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朝起きたら超絶美少女になっていた俺ですが、男嫌いだった毒舌妹の様子がおかしくて貞操の危機です。  作者: たまやん


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第36話 幸せを分かち合う肉まん

 水無瀬リンの正体が透だという衝撃の事実が発覚してから、数日が経った。

 あの一件以来、俺は無性に透が演じているというキャラクターの声を聴いてみたくなり、話題のソシャゲ『魔法少女ピュアリーハート』のアプリをインストールした。

 タイミングよく、ゲームはハーフアニバーサリーのキャンペーン中で、透が演じる人気キャラ『エクレール』のピックアップガチャが復刻されていた。

 最高レアの排出確率は二倍。

 これならすぐに出るだろうと高を括っていたのだが、世の中そんなに甘くなかった。

 チュートリアルを終わらせてはガチャを回す『リセマラ』を繰り返すこと数10回。

 確率二倍だというのに、すり抜けに次ぐすり抜けで、エクレールは全く出てこない。

 

「くそっ……俺の運が悪いのか、それとも物欲センサーってやつか……!」

 

 こうなったら、あとは神頼みしかない。

 俺は気分転換も兼ねて家を出ると、自宅から少し離れた小高い丘の上にある、寂れた小さな神社へと向かった。

 誰もいない静かな境内で、俺は賽銭箱に百円玉を投げ入れる。

 パンパンと2回柏手を打ち、ギュッと目を閉じて祈った。

 

(どうか神様! 透が一生懸命頑張っている仕事を応援したいんです! エクレールを引かせてください!)

 

 ゲームのガチャを引きたいだなんて俗な願いを神様に押し付けていると、背後から服の裾を、ちょいちょいと引っ張られる感覚があった。

 

「ん?」

 

 振り向くと、そこには巫女服をアレンジしたような可愛らしい服を着た、小学生くらいの女の子が立っていた。

 キツネ色の美しいセミロングヘアに、神秘的な光を放つ金色の瞳。

 透き通るような白い肌。驚くほどに整った、完成された美少女だ。

 

「その板はスマホ……でしたっけ? それのゲームのキャラクターが、お兄さんは欲しいんですね! 任せてください!」

 

 女の子は、俺の顔を見上げてキラキラと目を輝かせた。

 どうやら、俺の必死な祈りを聞かれていたらしい。

 

「君はここの神社の娘さんかな? こんな小さな頃から神社のお手伝いをしてるのかい? とっても偉いし、すっごく可愛いね」

 

 俺は微笑みかけ、屈み込んでその小さな頭を優しく撫でた。

 すると、女の子は「あはぁ、気持ちいいですぅ……!」と目を細め、頬を染めた。

 

「あのあの! 顎の下も撫でてください!」

 

 身を乗り出して催促してくる姿は、まるで人懐っこい子犬のようだ。

 

(なんだか犬みたいだな……)

 

 俺は心の中で苦笑しながらも、言われた通りに喉元を指の腹で優しく撫でてあげる。

 

「ふぃ~! 凄く良かったです! ありがとうございました、お兄さん!」

 

 満足したのか、女の子はニコニコと花が咲くような笑顔を浮かべた。

 

「えっと、じゃあお願いを叶えますので、どんなルールでキャラクターが手に入るのか、私に教えて下さい!」

 

 お願いを叶えるだなんて、面白いことを言う子だ。

 俺は遊びに付き合うつもりで、スマホのガチャ画面を見せながらシステムを説明した。

 

「このガチャっていうのを回すんだけど、最高レアのキャラが出る確率は2パーセントなんだ。さらにそこから、ピックアップされてる目当てのキャラを当てなきゃいけないんだよ。今は特別な期間で確立2倍だから4パーセントかな」

「ふむふむ、なるほどです!」

 

 熱心に頷く女の子。俺は少しだけ世の中の厳しさを教えるつもりで、言葉を続けた。

 

「このガチャを10連で回すには、無料のチケットを使い果たすと、1回につき3,000円くらいのお金がかかるんだ。人によっては、月に何万円も使うらしいよ」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 女の子の顔からスッと血の気が引き、金色の瞳が見開かれた。

 

「なっ……! 当たる確率がたった2パーセントの為に、そんなにお金がかかるんですか!?」

「うん。まあ、運が悪ければね」

「なんて恐ろしい……! 人間社会の闇が、子供も遊ぶゲームという文化に溶け込んでいるなんて……!」

 

 女の子は両手で顔を覆い、ガクガクブルブルと震え始めた。

 純粋な子供には、ソシャゲの集金システムは刺激が強すぎたらしい。

 

「あっ、いや、違うんだ! 普通にゲームをちゃんと遊んでたらガチャチケットが手に入るから、ほとんどの人はお金を使わずに遊べてるんだよ!」

 

 俺が慌ててフォローを入れると、女の子はパァッと顔を輝かせた。

 

「そ、それは良かったです! もしゲームを遊ぶ子供たちから無理やりお金を搾り取ろうとするなら、そのゲーム会社に神罰を与えるところでした!」

 

 神罰だなんて、小さな子供なのにずいぶんと信心深いんだな。俺は神社の教育の賜物だろうと感心した。

 

「それで、お兄さんはそのガチャというもので、どの娘が欲しいんですか?」

 

 首を傾げる女の子に、俺は画面のエクレールを指差した。

 

「この子なんだ。俺の後輩が声優として声を当ててるんだけど、先輩としてあいつが頑張ってる姿が見たくてね」

「そうなんですねぇ。声優さんだなんて凄いですね! それに、この絵はすっごく可愛いです! 当たると良いですね!」

 

 女の子はそう言うと「それじゃあ、ちょっと待っててくださいね」と俺のスマホを両手で受け取り、自分の小さな胸元でギュッと抱きしめた。

 そのまま数秒目を閉じた後、すぐにスマホを返してくれた。

 

「うん。これで大丈夫です。ガチャを回してみてください!」

 

 自信満々にニッコリと笑う女の子。

 

「ははっ、可愛いおまじないだな。ありがとう。それじゃあ回してみるよ」

 

 俺はほっこりした気持ちで、10連ガチャのボタンをタップした。

 画面が切り替わり、虹色の確定演出が光り輝く。

 

(おっ! 確定演出だ!)

 

 俺がワクワクしながら画面を見つめていると、そこにとんでもない光景が映し出された。

 

『私を呼んだ? スイーツの魔法で、あなたを甘くしてあげるわ!』

 

 透の可愛らしい声とともに、エクレールのカードが表示される。

 うおおお! やった! 本当に出たぞ!

 しかし、そこで異変が起きる。

 一枚、二枚、三枚──いや。

 結果画面に並んだ十枚のカード、そのすべてが最高レアのエクレールだったのだ。

 

「ええええええっ!?」

 

 俺は境内に響き渡るような声を上げてしまった。

 10連すべてがピックアップの最高レア。

 確率に直せば天文学的な数字だ。

 エクレールを手に入れただけでなく、一気に限界突破の最大値まで到達してしまった。

 バグか!? いや、もしかして……。

 俺は目の前で誇らしげに胸を張っている女の子を見た。

 

「君のおかげだよ! 凄いおまじないだな、ありがとう!」

 

 偶然とはいえ、この子が背中を押してくれたおかげだ。

 この感謝の気持を何か形で伝えたいと思っていると、ふと腕に引っ掛けていたビニール袋が視界に入る。


 「あっ、そうだ。お礼にこれをあげるよ」


 そう言って、小腹が空いていたのでコンビニで買っておいた、ちょっと高めの肉まんが2つ入った袋を差し出した。

 

「これ、なんですか?」

 

 不思議そうに尋ねる女の子。

 

「肉まんだよ。まだ温かいから、食べてみなよ」

 

 いまいちピンときていない様子だったが、女の子は小さな両手で肉まんを受け取り、恐る恐る一口ほおばった。

 その瞬間、彼女の顔にパッと花が咲いたような、幸せいっぱいの表情が浮かんだ。

 

「お、美味しいですー! これが人の食べ物なんですね! ふわぁ~、幸せ……」

 

 女の子は目を細め、夢中になってハフハフと肉まんを食べ進める。

 こんなに喜んでくれるとは思っていなかった。

 俺は嬉しくなって自然と笑顔になる。

 

「そんなに慌てて食べなくても、もう1個あるからゆっくり食べな」

 

 そう言うと、女の子は袋からもう1つの肉まんを取り出し、俺の目の前にスッと差し出した。

 

「お兄さんも食べてください!」

「ん? 美味しいんだろ? それも君にあげるよ」

 

 俺が断ろうとすると、女の子は首を横に振った。

 

「美味しいからこそ、貴方と一緒に食べたいんです! 幸せは、一緒に共有してくれる人がいれば、2倍幸せになれるんですよ!」

 

 満面のニコニコ笑顔で放たれたその言葉に、俺は雷に打たれたような感銘を受けた。

 

「そっか……。幸せを共有すれば、2倍幸せか。うん。本当にその通りだよな」

 

 俺は肉まんを受け取ると、境内の石段に女の子と並んで腰を下ろした。

 ホカホカの肉まんを二人でかじる。

 

「ジューシーで、本当に美味しいですね!」

 

 隣で幸せそうに笑う小さな彼女を見ながら一緒に食べる肉まんは、たしかに、一人で食べる時よりもずっと温かくて、美味しい味がした。

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