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朝起きたら超絶美少女になっていた俺ですが、男嫌いだった毒舌妹の様子がおかしくて貞操の危機です。  作者: たまやん


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第26話 TSバレンタイン

「あー、今年もまたこの日がやってきたな……」


 二月十四日。バレンタインデー。

 教室の空気がどこか浮ついている中、俺の席の周りに集まった男子生徒の一人、進藤が深くため息をついた。

 彼は毎年、この時期になると世界の終わりのような顔をして過ごすのが恒例行事となっている、いわゆる「非モテ同盟」の筆頭だ。


「最初から諦めんなよ。誰かこっそりと、いつのまにか机の中にでも入れてくれてるかもしれないだろ?」

「そう思ったこともあったけど、一度もそんな事無かったよ馬鹿野郎!」


 友人の佐藤が励ますが、進藤は半泣きで逆ギレした。

 そして、恨めしそうな視線を俺に向けてくる。


「お前は良いよなぁ、翔。毎年山ほどチョコ貰えるもんな」

「まあな。だって俺、イケメンだもんな。スポーツも学力もトップで、人望も厚い。モテないわけがないだろ?」


 俺はふふんと鼻を鳴らし、ドヤ顔を決めた。

 だが、すぐに視線が自分の胸元へと落ちる。

 そこには、俺の誇り高い筋肉の代わりに、柔らかい2つの膨らみが主張していた。


「……まぁ、それも過去の話だけどな」


 俺の言葉に、場が静まり返る。

 そうだ。俺はもう「イケメン完璧生徒会長」ではない。

 今は「TS美少女生徒会長」なのだ。

 チョコを貰う側から、あげる側(?)にシフトしてしまったのである。


 進藤は俺の顔をジロジロと眺め、ソワソワし始めた。


「っていうかさぁ、翔。お前が俺にチョコくれよ」

「はぁ!? なんで俺が!? 気持ち悪っ!」

「いやだってお前、外見は女の子じゃん! しかも美少女! お前からチョコ貰ったら、正直めっちゃ嬉しい気がする!」

「ふざけんな! 中身は男だっつーの!」


 俺が叫ぶと、佐藤が呆れたようにため息をついた。


「はぁ……進藤、お前いよいよもって男にチョコねだり始めたら終わりだぞ? 流石にドン引きだよ馬鹿」

「いや、だってさあ! 今の翔を見てみろよ! この顔で男と思うのは無理だって! 中身が翔なのはわかってるけど、本能が『可愛い』って叫んでんだよ!」

「……俺は諦めてねぇから。こいつが男に戻ることを」


 佐藤の低い声が響いた。

 進藤が少し驚いて肩を震わせる。


「俺達まで受け入れたら駄目なんだよ。こいつは、一条翔だ」

「佐藤……」


 俺は胸が熱くなった。

 最近はもう、クラスメイトたちも俺のことを「男っぽい性格の女子」として扱い始めている。俺自身も、この状況に慣れつつあった。

 「今のほうが可愛いじゃん」

 「元に戻らなくて良くね?」

 そんな無責任な声も聞こえてくる中で、佐藤だけはずっと俺を「男」として見てくれている。


 以前、なんでそこまでしてくれるのかと聞いたことがあった。

 その時、あいつは少し照れくさそうにこう言ったんだ。

 

『俺が一緒に過ごしたお前は、今のお前じゃなくて、自己肯定感の塊でスポーツ万能なイケメン生徒会長のお前だからな……俺は、男のお前が……好きなんだよ』

 

 男の俺を「好き」って言ってくれるこいつは、本当にいい奴だ。


「ありがとな、佐藤」

「おう。チョコは用意すんなよ。俺は女の姿だからって、お前から貰っても嬉しくないからな」

「誰があげるかよ!」


 俺たちは笑い合った。


 *


 昼休み。

 昼食を食べ終え「さて、何をしようかな」と俺が考えていると、視界の端から近づいてくる影があった。

 我が妹、一条姫子だ。

 今日はいつにも増して機嫌が良さそうで、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。

 ……怖い。普段クールな分、この笑顔の裏に何があるのか勘ぐってしまう。


「兄さん。今年はチョコをまだ貰えてないみたいですね?」

「う、うるせえな。仕方ねえだろ? 今の俺は女の身体なんだから」


 俺が引き気味に答えると、姫子は「ふふふ」と楽しそうに笑った。


「いやぁ、本当に一個も貰えなくなったのは残念ですね。毎年毎年、下駄箱や机から溢れんばかりの大量のチョコを貰って帰ってきて……」


 姫子の目が、すうっと細められる。


「私に『食べきれないからさ、姫子もいくつか食べてくれよ』と渡される、あの屈辱……!」

「えっ?」

「何故この私が! 兄さん狙いの盛りのついた猫どもが作ったチョコを! 兄さんの代わりに処理せねばならないのですか……くっ……! 思い出すだけでも腸が煮えくり返る……!」


 姫子の表情が、笑顔から般若のような怒りの形相へと変わっていく。

 え、マジで?

 俺、姫子は甘い物好きだから喜ぶかなと思ってこいつにも分けてたんだけど……。

 なんかよくわからないけど、こいつこんなにムカついてたのかよ。


「しかし!」


 姫子は深呼吸をして、再び聖母のような微笑みを取り戻した。


「女の子になった兄さんにチョコを渡す人がいなくなった今、これで安心してバレンタインを過ごせるというものですね。いやあ、素晴らしい。害虫駆除の手間が省けました」

「害虫駆除……? お、おう……良かったな……?」

「はい。というわけで、これ義理チョコです」


 姫子が背中に隠していた小さな箱を差し出した。

 透明なケースに入ったそれは、リボンで可愛らしくラッピングされている。

 中身は、どう見ても手作りのフォンダン・ショコラだ。


「可哀想な兄さんに、この慈悲深い私が差し上げますね? 感動に打ち震えてください」

「おぉ……これ、すげぇな」


 俺はケースを受け取り、まじまじと見つめた。

 店で売っているような完成度だ。義理だと言いながら、ここまで手の込んだものを作るとは。

 さすが姫子、何事にも手を抜かない性格が出ているな。


「ありがとうな! 姫子! めっちゃ美味そうだし、嬉しいよ!」

「……っ! べ、別に、義理でも喜んでもらえたなら良かったです」


 姫子が頬をほんのりと赤く染めて、視線を逸らす。

 なんだかんだで可愛いところあるじゃないか。

 家族の絆って良いよな!


「な、なぁ姫子ちゃん! 俺にも! 俺にも義理チョコちょうだい! お願い!」


 その空気をぶち壊すように、進藤が特攻をかけた。

 姫子の表情が一瞬で氷点下まで下がる。


「はぁ?」


 その一言だけで、周囲の温度が5度くらい下がった気がした。

 姫子は進藤を、汚物を見るような目で見下ろす。


「寝言は寝て言ってください。何故私が、貴方のような男にチョコをあげなければならないのですか? 訴えますよ」

「ひぃ、裁判をちらつかされた! この世は神も仏もいないのかぁ……」


 進藤が膝から崩れ落ちる。

 その無惨な姿を見て、教室のあちこちから声が上がった。


「姫子ちゃんにチョコ貰おうなんて命知らずだな」

「クールな姫子ちゃんマジかっけぇ」

「あの不快なゴミを見るような目……ゾクゾクするぜ。俺も蔑まれたい」


 ……おい、最後の一人。大丈夫か?

 特殊な性癖を開花させてる奴がいるぞ。


 そんな騒ぎの中、クラスの女子たちが俺のもとに集まってきた。


「あの、翔くん……」

「ん? どうした?」


 女子の一人が、恥ずかしそうに小さな袋を差し出してくる。


「これ、よかったら食べて。どうしようか悩んでたんだけど、姫子ちゃんが渡したから良いよね?」

「え? 俺にくれるの?」

「うん。本当はもっと早く渡したかったんだけど、女の子になった翔くんは誰かにあげる側なのかなって思って……渡して良いのかわからなくて皆困ってたんだけどね」


 彼女の言葉を皮切りに、周りの女子たちも次々と動き出した。


「じゃあ私も! これ、友チョコだけど!」

「私もー! 翔くん、毎年喜んで受け取ってくれるもんね!」

「はい、これ私の手作りクッキー!」


 あっという間に、俺の机の上にはチョコやクッキーの山が築かれていく。


「お、おいおいマジかよ……! ありがとう! みんなありがとうな! 本当に嬉しいよ!」


 俺は笑顔で礼を言った。

 なんだ、捨てたもんじゃないな。

 俺の人徳は、性別が変わっても健在だったってことか!

 フハハハ! バレンタインデー最高!


 その時。

 視界の端で、プルプルと震えている影が見えた。


「わ……私だけが……兄さんにチョコを渡す作戦が……!」


 姫子が拳を握りしめ、ギリギリと歯噛みしている。

 その背後には、黒いオーラのようなものが立ち昇っていた。

 

 「計算外です……! あんなにデレデレと鼻の下を伸ばして……!」

 

 という怨嗟の声が聞こえた気がするが、俺は見なかったことにした。


 今は、目の前の女の子たちへの感謝に集中しよう。

 怒れる白雪姫の機嫌取りは、家に帰ってから考えればいいさ。

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― 新着の感想 ―
こ、これがあの伝説の 「サクシ=サクニオボ•レル」
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