12.お仕事はじめました ②
前回のあらすじ:友人から生活費を巻き上げていくスタイル
桃視点に戻ります。
桃はサムに連れられてグレアムの家に向かいました。朝の街は冬支度をする人で行き交っており、活気があります。尤も、酒を飲んだ人々が喧嘩をしていたり、地べたに座り込んでいる人が物欲しそうに通行人を見つめていたりするのも含めて活気があると形容できればの話ですが。
ここ最近朝晩が冷えるようになってきました。桃は道に寝転がっている人が凍えてしまわないか心配でした。
何度も人とぶつかりそうになりながら歩いていくと、人々の喧騒が消え、木を削る音や、女達の話し声が飛び込んでくるように。道には石が埋め込まれており、歩きやすくなっています。一方で足の裏がいっそう冷たく感じられました。人が行き交う中を豚や馬がのんびり歩いていて、遠くに畑が見えてきます。
(街の中にも畑があるんやなあ)
感嘆の声を漏らします。てっきり街には家とお店と広場しかないと思っていました。
いよいよ桃の脳裏に焼き付いている、色とりどりの通りへ入っていきます。昨日ここを通った時、その美しさに見とれてしまいました。そろそろ冬なのに窓際にはお花が飾られていて、普通は茶色の壁や扉が白や薄紅、藍に緑と様々な色で塗られているのです。
石を削って作った置物が飾られている家もありました。下を向くと、道に埋め込まれた石が、所々青色に塗られています。まるで夢の中にいる様でした。
丸っこい羊の絵が描かれているのが、グレアムの家。昨日背の高い優しそうな人が家の中にある道具の数々を見せてくれました。時には道具を持たせて床を掃いたり、火を起こしたことも覚えています。
知らない道具の名前や使い方が分かって楽しい時間でした。道具の名前はもう忘れてしまっていたのですが……。そして、サムが「アナタ、する」と言っていたのを思い出しました。
(これからはうちがあの家のお掃除をしたり、ご飯を作ったりするのかな? サムさんの家はどうするんやろ? でもあの人して欲しいって言っとったし、家のこと位しかうちにはできないし。まあいいや。今できること全部すればいいんや)
てっきり昨日のお兄さんが出てくると思ったところに、険しい顔つきのおじさんが出てきたので、桃はサムの後ろに身を隠してしまいました。後ろから顔を覗かせたグレアムがおじさんを指しながら
「David, ed pacib.(デイビッド、僕のお父さん)」
と言います。桃は「お父さん」という言葉を聞いたことはありませんでしたが、よく見たらグレアムと顔つきがそっくりでした。そして昨日ご挨拶したことも同時に思い出します。一緒に住んでいるところからも、きっと彼のお父さんだろうということは伝わってきました。
(昨日はお母さんを見ていなかったのですが、今日はいらっしゃるんかなあ? そういえば「お父さん」
「お母さん」ってどう言えばいいんやろ? 意外と聞いたこと無かったなあ)
物の名前は指を指して尋ねることができますが、家族に関する言葉は上手く聞くことができません。親子で歩いている人を指さしても、多分その人の名前を聞いていると思われてしまうでしょう。思っていた以上に言葉を覚えるのは難しそうです。
グレアムは襟やボタンに装飾の入った服を着ています。そしてすぐにどこかへ出かけていってしまいました。サムに連れられ台所に行くと、桶の中に汚れた食器が入っています。まずはこれを洗えば良いようです。
昨日教えて貰った棚の中から使い古していそうな布を取り出し、桶の中で汚れを落としていきます。そして、瓶の中に入った綺麗な水を別の桶に移してすすぎ、机を拭き、新しそうな布で水気を取った食器を並べていきました。
食器をすべて洗い終え、汚れた水を捨てて戻って来ます。するといつの間にかサムまでいなくなっていました。
(あれ、皆さんどこにいったんやろ?)
部屋をあちこち探し回っていると、入り口の近くにある部屋から強い臭いがしてきました。中ではグレアムのお父さんが一心不乱に筆を動かし、何か描いています。空きっぱなしの引き出しの中にはよく分からない道具が詰め込んでありました。邪魔をしてはいけないと思い、そっと扉を閉じようとします。その時、彼と目が合いました。お腹をさすっています。「ご飯」と言っているのが聞こえました。
(そうや、そろそろお昼だから何か作らないと)
桃は慌てて台所に戻り、食材を探しました。あり合わせの炒め物とスープをパンと一緒に食べてもらい、片付けをしいるうちに窓から茜色の光が差し込んできました。グレアムがようやく家に戻ってきて、小さな袋包みを持たせてくれます。中には数枚の銅貨。
これで買い物をするのかと思った桃でしたが、まもなくサムが来たのでついて行くと、そのまま家に戻ってきてしまいました。
銅貨の扱いに悩みながら次の日もグレアムの家に行くと、持って帰ったことを咎められるどころか、また同じように掃除やご飯の支度をして、銅貨を何枚か貰いました。
それから毎日のようにグレアムの家に通い、仕事にも慣れてきました。昼間にグレアムがいなくなること、お父さんは殆ど家に居て絵を描いていること。そして、日が暮れるまで家事をすると、帰ってきたグレアムが銅貨を六枚くれるということが段々分かってきました。
更新時間が遅くなりすみません。手動で更新を続けるのは中々難しいですね……19時くらいに上げられるよう頑張ります。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




