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17.冬支度 前編

前回のあらすじ:傷口は塞がっても治らない傷

 いよいよ寒さが厳しくなり、色づいた葉も落ちるようになってきました。近所の人達も雪が降る前にと物を買い込んだり、屋根の修繕をしたりと大忙し。桃達も例外ではありません。


 その日、サムに連れられて初めて買い物に出かけました。そろそろ一人で行けるようになって欲しいという思いもあったでしょうが、一番の理由は荷物持ちが欲しかったからでしょう。


 細く、ぬかるんだ道を抜けると、まばらに石の埋められた道が現れました。そこをまっすぐ進み、酒場のある角を右に曲がります。


段々道路が綺麗になっていき、開けた場所が見えてきました、広場です。真ん中に枯れかけの噴水があり、それを取り囲むように出店が輪を作っています。広場の周辺にある建物の一階は殆どお店。それぞれの店に人々が列を作っていました。


 サムはまず、大きな毛皮でできた屋根の出店に向かいます。彼に手招きされた桃は、茶色い毛皮の服を着せられました。


この前掛けてくれた上着よりは薄手ですが、十分暖かそうです。むしろ軽くなって着心地が良さそうです。


 毛皮の上着を脱いでサムに渡します。それを片腕に抱えたまま靴も持って来ました。一旦靴底を指でなぞったあと、桃の目の前に置かれます。


恐る恐る履いてみると、かかとが入りません。紐を引っ張りながらどうにか納めると、足に吸い付くような感じがしてきます。


 もう少し大きい方が良いな、と桃は思いましたが、彼は大きく頷いて上着と一緒にお店の人の元へ持って行ってしまいました。


 もやもやした気持ちと一緒に毛皮の服を抱えながら次の店に向かいます。次は石けんを扱うお店です。サムは一番大きな袋を指します。石けんが沢山詰め込まれています。これを買うつもりみたいです。


 彼は桃に向かって指で五と十を示しました。銅貨五十枚かかるみたいです。ところが、


「買う、二十」


 と小声で言いながら、次は二と十の指を立てました。意味が分からないまま桃は店の人に話しかけるサムの様子を傍らで見守ります。五か三、といった数字が飛び交いつつ二人は言い合っていました。十という言葉も聞こえた気がします。


サムは手を下に下げて何か必死に訴えかけているようです。時々手を合わせて懇願している風にも見えました。


(もしかして、まけて貰おうとしているんかな)


 桃は彼の言った言葉の意図にやっと気がつきます。お店の人は背の高い男の人です。話し声が怒鳴っている風にも聞こえるせいか、桃は内心縮み上がっていました。もし彼女がここで買い物をするとなったら、早く終えるために五十枚払ってしまうでしょう。


 なかなか双方譲らなかったみたいですが、ついに観念したのか、お店の人が口惜しそうに二十と言いました。サムは首をひねってうーん、といいながら肯きます。そして銅貨の入った袋を相手に差しだしました。彼は宣言どおり、銅貨五十枚かかる石けんをたった二十枚で買ってしまったのです。


ところがあまり嬉しそうな顔をしません。むしろ口惜しそうです。桃は次の場所まで歩いている間、それが不思議で仕方ありませんでした。


 次に行ったお店では木桶や木の椀を買い足す予定です。一方サムは机に品物をおいたきり店員さんと話し始めてしまいます。「きれい」という言葉が聞こえました。少し声が高くなっていて、お店の人も嬉しそうな様子です。


なんだかほめそやしているみたい。桃はそっちのけて話をし続け、銅貨数枚だけ机において戻ってきました。


 今度は酒屋さんに入ります。先ほどまでは桃を入り口の近くで待たせていました。


しかし料理に使うお酒を買いに来たここでは、お店の人に挨拶するよう言います。桃は言葉に詰まりながら「こんにちは」と言い、ペコリと頭をさげました。お店の人は、小さな樽一つ分しか頼んでいないはずなのに、樽を二つ桃に渡します。


一個返そうとしましたが、相手は首を振るばかり、サムは何も言わずに桃の着ている服の袖を引っ張ります。結局二樽持って来てしまいました。


 てっきり買い出しの仕方を教えてくれているものだと思っていた桃でしたが、お店によってすることが違いすぎて、とても覚えられる気がしません。


 彼が干し肉を買いに行っている間、桃は噴水の淵に荷物を置いて腰掛け一休み。小さな肉屋に行列ができていたため、荷物が邪魔になりそうだったのです。


ニコニコしながら買い物をする彼の様子を見ていると、どの場所でも安く買ったり多めに貰ったり。流石の桃も段々怪しく思えてきます。


(あの手この手でおまけして貰ってるんかな?)


 という考えに至ったとき、


(ちゃっかりした人やなあ)


 感心を通り越して呆れてしまいました。ふと荷物に視線を戻すと、どこか寂しさを覚えます。もっと荷物が多かった気がするので数えてみました。服、桶、石けん、帽子、靴、お酒……お酒の樽が一つしかありません。二つ持っていたはずなのに。


 きょろきょろ辺りを見渡すと、怪しげなおじさんが樽を抱えて走っています。肉付きは良いのに足取りはふらついていて、見覚えのある後ろ姿をしていました。


荷物を抱えて走って行くことはとてもできないので、見失わないように目で追いかけます。


 おじさんが広場を出て通りに入った辺りでサムが戻ってきました。慌てて酒樽とおじさんの向かった方を指して何があったか知らせようとします。はじめは苦い顔をしていましたが、おじさんの後ろ姿を認めると大きく舌打ちをしました。


「ごめんなさい……」


 サムはちゃんと見ていろよと言いたげに、服の上から桃の腕を指ではじきます。桃は目尻に涙を浮かべながら腕を抑えました。予想以上に痛かったのです。


荷物を持っておじさんを追いかけようとしましたが、多すぎて二人とも走ることができません。


「Hoca(家)」


 とサムが言いました。一旦帰るつもりだと分かった桃は、「はい」と返事をします。できるだけ早足で戻り、荷物を置いてすぐ外に出ます。


来た道を戻るのかと思いきや、サムは家の一階にある部屋のドアを勢いよく押しました。ところが中は暗く誰もいなさそうです。


 桃はその時、お酒を持っていってしまったのはここに住んでいるおじさんだということに気がつきました。ここに来て間もない頃、連れて行かれた酒場で飲み物をくれた人です。


その後すぐに眠ってしまい、当時のことはほとんど覚えていませんが、時々自分達がいる部屋に来たり、一階の部屋を出入りしているのを何度か見かけたことがありました。おじさんは酒樽を持ったまま外出している模様。


 結局来た道を戻りながら探し回ることになりました。彼はほとんど迷うことなく進んでいます。まるでおじさんの居場所に心当たりでもあるかのように。


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