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朝起きたら超絶美少女になっていた俺ですが、男嫌いだった毒舌妹の様子がおかしくて貞操の危機です。  作者: たまやん


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第22話 つかさくんは良い子だな

 カーテンの隙間から差し込む光が、まぶたを優しく刺激する。

 ゆっくりと目を開けると、そこはいつもの自室の天井ではなく、パステルカラーの壁紙に囲まれた見知らぬ空間だった。


 (あっ、そうか。俺はひよりの家に泊まったんだったな)


 ぼんやりとした頭で記憶を手繰り寄せる。

 昨夜は深夜までひよりと「ま◯マギ」談義に花を咲かせ、結局4時過ぎまで起きていたんだった。

 枕元のスマホを手に取り、画面をタップする。


 『11:02』


 「うわっ……もう昼じゃん」


 生徒会長として、普段は規則正しい生活を心がけている俺にとって、こんな時間まで寝ているなんて久しぶりだ。

 まあ、たまにはこんないい加減な休日があってもいいか。

 俺はのっそりと布団から這い出し、ベッドでミノムシのように布団にくるまっている部屋の主を起こしにかかる。


 「ほら、ひより。もう昼だぞ。そろそろ起きなきゃ駄目だぞ」


 肩を軽く揺すると、布団の塊から「うぅ~ん」という唸り声が漏れた。


 「まだ眠いよぉ……。……って、あれ? 翔先輩? なんで先輩が……」


 寝癖で爆発した頭をひょっこりと出し、ひよりは目をぱちぱちと瞬かせた。

 数秒のロード時間を経て、記憶が同期されたらしい。


 「って、そっか! 私が泊まらせたんだったっすね! やべ、めっちゃ寝てた!」


 照れくさそうに頭をガシガシと掻くひより。

 その無防備な姿に苦笑しながら、俺は立ち上がった。


 「おはよう、ひより。ってもう、こんにちはの時間だけどな」

 「おはざーっす先輩……」

 「そろそろ帰らなきゃ、ご家族にも迷惑だよな」


 俺がそう言って荷物をまとめようとした時、コンコンとドアがノックされ、若すぎる美人ママ・ひみこさんが顔を出した。


 「あら、起きたのね。ずいぶん遅くまで起きてたみたいだから、二人ともお寝坊さんだったわね~」


 ひみこさんはエプロン姿で、眩しいほどの笑顔を向けてくる。


 「そろそろお昼ご飯が出来るから、翔ちゃんも早く顔を洗っておいで」

 「あっ、そんなお気遣いなく! 随分と長居してしまいましたので、そろそろ帰ろうと思っていたところです。ご迷惑をおかけするわけにはいきませんし……」


 俺は慌てて手を振って遠慮した。

 昨日の夕飯に、お風呂に、宿泊まで。

 これ以上お世話になるのは流石に申し訳ない。

 だが、ひみこさんは「あらあら」と嬉しそうに目を細めた。


 「本当に若いのに礼儀正しくて良い子ねぇ。ひよりはもっと翔ちゃんを見習いなさい」

 「うげぇ、朝から説教は勘弁してよー」


 ひよりが舌を出す。ひみこさんはクスクスと笑いながら、俺にウインクを飛ばした。


 「それより気にしないで、翔ちゃん。もうあなたの分も作ってるんだから、食べてくれないと逆に困っちゃうわ。作りすぎちゃったのよ~」

 「……そうですか。それなら、お言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます、ひみこさん」


 ここまで言われて断るのは逆に失礼だ。

 俺はニッコリと感謝の意を伝えた。


 「じゃあ、顔洗ってくるっすー」


 ひよりの後を追って一階に降り、洗面所へ向かう。

 顔を洗い、持参した歯ブラシセットで口の中をリフレッシュさせていると、背後から気配がした。


 「か、翔さん! おはようございます!」


 振り返ると、弟のつかさくんが直立不動で立っていた。

 背筋がピンと伸びていて、軍隊のようなキレのある挨拶だ。


 「つかさくん、おはよう。随分と良い姿勢だね」


 俺は感心しながらタオルで顔を拭いた。


 「キミも今日は休みなんだな。部活とかはやってないのかな?」

 「はい! 陸上部です! 土曜は朝練がありますが、今日は部活なんてやってる場合じゃないので休みました!」


 『部活なんてやってる場合じゃない』とは穏やかではない。

 何か大事な用事でもあるのだろうか。

 家庭の事情か、それともテスト勉強か。

 俺が少し心配になって見つめていると、つかさくんはおもむろに胸元に大事そうに抱えていた「何か」を差し出してきた。


 「こ、これをどうぞ!」


 「ん? これは……」


 受け取ったそれは、昨日洗濯させてもらい、ベランダに干していた俺の服一式だった。

 女子用の制服、ブラウス、スカート。

 そして、その服の間には丁寧に畳まれた、俺のブラジャーとショーツが挟まっていた。


 「あ、ああ、昨日洗った服かぁ。昼前だし、もう乾いてるよな」


 昨日の夜、ひみこさんに洗濯機を借りて干しておいたやつだ。

 完全乾燥している。


 「ごめんね、キミが回収してわざわざ畳んでくれたんだね。ありがとう」


 俺は感謝の言葉を伝えた。……伝えたのだが。

 冷静に考えると、これってどうなんだ?

 中身は男とはいえ、今の俺の体は紛れもなく女子高生だ。

 その下着を、男子中学生に回収され、丁寧に畳んで渡されるというシチュエーション。

 普通なら悲鳴を上げるか、ドン引きする場面かもしれない。

 オレでなきゃ見逃しちゃうね。


 (やんわりと、異性の洗濯物は触らないほうが良いよって注意したほうがいいか……?)


 一瞬悩んだが、俺はつかさくんの顔を見て思いとどまった。

 彼の表情は、まるで悟りを開いた賢者のようにスッキリとしていて、一点の曇りもない爽やかな笑顔だったからだ。

 邪念も下心も感じられない。純粋な100%の善意に見える。


 (まぁ、彼はきっとこの家の洗濯物担当で、美人の母や姉の下着も見慣れているんだろう。それで、お姉ちゃんの友達の役に立ちたいっていう、純粋な親切心でやってくれたんだろうし……まあいっか)


 気にしすぎるのも自意識過剰かもしれない。

 俺はつかさくんに向けて、ニッコリと微笑みかけた。


 「助かったよ、つかさくん。キミは気が利く良い子だね」


 その瞬間、つかさくんの顔がボンッと音を立てそうなほど赤くなり、彼は心底幸せそうな表情を浮かべた。

 昨日から思っていたが、彼は本当にシャイボーイだな。


 「あれ? つかさ? 何やってんの?」


 そこへ、ひよりがひょっこりとやってきた。


 「翔先輩になにか用?」

 「ああ、ひより。つかさくんは本当に良い子だな。わざわざこの洗濯物をとりこんで持ってきてくれたんだよ」


 俺は手元の「畳まれた制服と下着」をひよりに見せた。


 「……は?」


 ひよりの動きが止まった。

 彼女の視線は、俺の手元にある制服&下着と、硬直している弟を何度も往復する。


 「ねえ……つかさ。まさか」


 ひよりの顔から、サーッと血の気が引いていく。


 「な、なんだよ姉ちゃん……な、何を想像してるんだよ……?」


 つかさくんの声が裏返った。

 額に脂汗をかきながら、ジリジリと後ずさりしていく。


 「お前、それ……まさか……いや、まさか……」

 「ち、違う! 俺はただ、お客さんである翔さんの役に立ちたかっただけで! 決して姉ちゃんが想像しているようなことなんてしてないからな! 絶対にしてないからな!」


 つかさくんは視線を忙しなく動かしながら何か小声で呟いた後、謎のプレッシャーに耐えきれなくなったのか、脱兎のごとく廊下をダッシュして走り去っていった。


 「…………」

 「…………」


 残された俺たちに、沈黙が流れる。

 ひよりは頭を抱え、深いため息をついた。


 「う、うわぁ……あいつマジで変な事してないよね……? いやいや……実の姉として信じたいけど、でも……」

 「ど、どうしたひより? 大丈夫か? 何かあったのか?」


 様子のおかしい姉弟のやりとりに、俺は心配になって声をかけた。


 「いえ、大丈夫です。先輩は何も気にしないでください。本当に。マジで。これ以上は我が家の家族会議で話し合うことなんで」


 ひよりは死んだ魚のような目で俺を見た後、ブンブンと首を振って無理やり笑顔を作った。


 「さ、さあ! 顔洗ってスッキリして、ご飯食べましょうご飯! 母さんの飯は美味いっすよー!」

 「お、おう。そうだな! 腹減ったしな!」


 状況はよく飲み込めないが、ひよりがそう言うなら深く追求しないのが優しさだろう。

 俺たちは努めて明るく振る舞いながら、食卓へと向かった。

 それにしても、服を貸してくれたし、洗濯物も取り込み畳んでくれたつかさくんは本当に良い子だな。

 毒舌ばかり吐いてくる姫子も見習ってほしいぜ。まったく。

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