子見がてら布を冷やし直しますが、ますます熱くなっている様な気がしました。


 その夜、珍しくうなされた声で目を覚ましました。サムが苦しそうに咳き込んでいます。


「……、tika……」


 ティカというのは、確か中年位の女性に呼びかける時に使っているのを耳にしたことがあります。多分、「おばさん」といった意味なのでしょう。


(いくら熱に浮かされているからって、おばさん呼ばわりしなくたって良いのに)


 少し腹を立てながら布を冷やし直し、汗を拭います。それが終わると水を飲ませるために、火をおこしました。火打ち石と打ち金を持つ手がかじかんで全然火花が散りません。その間にもどんどん彼の咳はひどくなっていきます。胸につかえた異物をはき出そうとするかの様な、聞いている桃まで苦しくなるような咳でした。


 震えた手が滑って石が薪中に落ちてしまいます。暗くて何も見えない中、手で探りだします。めくれた木の皮が手に刺さりそうになっても気にしてはいられません。少しでも落ち着くように部屋を暖めて、何か飲ませてあげなければ。


「……tika……Anna」


 ゼエゼエと苦しそうに息をしながら、呼びかけてきます。今度は別の言葉がうっすらと聞こえてきました。「アナ」、か「アンナ」か分かりませんが、人の名前みたいです。彼は桃をおばさん呼ばわりしているのではなく、「アナおばさん」あるいは「アンナおばさん」という人を呼んでいることに気がつきました。夢うつつなのです。


(きっと、とても大切な人なんやね)


 サムの家族のことが気になってあれこれ考えているうちに、手に冷たい物があたりました。石です。どうにか拾い上げて金に打ち付けます。火がつく頃には、窓から白く淡い光が差し込み、そとから人の話し声がうっすらと聞こえてくるようになりました。


 沸騰させたお湯を冷まして、サムに飲ませます。咳は続きましたが、あの苦しそうな音ではなくなってきました。起きることも眠ることもできていなさそうです。


 外では、ドサッと雪が落ちる大きな音がして、部屋が僅かに揺れました。この天気では薬を買いに行けません。体を温めて、額を冷やして、時々水やスープを飲ませてあげること位しかできることがないのです。


(こじらせないうちに治れば良いんやけど)


 風邪が移って桃まで動けなくなったら、それこそ共倒れになってしまいます。桃は針仕事や掃除、洗濯に手をつけることもできないまま、彼の側と竈を行ったり来たりしてその日をすごしました。


 お昼に知らない人が家に尋ねて来ましたが、彼の様子を見ると何も言わずにそっと扉を閉じて帰っていきました。おそらくサムが仕事に来ないので様子を見に来たのでしょう。


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