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朝起きたら超絶美少女になっていた俺ですが、男嫌いだった毒舌妹の様子がおかしくて貞操の危機です。  作者: たまやん


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第31話 神様のお願い

 兄さんの部屋から逃げるように退散した私は、自室に戻るなりドアに背中を預け、ずるずるとその場に座り込んだ。

 ドキドキと鳴り響く心臓の音が、耳の奥でうるさいほどに反響している。


 両手で顔を覆うと、手のひらにはまだ、先ほどまで揉みしだいていた兄さんの豊満な胸の感触と、小さな喘ぎ声が頭の中にこびりついている。

 思い出すだけで興奮が蘇るが、それはダメだ。

 今の私は、性欲が理性を凌駕する男たちとなんら変わらないのではないか?

 自分が最も嫌悪する存在に成り下がろうとしている事を自覚し、カーペットの上に正座して深くうなだれた。


「姫子ちゃんの様子がおかしかったから、こっそりついてきて正解でした。お二人の仲は心から応援していますが、無理矢理はダメです!」


 正座して反省のポーズをとる私の目の前で、ふわふわと空中に浮かびながら両腕をバッテンの形にクロスして説教をしているのは、白妙ノ狐姫様だった。

 

 そう。兄さんに欲情して暴走し、あわや一線を越えそうになっていたあの時。

 私の肩を叩いて『あわわわ、お兄さんの顔を見てください姫子ちゃん!』と正気に戻してくれたのは、私にだけ見えるように姿を透明にして、いつの間にか同席していた彼女だったのだ。


「ええ、そうですね……。その通りだと思います……」


 私は一切の反論もできず、ただただ深く頷くことしかできなかった。

 あのまま白妙ノ狐姫様に止められていなければ、私は恐怖で涙を流す愛する兄さんの貞操を、完全に奪い尽くしていたに違いない。

 想像しただけで自己嫌悪で吐き気がしてくる。


「そもそもですね」


 白妙ノ狐姫様は、ぷうっと頬を膨らませて説教を続ける。


「女の子になってよかったと思う体験を、姫子ちゃんが教えるべきと言ったのは私ですが……『女性の喜び=えっちな事』に直結するのは、思春期だから仕方のないことかもですけど、短絡的ですよ? もっと他にもオシャレとか……えっと……映え? でしたっけ? みたいな楽しさがあるじゃないですか」


 優しく正論で諭されると、自分がどれだけ兄さんを性的に見ているのかを浮き彫りにされるようで、ぐうの音も出ない。

 返す言葉もなく俯いていると、白妙ノ狐姫様はふわりと高度を下げ、私の勉強机の前に置かれたオフィスチェアの上に座ってくるくると回る。


「姫子ちゃんは、もっと冷静で自制心の効く子だと思っていたのですが……どうしてあそこまで酷い暴走をしたのですか?」


 彼女は、金色の瞳を瞬かせながら、可愛らしく首を傾げた。

 純粋な疑問だったのだろう。

 しかし、その問いかけの答えは、至極簡単なことだ。


「だって……仕方ないじゃないですか」


 私は顔を上げ、真剣な眼差しで白妙ノ狐姫様を見つめ返した。


「お風呂場でもそうでしたが、元々私は兄さんのことが大大大好きだったというのに、女体化した結果、顔も身体も私の理想そのものになったんですよ? 透き通るような白い肌、触れたら柔らかくて気持ちのいい身体。そしてあの高校生らしからぬ大きな胸……! 正直に言って、あんな三つ星レストランの裸なんて見てしまったら、その場でセッ◯スしたくなる衝動が堪えられなくなるのも必然でしょう? むしろ、ここまで我慢していることを褒めてください!」


 私は拳を握りしめ、力強く言い放った。こんな押さえの効かない気持は生まれて初めて。

 自分の発言は変態的で気持ちが悪いのは自覚しているけど、私にとっては嘘偽りのない本音である。


「せ!? せせせ、セッ◯スだなんて言葉、女の子が軽々しく口走っちゃいけませんよぉ! えっちすぎますよぅ……っ!」


 私のあまりにもストレートな熱弁を聞いた白妙ノ狐姫様は、狐耳をピンと立て、両手で真っ赤になった顔を隠してしまった。

 指の隙間から覗く金色の瞳が、恥ずかしそうに泳いでいる。


「つまりですね? それほどまでに魅力的な姿にしたのは白妙ノ狐姫様なんですから、白妙ノ狐姫様にも少しは責任があると思いませんか?」

「じ、自分の自制心のなさを神のせいにしないでください~!」


 私の突然の責任転嫁に驚き、白妙ノ狐姫様は両手をブンブンと振り回して抗議した。

 背中の光輪が、彼女の感情に連動するようにチカチカと明滅している。


「コホン。……それよりも」


 ひとしきり慌てふためいた後、彼女はわざとらしく咳払いをして姿勢を正した。


「姫子ちゃんご執心のお兄さんを、今日は初めて起きている姿を見ましたが……優しそうで、素敵な方のようですね」


 その言葉を聞いた瞬間、私の機嫌は一気に最高潮へと達した。


「そうでしょう? 兄さんはこの世界で一番ステキな方なんです。強くて、優しくて、いつでも私を守ってくれる……。男であることが唯一の欠点だったので、白妙ノ狐姫様には本当に感謝してますよ」


 私が上機嫌でそう答えると、白妙ノ狐姫様は少し困ったように眉尻を下げた。


「男であることを欠点というのは、神の立場的に肯定はできませんが……姫子ちゃんが幸せそうで、私は嬉しいです」


 彼女はそう言ってニコニコと微笑んだ。

 だが、ふと彼女の動きが止まった。

 両手を身体の後ろに回し、狐の尻尾をパタパタと揺らしながら、もじもじと体をよじり始めたのだ。


「あのぉ……ところでですね。姫子ちゃんにお願いがあるのですが……」


 上目遣いで、どこか遠慮がちに私の様子を窺ってくる。

 神様のお願いだなんて、なんなのだろうか。

 罪深い私に何か試練を与えようとでも言うのか、それとも祈りの対価の要求か。

 私は少し警戒しながらも、居住まいを正した。


「なんでしょうか? 私に出来ることであれば良いのですが」

「あの……人間さんは、仲のいいお友達を愛称で呼ぶと聞きます。なので……『白妙ノ狐姫』ではなく『シロ』と呼んでくれませんか? 『様』も、付けないでほしいのです」

「……え?」


 予想外の提案に、私は目を丸くした。

 白妙ノ狐姫様は、人間の性別すら一夜にして自由に作り変える御力を持つ、明らかに超常の存在だ。

 自在に宙に浮かび、瞬間移動すら可能で、背中に輝く光輪を浮かばせている。

 しかも、初めて彼女に出会った時、彼女は『この世界の創造神、レバムロゴス様の娘』と名乗っていた。


 創造神の娘ということは、神様の中でもかなりの上位存在に違いない。

 そんな神聖な御方を、友達のように『シロ』だなんて気安く呼んでしまえば、とんでもないバチが当たるんじゃないだろうか。

 背筋がスッと凍るような感覚を覚えた。


 私がどう答えるべきか悩んで沈黙していると、白妙ノ狐姫様は慌てたように言葉を継いだ。


「あ、あのですね。私、人間さんの前に顕現したのは、姫子ちゃんが初めてなんです」

「初めて、ですか?」

「はい。お父様は『神という存在は、人間と過度に触れ合うべきではない』という信念をお持ちでした。ですが……何があったのかは存じませんが、最近になって『本当に神の救いを求める敬虔深い者であれば、少しは手助けするのも良いかもしれぬな』と、心変わりされたのです」


 彼女は、少しだけ遠い目をして、私の顔を見つめた。


「そのおかげで、こうして何年もの間、ただ一つの願いを叶えようと、来る日も来る日もお祈りを続けた姫子ちゃんの前に私は姿を現すことができました」


 そこまで言うと、彼女は少しだけ寂しそうに狐耳を伏せた。


「私の周りの神は、皆大人ばかりで、私と歳の近い女の子はいないのです。だから、初めて姫子ちゃんと出会った時、『若くて綺麗な人だな』『仲良くしてほしいな』って、考えてしまいました」


 彼女はオフィスチェアからふわりと浮かび上がり、私の目の前まで降りてくると、私の服の袖をそっと小さな指でつまんだ。


「私たちは神と人ではありますが……お友だちに、なって欲しいのです!」


 必死に懇願するその瞳には、嘘偽りのない純粋な感情が宿っていた。

 見た目は小学生くらいの幼い少女だが、神様である以上、年齢は見た目通りではないはずだ。

 それでも、精神年齢は見た目相応なのだろう。

 彼女の表情には『もし断られたらどうしよう』という不安がありありと浮かんでいた。

 それを見た瞬間、私は不敬かどうかなどという建前はどうでもよくなった。

 ただ、今目の前で不安に押しつぶされそうになっている幼い少女に、笑って欲しいと心から思ったのだ。


「……そんなことでいいなら、良いですよ。白妙ノ狐姫様……いえ、シロちゃん」


 私が微笑みながらそう呼ぶと、彼女の金色の瞳が限界まで見開かれた。


「──っ!」


 次の瞬間、シロちゃんはぱあっと太陽のような眩しい笑顔になり、私に勢いよく抱きついてきた。


「ありがとうございます、姫子ちゃん! わぁーい! 初めてのお友達が出来ましたぁ!」


 私の胸に顔を擦り付けながら、まるで飼い主に褒められた子犬のように尻尾をブンブンとちぎれんばかりに振っている。

 その温かさと柔らかさは、紛れもなく生きている存在のそれだった。


「さあ、お友達の姫子ちゃん! お友達の幸せの為に、私がお友達としてお手伝いしますよー!」


 よっぽど友達に憧れていたのだろう。

 お友達という単語を何度も強調しながら、全身で喜びを表現するシロちゃんを見て、私は自然と頬が緩むのを感じた。


「ふふっ。頼りにしているわ、シロちゃん」


 私は、腕の中で無邪気にはしゃぐ彼女のキツネ色の髪を、優しく撫でた。


(もし私に妹がいたら、こんな感じだったのかな……)


 愛する兄さんのことしか頭になかった私の世界に、少しだけ温かくて騒がしい光が差し込んだような、そんな不思議な心地よさを感じながら、私はシロちゃんの柔らかな髪を撫で続けた。

 

 ふふ……兄さんと結婚したら、こんな可愛い子が欲しいな。

 女同士で子供は産めないけど、シロちゃんならなんとかしてくれるかもしれない。

 もしどうにかできるのなら、兄さんに私の子を産んで欲しい。

 

「……!?」


 シロちゃんが急にブルリと震える。

 

「どうかした? シロちゃん?」

「いえ……なんでしょうか……今、急に寒気がしたのですが……」


 急にどうしたのかな? 変なシロちゃん。

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