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朝起きたら超絶美少女になっていた俺ですが、男嫌いだった毒舌妹の様子がおかしくて貞操の危機です。  作者: たまやん


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第4話 パーフェクトお兄様の罪

 家族会議を終え、俺と姫子は近所のショッピングモールへ向かっていた。

 運良く今日は土曜日。学校が休みだったのは不幸中の幸いだ。

 だが、事態は深刻だ。何が原因で、いつまでこの状態が続くのか皆目見当がつかない。

 最悪、一生このままという可能性もある。


(だが、たとえ姿が変わろうとも、俺の魂は不変だ)


 俺は心の中で強く誓った。

 男だろうが女だろうが、俺は一条翔。世界一カッコいい生徒会長であり、頼れる兄なのだから。


 隣を歩く姫子をふと見上げる。

 ……そう、見上げるのだ。

 以前の俺なら視線を下げればそこに姫子の頭頂部があったのに、今は彼女の顔を見ようとすると顎を上げなければならない。


(妹より小さくなっちゃったんだな……)


 俺が複雑な心境でいると、視線に気づいた姫子がこちらを見て、ふふっと笑みをこぼした。


「どうですか兄さん? 見下される気分は。私は今、いつも見上げていた兄さんを見下せて、とてつもなく気分がいいです」

「言い方ぁ! そこは『新鮮な景色ですね』とか言えよ!」


 俺がツッコむと、姫子はさらに口元を綻ばせた。

 なんだか、今朝から妙に上機嫌だ。いつもの氷点下のような冷たさが鳴りを潜め、どこか浮足立っているようにすら見える。


(……こいつ、俺が女になったことでむしろ喜んでないか?)


 そこで俺は、姫子の極度の男性嫌いを思い出した。

 まさか。

 まさかこいつ、「兄さんがこのまま女になったほうがハッピー♡ルンルン♡」とでも思っているんじゃあるまいな。

 いや、まあ姫子は舌を噛み切ってもルンルンとか言わないけど。


「な、なあ姫子。お前、本当は俺がこうなった原因を実は知ってるとかじゃないよな?」

「はい?」

「ほら、お前はお兄ちゃんの味方だよな? 何か知ってるなら隠さずに……」


 俺が恐る恐る尋ねると、姫子は足を止め、俺をじっと見つめた。

 その瞳の奥には、何か読めない感情が渦巻いているような気がした。


「先程も言いましたが……原因だなんて。そんなこと、知ってるわけないじゃないですか」

「お、おう……」


 棒読みだ。完璧なまでの棒読みだ。

 だが、冷静に考えれば、人間が突如細胞レベルで変異するなんて、魔法か超科学の世界だ。

 いくら姫子が優秀でも、やはりそんなことができるはずがない。


「そっか。そうだよなぁ。変なこと聞いて悪かった」

「ええ、そうです。さあ、行きますよ。愚か・オブ・ジ・イヤー」


 姫子は俺の手を引き、婦人服売り場へと足早に進んでいった。

 婦人服売り場に行くのは良いが、変な賞を受賞させるな。


 *


 店に着くと、姫子の独壇場だった。

 手慣れた様子で店員さんを呼び「この子のサイズを測ってください。初めてなんです」と指示を出す。

 俺はされるがままにメジャーを当てられ、自分のスリーサイズという今まで気にしたこともない数字を突きつけられた。


「上から92、58、88……ですか。ふーん」


 姫子がメモを見ながら、鼻を鳴らす。


「私に任せてください。兄さんの趣味で選ぶと、ろくなことになりそうにないので」

「俺のセンスは抜群だぞ!?」

「Tシャツに『筋肉』って書いてある服を着られたくありません」


 姫子は有無を言わさず、下着から私服、パジャマに至るまで、次々とカゴに放り込んでいく。

 その手際の良さと、俺に似合うものを的確に選ぶセンス。

 さすがは我が妹。持つべきものはできる妹だと、俺は感動すら覚えた。


 買い物を終え、休憩がてらケーキ屋に寄ったときのことだ。


「兄さん、どれがいいですか? ショートケーキ? それともモンブラン?」

「うーん、俺はチョコケーキがいいな。脳に糖分補給して思考回路を正常化させないと」

「じゃあ、私はショートケーキにします。あと、限定のプリンも」


 ショーケースの前で並んでケーキを選ぶ。

 ガラスに映る俺たちは、どう見ても仲の良い美人姉妹だ。

 周囲の客からも、「ねえ見て、あの子たちすごく可愛くない?」「モデルさんかしら」なんてひそひそ声が聞こえてくる。


「……ふふっ」

「ん? 何笑ってんだ姫子」

「いえ。こうして兄さんと二人で買い物をして、ケーキを選んで……なんだか、デートみたいだなって」

「デートぉ? バカ言え、ただの買い出しだろ」


 俺は笑い飛ばしたが、姫子の頬がほんのり染まっているのを見て、少しドキッとした。

 やっぱりこいつ、今日はずっとどこかおかしいんだよな……。


 *


 家に帰り、俺は早速買ってきたばかりの下着を手に取った。

 ずっとノーブラ状態で擦れて痛かったので、早く装着して楽になりたい。

 だが、胸に当てたところで俺は固まった。


「……これ、どうやって付けるんだ?」


 ここに来て恥ずかしくて試着を拒んだ弊害が出た。

 フック? ワイヤー? ストラップ?

 構造が複雑すぎる。前で止めるのか後ろで止めるのかすら分からない。

 俺は観念して、ドアの隙間から廊下に向かって声をかけた。


「おーい、姫子ー! ちょっと来てくれー!」


 すぐにパタパタと足音がして、姫子が顔を出した。


「どうしましたか、兄さん」

「いや、その……ブラの付け方が分からなくてさ。悪いんだけど、教えてくれないか?」


 俺が懇願するように言うと。

 部屋の空気が、一瞬にして凍りついた。


「…………」


 姫子の目が、鋭く細められる。

 周囲の気温が5度くらい下がったような錯覚を覚えるほどの威圧感。


「ど、どうした姫子? 何か変なこと言ったか、俺?」

「……ブラの付け方なんて、知りませんよ」

「えっ? でもお前、女の子だろ?」


 俺の言葉に、姫子はプルプルと震え出した。

 そして、おもむろに自分の上着をめくり上げ、スポーティーな下着を見せつけてきた。

 これはいわゆるスポブラってやつか。


「私には! ブラなんて必要ないから着たこともありませんよ! だから付け方なんて知るわけないし、知る必要もありませんからねっ!!」

「うおっ!? やめろ、見せるなバカ!」

「うるさいです! 兄さんもひよりのように白雪空港の滑走路とか言うんでしょう!?」


 キレた姫子は、あろうことか俺に襲いかかってきた。

 そして、俺の豊かな胸を両手でガシッと鷲掴みにしたのだ。


「兄さんのくせに! なんなんですかこのデカい脂肪の塊は! 無駄に主張して! こんなっ! こんな富士山っ!」

「な、何するんだ! やめっ、やめろバカ!」


 ムギュムギュと容赦なく揉みしだかれる。

 痛みはないが、今までに感じたことのないとてつもなく奇妙な感覚が全身を駆け巡る。


「こんな……! 柔らかくて……大きくて……」


 息も荒く揉み続ける姫子。

 ちょっ、いつまで続ける気だこいつ!?


「やっ……んぁっ……!」


 思わず、自分でも聞いたことのないような変な声が漏れてしまった。

 その瞬間。

 姫子の動きがピタリと止まる。


「……」

「……」


 沈黙。

 そして次の瞬間、姫子の鼻から、ツーッと赤い液体が滴り落ちた。


「ひ、姫子!?」

「!? ちがっ、これは違くて! 兄さんが変な声を出すからっ!」


 姫子は真っ赤な顔で鼻を押さえ「わああああ! エベレスト!」と叫びながら部屋を飛び出していった。

 バタン! と乱暴にドアが閉まる音が響く。


「はぁ……何だったんだあいつは……」


 俺はベッドにへたり込み、盛大に溜息をついた。

 揉まれた胸が少しジンジンする。


「ま、パーフェクトお兄様が女になってもナイスバディの美少女になっちゃって、嫉妬しちゃったかな? 罪深いな俺!」


 俺は腰に手を当て、誰もいない部屋でふんぞり返る。ポジティブシンキングは俺の最大の武器だ。

 とはいえ、問題は解決していない。

 俺は諦めて、一階にいる母さんを呼んだ。


「母さーん! ヘルプ!」


 数分後、俺は母さんからブラの付け方をレクチャーされることになった。

 まさか高校二年生にもなって、母親に女性下着の付け方を教わる日が来るとは。

 鏡の前でホックと格闘しながら、俺は深いため息をつくのだった。

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