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朝起きたら超絶美少女になっていた俺ですが、男嫌いだった毒舌妹の様子がおかしくて貞操の危機です。  作者: たまやん


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第11話 無防備な翔と、暗躍する妹

 定例会議から数日が経過した。

 学校生活は、驚くほどスムーズに平穏を取り戻しつつあった。

 当初は動物園のパンダのごとく集まっていた野次馬たちも、俺が女子の制服を着て普通に授業を受け、普通に購買部でパンを奪い合う姿を見慣れたのか、今では「ああ、生徒会長ね」くらいの反応で通り過ぎるようになった。

 トイレは多目的トイレ、着替えは保健室。

 この黄金ルートを確立したおかげで、男女どちらに気を使うこともなく、俺は快適な学校生活を享受していた。


「昨日テレビで放送されてた『ジュラ◯ック・パーク』観た? やっぱ1作目ってすげーよな! 何十年も前の作品なのにCG半端ないし、あのティラノサウルスの迫力は展開がわかっててもマジでハラハラドキドキだよな!」


 休み時間の教室。俺は男子グループの輪に入り、昨夜の映画の話で盛り上がっていた。

 

「わかるわー。雨の中で車襲われるシーンとか、今観てもチビりそうになるもんな」

「だよな! いい作品ってのはいつ観ても色褪せないんだよなー!」


 机に腰掛け、足をぶらぶらさせながら熱弁を振るう。やっぱり男同士の話は落ち着くぜ。

 そこへ、佐藤が近づいてきた。


「なあ翔、ちょっといいか?」

「ん? どうした佐藤」

「ちょっと二人だけで話したいことがあるんだが」


 佐藤の真剣な表情に、周りの男子たちがニヤニヤし始めた。

 

「お、なんだ佐藤~。まさか翔に告白すんのか~?」

「美少女になったからって、お前もついに落ちたか?」

 

 冷やかしの声に、佐藤はしかめっ面で言い返す。

 

「そんなわけ無いだろ馬鹿。中身は男だぞコイツは」


 バッサリと切り捨てるその態度。

 俺はそれを見て、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 周りが俺を「女子」として扱い始める中、こいつだけは男の頃と全く変わらず、フラットに接してくれる。

 それがどれだけ救いになっているか。

 

「わかった。じゃあ、ちょっと外に出るか」

 

 俺は机から飛び降り、佐藤と共に人のいない渡り廊下まで移動した。


 *


「で? 話ってなんだよ。面白い話……ってわけじゃないよな」

 

 人気のない廊下の隅。俺が切り出すと、佐藤は周囲を警戒するように一度見回してから、声を潜めた。

 

「あらかじめ言っておくけど、これは俺が撮ったんじゃなくて、一部の男子の間で回されてる写真だからな」

 

 そう言って、彼は自分のスマホを俺に手渡した。


「写真?」

 

 俺は怪訝に思いながら画面を覗き込む。

 そして言葉を失った。


「え……」

 

 画面に映っていたのは、俺だった。

 だが、ただの写真ではない。

 教室で椅子に座り、無防備に足を広げて談笑している俺。そのスカートの奥が、バッチリ見えている。

 制服のまま廊下を走り回っている俺。めくれたスカートから下着が覗いている。

 階段を上っている俺を、下から煽るアングルで捉えたもの。


 次々とスワイプされる画像。その全てが、俺の「パンチラ」写真だった。


「……これって……えぇ……? マジか……」

 

 俺は見ていられなくなり、片手で顔を覆った。

 血の気が引いていくのがわかる。

 男だった頃の気持ちのまま動いていた俺は、あまりにも無防備過ぎたのだ。

 あぐらをかいたり、大股で歩いたり、階段を二段飛ばしで駆け上がったり。

 男なら何の問題もない動作が、スカートを履いた女子にとっては致命的な隙になる。

 それに気がついた一部の男子生徒が、俺が気づかぬうちに撮影し、仲間内で共有していたらしい。


(俺は……狙われていたのか。ずっと)


 遠藤に体育倉庫で迫られた時の、あのいやらしい視線と恐怖が蘇る。

 俺は写真を撮った彼らにとって、油断してパンツを見せてくれるお手頃な「オカズ」として注目されていたのだ。

 その事実が、鋭い刃物のように俺の心を切り刻む。


「先生には俺から相談しておいた。画像を渡したのは女性の先生だから、悪用はされないと思うし、何らかの対処はしてくれると思う」

 

 佐藤は俺の手からスマホを取り上げると、操作して画像を削除した。

 

「俺はさ、お前の友人だから、今までと変わりたくないお前の気持ちはわかるし応援したい。でもな」

 

 佐藤の手が、俺の肩に置かれた。

 

「今のお前は女子なんだよ。しかも、学校でトップクラスに可愛いと言っていいくらいの顔をしてる。だから、こんな隙を見せたら駄目だ。立ち振る舞いを見直す必要がある」


 その言葉は、純粋に友人を心配し、忠告してくれているものだった。

 どのくらいの人数に出回ったのか。ネットに流出していないか。不安と恐怖で押しつぶされそうになる。

 俺のパンツを見てシコったりしたのだろうか? そう考えるとなんとも言えない暗い気持ちが湧き上がる。

 けれど、ここで俺が泣いたり取り乱したりしたら、佐藤にもっと心配をかけてしまう。


 俺は深呼吸をして、顔を上げた。

 精一杯の笑顔を作る。

 

「OK。心配して色々やってくれてありがとうな。本当に助かったよ。やっぱお前は最高の友人だよな!」

 

 俺は努めて明るく振る舞い、佐藤の胸を軽く叩いた。


「あ~、困ったな~。恵まれない男子たちにサービスしちゃったか~! 俺が美少女すぎるのも困ったもんだな! 感謝してほしいもんだよ! あっははは!」

 

 佐藤は一瞬、複雑そうな表情を浮かべた。俺が無理をしているのを見透かしたのかもしれない。

 

「……無理はすんなよ」

 

 彼は一言だけそう言って、それ以上は何も言わなかった。


 *


 放課後。

 授業の内容なんて全く頭に入ってこなかった。

 黒板の文字がただの記号に見え、男子の視線が全て俺の下着を狙っているように思えて、冷や汗が止まらなかった。

 それでも、落ち込んだ気持ちは表に出さないように踏ん張った。


「じゃあ皆、また明日な!」

 

 俺は笑顔でクラスメイトたちに手を振って教室を出た。

 廊下を歩いていると、横に誰かが並んだ。姫子だ。


「佐藤くんから話は聞きました」

「えっ……?」

 

 俺は驚いて立ち止まった。佐藤のやつ、姫子にも伝えたのか。

 

「そ、そうか。いやー、参ったよ。俺ももっと気をつけないとな……」

 

 俺が苦笑いで誤魔化そうとすると、姫子は涼しい顔で言い放った。


「犯人は特定し、全て始末しました」


「は?」

 

 俺の思考が停止した。

 

「えっ!? お前が!? どうやって!? っていうか始末って何!?」

 

 俺が驚愕して問い詰めると、姫子は黒髪をふわりとかき上げ、それはそれは可憐にニッコリと笑った。


「ええ。簡単ですよ」

 

 姫子は事もなげに語り始めた。

 

「佐藤くんに画像を回した生徒をまず問い詰め、発信元をたどりました。そこからは物理的なアプローチです。アイアンクローで締め上げて撮影主を特定し、そのスマホの通信履歴から共有した人間を洗い出しました」

「あ、アイアンクロー……」

「ええ。そして全員を一箇所……例の体育倉庫に集め『これは肖像権の侵害および迷惑防止条例違反に該当する。今すぐデータを消去しなければ刑事事件として警察に通報し、あなたたちの人生を終わらせる』と丁寧に説明しました」

 

 丁寧な脅迫だ。


「幸い、思ったより出回っておらず、全部で6人でした。彼らには二度とこのようなことはしないと誓わせ、念の為の保険として、彼らの恥ずかしい写真を私が撮影しました。『もし逆らったり、隠し持っていたデータが流出したりすれば、この写真がネットに自動放流されるプログラムが作動する』とも脅しをかけておきましたから、もう心配はないでしょう」

「プログラムって……そんなもんあるのか?」

「ハッタリです。ですが、恐怖で支配された彼らには真実と区別がつきません」

 

 姫子は悔しげに拳を握りしめた。

 

「出来ることなら奴らの汚らわしい記憶そのものを消去したいのですが、残念ながら私にはその力がなく、悔しいです……!」


 完璧すぎる。そして怖すぎる。っていうか彼らの恥ずかしい写真ってなんだ!?

 お前は一体何を撮影したと言うんだ!?

 俺は背筋に冷たいものを感じたが、同時に、これら全てが俺のために行われたことなのだと思い直し、怒る気にはなれなかった。

 彼女なりの、行き過ぎてはいるが家族を守りたいという愛情表現なのだ。


「……ありがとう、姫子。まさかそこまでしてくれていたなんて、本当に助かった」

 

 俺は素直に感謝を口にした。

 だが、やはり心配だ。女子高生が一人で男子数人を相手にするなんて、いくら強くても危険すぎる。

 もし逆上されて襲われたりしたらどうするんだ。


 俺は姫子の手を取り、強く握った。

 

「でもな、もしそんな事をしてくれるなら、次からはお兄ちゃんに一言相談してくれ。危険なことをして、お前の身になにかあったならと思うと、俺は本当にゾッとするんだ」


 俺の言葉に、姫子は鼻で笑った。

 

「なんですか? 弱体化したヨワヨワ兄さんが、この私の心配ですか? 百年早いと思いますが」

 

 冷ややかな視線。いつもの毒舌だ。

 だが、俺は引き下がらない。真剣な目で姫子を見つめ返した。


「確かにお前は強いよ。多分、そんじょそこらの格闘系の部活のエースより強いかもしれない。それは認める」

 

 俺は言葉に力を込めた。

 

「でも、それ以上にお前は可愛くて魅力的な女の子なんだ。俺の大切な妹なんだよ。家族が危険なことをするなんて、俺には耐えられない。頼りにならないかもしれないけど、それでもお前を思う俺の気持ちだけは理解してほしいんだ」


 俺の魂の叫び。

 姫子は、口をポカンと開けて固まっていた。

 数秒の沈黙の後。

 

「…………」

 

 彼女はおもむろに口を開いた。


「もう一度言ってください」

「え?」

 

 俺は困惑した。聞こえなかったのか?

 

「『俺の可愛い大好きな妹』の下りを、もう1回です」

 

 姫子は人差し指を立てて要求した。

 

「そ、そんな事は言ってないぞ!?」

「言いました。私の脳内変換機能がそう認識しました。ほら、もう1回、もう1回」

 

 パンパン、と手を叩いて催促する姫子。その目はいつになく真剣だ。


 しぶしぶ、俺は観念して繰り返した。

 

「何なんだよ……? えっと、お、お前は可愛くて魅力的な女の子なんだ。俺の大切な妹なんだよ」


 ピコン。

 電子音が鳴った。


「ん?」

 

 音の出処を見ると、いつの間にか姫子の手にはスマホが握られていた。

 画面にはボイスレコーダーアプリが表示されている。


「しっかり録音いたしました。永久保存版として、今後色々と活用させていただきますね」

 

 ニヤリ。

 姫子の口角が吊り上がり、悪魔的な笑みが浮かぶ。


「おい!! 色々と活用ってなんだよ!? 脅すのか!? 俺も脅すのか!?」

 

 俺は慌てて姫子のスマホに手を伸ばすが、軽やかにかわされる。

 

「そんな事しませんよと言いたかったですが、それもいいですね。兄さんが生意気な口を聞いた時に再生して、羞恥心で悶えさせるのに使えそうです」

「やめろ! それは精神的拷問だ!」


 姫子はクスクスと意味深に笑い、くるりと踵を返した。

 その足取りは、先程までとは打って変わって軽やかだ。


「さあ兄さん、帰りましょう。あなたの『可愛くて魅力的な大切な妹』が、一緒に帰って差し上げますよ。感涙にむせび泣いてください」

「くそっ、調子に乗りやがって……!」


 上機嫌に歩き出す姫子の背中。

 俺はため息をつきつつも、その後を追いかけた。

 まあ、あんな物騒な事件の後だ。このくらいの平和なやり取りで終わるなら、良しとすべきかもしれない。

 ……本当に録音データ、消してくれないかなぁ。

 こいつの気持ちは本当にわからん……。

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