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朝起きたら超絶美少女になっていた俺ですが、男嫌いだった毒舌妹の様子がおかしくて貞操の危機です。  作者: たまやん


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第58話 男友達の知られざる葛藤

 昼休みの喧騒に包まれた2年A組の教室。

 窓際の後方、いわゆる目立たない男子たちが集まる席で、大輔と健太はそれぞれの弁当をつつきながら、教室の中央で繰り広げられている光景から目を離せずにいた。


 視線の先には、クラスの女子グループに完全に囲まれ、着せ替え人形のように弄り回されている友、一条翔の姿があった。

 もともと学園の王子様として女子からの人気は高かった男だが、ある日突然、絶世の美少女へと変貌を遂げてしまったのだ。

 中身はバリバリの男のままなのに、外見はトランジスタグラマーで豊満な胸を持つ、信じられないほど愛らしい女の子。

 そしてその隣には、今まで翔を毛嫌いしていたはずなのに、突如としてブラコンのような態度で翔にべったりと張り付いている妹の姫子の姿がある。

 

「…………」

「…………」

 

 大輔と健太は、言葉少なに卵焼きを口に運びながら、ただ黙ってその光景を眺めていた。

 翔は女子たちから「肌が綺麗」「可愛い」と褒めちぎられ、あからさまに居心地が悪そうに肩を縮こまらせている。

 その困り果てたような、すがるような視線がチラチラと周囲の男友達の方へ向けられるが、大輔たちは気づかないフリをして目を逸らした。

 いや、助けてやりたい気持ちはあるのだ。

 だが、あの女子の集まりに飛び込む勇気は、しがない一般男子高校生には備わっていなかった。


「……なぁ、大輔」

 

 ぽつりと、健太が割り箸を咥えたまま口を開いた。

 

「ああして女子に混ざってると、マジで元が男だとは思えないよな、アイツ」

 

 大輔は小さくため息をつき、深く頷いた。

 

「全くだ。元が男で、俺たちと一緒に馬鹿やってた生徒会長だなんて、今のアイツを見て誰が信じるんだよ」

 

 細く華奢な肩、シミ1つない白い肌、そして制服のブラウスを内側からはち切れんばかりに押し上げている、暴力的なまでの双丘。

 どこをどう切り取っても、完璧な美少女だ。

 

「そうだなぁ。……そういえばさ」

 

 健太が声を潜め、周囲に聞かれないように顔を寄せてきた。

 

「アイツ、女になってすぐの頃さ。まだ中身が完全に男の感覚のままだったから、無意識であぐらかいたり、椅子の上で片膝立てて座ったりしてたじゃん?」

「……ああ。あれは、心臓に悪かった」

「そのせいでさ……アイツ、しょっちゅうパンツ見えてたじゃん?」

 

 健太の言葉に、大輔は思わず咳き込んだ。

 そうなのだ。女体化した直後の翔は、自分がどれほど破壊力のある美少女になったかを全く自覚していなかった。

 スカートを穿いているにもかかわらず、男の時と同じように足を大きく開いて座るものだから、純白やピンク、時には可愛らしいレースのついた布地が惜しげもなく披露されていたのである。

 

「あー、うん。……俺も何度か見たことある」

 

 大輔がバツの悪そうに視線を泳がせると、健太は真剣な表情で大輔の顔を覗き込んできた。

 

「……お前、その時どう思った?」

「っ……」

 

 直球の質問に、大輔は腕を組み、眉間に皺を寄せて唸った。

 どう答えるべきか。相手は男だ。いや、元男だ。

 自分たちと一緒に体育の授業で汗を流し、くだらない事で笑い合っていた友人なのだ。

 そんなヤツの下着を見て、良からぬ感情を抱くなど、男の友情に対する重大な裏切りではないのか。

 だが、誤魔化すのも何かが違う気がした。

 大輔は観念したように息を吐き出し、素直な胸の内を告白した。

 

「……『アイツは翔だ』って、頭の中ではちゃんとわかっちゃいるんだ。わかっちゃいるんだけど……ぶっちゃけ、ドキッとしたし、すげぇラッキーって思った……」

 

 言い終えた瞬間、大輔は顔から火が出るほど恥ずかしくなった。親友の下着を見て興奮した変態だと罵られても文句は言えない。

 しかし、健太の反応は予想とは全く違っていた。

 

「……わかる。仕方ないよな」

 

 健太はしみじみと、深く深く共感の頷きを返してきたのである。

 

「仕方ない。だってアイツ、そんじょそこらの女子より遥かに可愛いもんな。あんな綺麗な脚の間からチラ見えして、男として何も感じない方がおかしいって。俺なんて、あの日の夜、思い出しちゃって悶々として眠れなかったからな」

「お前もか……っ! よかった、俺だけが最低なヤツに成り下がったのかと……っ!」

 

 二人は固い握手を交わし、同志を見つけた喜びに打ち震えた。

 翔の無防備さは、別のベクトルで確かな絆を結んでいた。


「でもさ、最近はアイツもちょっと変わってきたよな」

 

 大輔が顎で翔の方をしゃくりながら言った。

 

「最近は女の体に慣れてきたのか、足を開かずちゃんと膝をそろえて座るようになったし。階段を上がるときも、背後に手を回したり、カバンでスカートの後ろを押さえて上がるようになったんだぜ、アイツ」

「見た見た! 俺もそれ気づいてた!」

 

 健太が興奮気味に身を乗り出す。

 

「笑う時もさ、昔みたいに口を大きく開けるんじゃなくて、無意識に口元に手を持ってきて隠すようになってるんだよな。本人は『俺は男だ』って必死に言い張ってるけど、どんどん仕草が女の子らしくなっていってるよな」

「そうなんだよ。それに加えてあのデカい胸だろ? 少し走ったりするだけで、ぷるん、ぽよんって揺れるのが視界の端に入って、もう俺達はどうしたら良いんだよ」

 

 大輔が頭を抱えると、健太も同調するようにうめき声を上げた。

 

「わかる……。すれ違う時にふわりと香る、いい匂い……シャンプーも女性用品に変えたのかな。それとも、女の子特有のフェロモン的なやつなのか? とにかく、あれがまたアイツを男だとは思えなくさせる」

 

 二人がそんなディープな会話を繰り広げている間にも、教室の中央では翔に対する女子たちの猛攻が続いていた。

 

『ねえねえ、翔くん! 1回だけ、ポニーテールにさせて!』

『えっ、ちょ、待てって!』

 

 抵抗も虚しく、女子の手によって翔の艶やかなセミロングの髪が後ろでまとめられ、可愛らしいシュシュで結ばれた。

 あらわになった白く細いうなじ。そして、少し高めの位置で揺れるポニーテール。

 顔周りに残った後れ毛が、翔の整った顔立ちをさらに引き立て、危うい色気すら醸し出している。

 

「うわ……ポニテ可愛い……」

 

 ぽつりと、健太の口から無意識の言葉が零れ落ちた。

 大輔はハッとして、健太の顔をまじまじと見つめた。

 

「え? 今お前、翔の事可愛いって言った?」

「あ……っ!」

 

 健太は慌てて自分の口を両手で塞いだが、時すでに遅し。

 真っ赤になった顔が、彼の本心を如実に物語っていた。

 

「し、仕方ないだろ! 可愛いものは可愛いんだから! お前だって今、絶対可愛いって思っただろ!?」

 

 逆ギレのように食ってかかる健太に、大輔は反論することができなかった。

 なぜなら、彼自身も翔のポニーテール姿を見た瞬間、心がキュンとしたのを感じていたからだ。

 

「いや、わかるって。わかるよ……」

 

 大輔は深くため息をつき、空を見上げるような目で天井を仰いだ。

 

「アイツ、俺たちに『男だった頃と同じように接してくれ』って言うし、俺だってそうしてやりたい気持ちはあるんだよ。でもさ……アイツ、可愛すぎるんだよ。男の頃のままで接しろなんて、無茶言うなよなぁ……」

「そうだよ! あんな上目遣いで『なぁ、一緒に話そうぜ』なんて言われたら、こっちはデートの誘いかと勘違いしそうになるんだよ! この前なんか、購買でパンの奪い合いになった時、アイツの胸が俺の腕に当たって……その、めっちゃ柔らかくて、ぷにぷにしてるのに弾力もあって……俺、大勢がいる売店で勃ったんだぞ……」

「お前、そんなラッキーイベント発生してたのかよ!? 羨ましい……いや、違う! 相手は翔だぞ! 目を覚ませ俺たち!」

 

 大輔と健太は、互いの煩悩を振り払うように首を激しく振った。


 だが、一度開いてしまったパンドラの箱は、そう簡単には閉じない。

 

「でもさ、よく考えてみろよ。顔は超絶美少女、スタイル抜群、胸はでかい。しかも中身は男だから、男の趣味や気持ちが痛いほどわかる。ゲームの話もできるし、めんどくさい男女間の感性の違いもない。……これって、控えめに言って『理想の女の子』なんじゃないか?」

「バカッ! お前、何を血迷ったこと言ってんだ! アイツは俺たちの友達だぞ! あのイケメン生徒会長、一条翔なんだぞ! 男の顔がたまにチラつくんだぞ!」

「わかってる! わかってるけど、理性が本能に負けそうなんだよ! あの姫子ちゃんでさえ、あんだけ毛嫌いしてたのに今じゃ『お兄ちゃん大好きラブチュッチュ』とか言うくらいデレデレなんだぞ!? 俺たちが抗えるわけないだろ!」

「負けるな! 頑張れよ! くそっ、確かにあの姫子ちゃんが陥落したってのは、脅威の可愛さの証明かもしれないけど……!」


 二人は互いの両肩を掴み合い、ぜえぜえと息を切らしながら見つめ合った。

 そして、それからもしばらく翔の中身が男とは思えない可愛さと、自分たちの限界の精神状態について熱く語り終えた後。

 大輔と健太は、まるで世界の終わりを告げるような悲痛な顔を見合わせた。


「どうしよう、大輔……。俺、クラスのどの女子よりも、翔のことが好きになりそう……」

 

 健太の目には、うっすらと涙すら浮かんでいた。

 禁断の扉を開きかけている自分に対する恐怖と、抗えない魅力への降伏宣言。

 大輔は震える手で健太の肩を強く叩き、己にも言い聞かせるように叫んだ。

 

「が、頑張れ! 俺も頑張って耐えるから! ここでアイツを女として意識したら、俺たちの友情は終わるんだぞ!」

「う、うおおおおっ! 耐える! 俺は耐えてみせる! アイツは男だ! 俺はホモじゃなぁい!」


 教室の隅で、声にならない絶叫を上げながら抱き合う二人の男子生徒。

 中身が男の美少女に本気で恋してしまいそうな己の心を必死に堪え、理性という名の鎖で縛り付けようとする彼らの戦いは、まだ始まったばかりであった。

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