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朝起きたら超絶美少女になっていた俺ですが、男嫌いだった毒舌妹の様子がおかしくて貞操の危機です。  作者: たまやん


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第41話 恵美ちゃんと初デート

 数日後、ついに土曜日がやってきた。

 雲1つない快晴の朝。

 俺は姫子が見立てた可愛らしい私服に着替え、抜き足差し足で玄関に向かっていた。

 

「兄さん、何処に行くんですか?」

 

 背後から、氷のように冷ややかな声が降ってきた。

 ビクッと肩を震わせて振り返ると、エプロン姿の妹・姫子がジト目で俺を見下ろしている。

 相変わらず綺麗な顔立ちだが、瞳の奥に宿る『そんなこっそりと何処へ行くんだ』という言葉が聞こえてきそうな雰囲気が怖い。

 

「お、男友達と遊びに行ってくるよ。佐藤たちと駅前のゲーセンにな」

 

 俺は努めて平静を装い、用意していた嘘を吐いた。

 本当は1年の橘恵美ちゃんと会うのだが、姫子に『女の子と二人で出かける』なんてバレたら、何を言われるかわからない。

 

「……ふぅん。男友達、ですか。まあ、兄さんがそう言うなら信じますけど。悪い虫がつかないように皆に守ってもらってくださいね」

「あ、ああ。行ってくる」

 

 姫子の鋭い視線から逃げるように家を飛び出した俺は、冷や汗を拭いながら待ち合わせの駅へと向かった。


 約束の時間は午前十時。だが、女の子を待たせるわけには行かないと気合を入れすぎて二十分も前に駅前の広場に着いてしまった。

 

「あれ? 会長!」

 

 可愛らしい声に振り向くと、すでにそこには恵美ちゃんがいた。

 トレードマークの黒髪ツインテールに大きなリボン。

 ふんわりとしたパステルカラーのワンピースを身に纏い、最高に可愛らしくおめかししている。

 トップカーストの陽キャ女子というオーラが全開だ。

 

「悪い! 待たせちゃってゴメンな、恵美ちゃん」

 

 俺が慌てて駆け寄って謝ると、彼女はパッと花が咲いたような笑顔を見せた。

 

「大丈夫ですよ。私も今来たところです!」

 

 そう言って、恵美ちゃんはなぜか両腕を大きく広げ、ニコニコと俺を見つめてきた。

 

「……?」

 

 意図が読めず、俺は困惑して首を傾げる。

 ハグの要求か? いや、いくらなんでもノリが欧米すぎるだろ。

 数秒の沈黙の後、恵美ちゃんは待ちきれないとばかりにくすくすと笑い出した。

 

「もう。デートで女の子に会ったら、まずは服装を褒めてくださいよ、会長」

「あっ、ごめん! デートなんてしたことがないから、そういうの全然わからなくて……って、そもそもデートじゃなくて一緒に遊ぶだけって話じゃなかったか?」

 

 女の子と一緒に遊ぶのは初めてじゃないが、その時はお互いデートだなんて認識はなかった。

 俺が慌てて訂正しようとすると、恵美ちゃんは「そんな事どうでもいいじゃないですか」と一歩踏み込み、俺の右腕にギュッと抱きついてきた。

 

「男女が一緒に休日に遊ぶなら、それはもうデートですよデート! それにしても、制服じゃない会長も最高に可愛らしくて素敵ですね! それに、私が初めてのデート相手だなんて、すっごく嬉しいです!」

「おわっ!?」

 

 腕に押し当てられる柔らかい感触と、至近距離で見つめてくる恵美ちゃんの熱量に、俺はタジタジになってしまう。女子の距離感ってこんなに近いのか!? いや、俺も今は女子なんだけど!

 顔を真っ赤にして狼狽える俺を見て、恵美ちゃんは「ウブで可愛い……!」とますます喜んでいる。

 完全に遊ばれている気がするぞ。

 

「そ、それより! 早速だけど、ひよりの過去について教えてくれないか?」

 

 なんとか話題を逸らそうと本題を切り出した俺の唇に、恵美ちゃんはスッと人差し指を当てた。

 

「もう! その話はデートが終わってからですよ! 今は、私とのデートに集中してください!」

 

 流石は小学生の頃から次々と恋人を作ってきた女の子……。

 そのデート慣れした様子に、デートレベル1の俺は「……はい」と大人しく頷くことしかできなかった。


 そうして始まった恵美ちゃんとの『デート』は、俺にとって未知の体験の連続だった。

 まずは駅直結の巨大なショッピングモール。

 彼女に手を引かれて入ったのは、ピンクやパステルカラーに彩られたファンシーショップだった。

 

「会長、これ絶対似合いますよ!」

 

 恵美ちゃんが持ってきたのは、猫耳のついたモコモコのヘアバンドや、キラキラしたアクセサリーの数々。

 

「い、いや、俺には可愛すぎるっていうか……」

 

 男としての羞恥心が可愛らしい装飾にためらいを示すが、恵美ちゃんに押し切られて身につけ、鏡の前に立たされる。

 そこにいたのは、自分で言うのも何だが信じられないほど愛らしい美少女だった。

 俺のグラマーな体型と相まって、あざとさが限界突破している。

 

「きゃーっ! めっちゃ可愛いです! 写真撮っていいですか!? ていうか撮りますね!」

 

 パシャパシャとスマホのシャッターを切る恵美ちゃんは、終始ご機嫌だった。

 俺は居心地の悪さに身を捩りながらも、彼女が楽しそうにしているならまあいいか、と腹を括った。


 お昼を済ませた後は、カラオケに直行した。

 女体化して体力が著しく低下した俺にとって、座って楽しめるカラオケはありがたい。

 

「じゃあ、私からいきますね!」

 

 恵美ちゃんが最新の流行曲を完璧な振り付け付きで歌い上げ、俺はタンバリンを叩いて盛り上げる。


「次は会長の番ですよ!」

 

 マイクを渡され、俺は昔から好きだったJPOPを入れた。

 男の頃は女性ボーカル曲は難しかったが、今の声帯から出るのは高く澄んだアニメ声優のような声だ。

 女性ボーカル曲にもキーがバッチリ合わせられて嬉しくなる。

 肺活量が減っているせいで息継ぎは苦しいが、全力で歌い切る。

 

「おおおおーっ! 会長、顔に似合わず選曲が熱い! しかも歌うま!」

 

 恵美ちゃんはタンバリンを振り回して大興奮。

 俺が歌っていると。合いの手やリアクションを取って気持ちよく歌わせてくれた。

 これが陽キャのカラオケスキル……スキルレベルが高すぎるだろ。

 それから二人でマイクを奪い合うようにソロやデュエットを熱唱し、気がつけば俺も男の頃と同じように、心の底からバカ騒ぎを楽しんでいた。


 歌い疲れた俺たちは、一息つくために世界的カフェであるス◯バのテラス席に陣取った。

 俺は季節限定のフラペチーノ、恵美ちゃんはキャラメルマキアート。甘い冷たさがカラオケ後の喉に心地いい。

 ふと、周囲の視線に気がついた。

 

「ねえ、あの子たちめっちゃ可愛くない?」

「アイドル?」

「芸能人かも……」

 

 すれ違う客や、遠巻きに見ている人たちがヒソヒソと噂している。

 以前、ヤバい男たちに絡まれた時の『性的な視線』には強烈なトラウマがある俺だが、今は少し違った。

 恵美ちゃんと一緒に向けられているのが純粋な『憧れ』や『驚き』の視線だとわかるからだ。

 

「ふふっ。みんな私たちのこと見てますね。会長の美少女っぷりが凄すぎるからですよ」

 

 恵美ちゃんはストローを咥えながら、どこか誇らしげに笑う。

 

「俺から言わせれば恵美ちゃんが凄く可愛いからだよ。隣にいて俺、ちょっと緊張してるし」

 

 本心をそのまま口にすると、恵美ちゃんはカハッと咳き込み、顔を真っ赤にした。

 

「……そういうところですよ、会長。無自覚にクリティカルヒット撃ってくるんだから」

「え? 何か変なこと言ったか?」

「ううん、何でもないです。ふふ、やっぱり素敵」

 

 恵美ちゃんは優しく微笑んで、フラペチーノを飲む俺を見つめていた。


 気がつけば、空は茜色に染まり始めていた。

 駅前まで戻ってきた俺たちは、夕暮れの風に吹かれながら立ち止まる。

 

「今日は本当に楽しかったです」

 

 恵美ちゃんが、今日一番の眩しい笑顔を向けた。

 

「ああ、俺も楽しかったよ。連れ回されたけど、なんか新鮮だったし」

「ふふっ。……ねえ、会長」

 

 恵美ちゃんは一歩近づき、俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。

 その瞳には、冗談ではない真剣な光が宿っている。

 

「私たち、最高に相性がいいと思うんです。だから、本当に私と付き合ってくれませんか?」

 

 ド直球のお願い。

 胸がドクンと鳴る。可愛い女子からの真っ直ぐな好意。

 男だった頃なら、小躍りして喜んでいたかもしれない。

 だが、俺は少しだけ困ったように笑い、ゆっくりと首を振った。

 

「ごめんな。友人として遊ぶのはすごく楽しいけど……出会ったばかりだし、付き合うのは、まだ早すぎるよ。付き合うってのはもっとお互いを知ってからじゃないといけないし、今は自分のことだけで精一杯だから」

 

 それに、俺の心は「男」とはいえ、同性である彼女と軽々しく付き合うなんて不誠実なことはできない。

 俺の答えを聞いて、恵美ちゃんは「あーあ」と肩をすくめた。

 

「振られちゃいました。まあ、仕方ないですね」

 

 あっさりと引き下がる彼女に、俺がホッと息を吐いた直後。

 

「でも、難しく考えず、もっと気軽にスナック感覚で付き合って良いんですよ?」

「スナック感覚!?」

「あはは! 冗談です。でも、そういう真面目さがやっぱり大好きなので……私は諦めませんからね」

 

 恵美ちゃんはウィンクをして、小悪魔のように微笑んだ。この子、本当にメンタルが強いな。

 そして、小さく息を吸い込むと、恵美ちゃんは急に真面目な顔つきになった。

 

「……それはそれとして。今日、付き合ってくれたお礼です。ひよりちゃんの過去に、何があったか話します」

 

 夕暮れの喧騒が、急に遠のいた気がした。

 俺は姿勢を正し、彼女の真剣な眼差しを正面から受け止める。

 

「……うん。お願い」

 

 空が静かに群青色へと変わっていく中で、俺はひよりの隠された過去に触れることになった。

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