表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰も間違っていない世界で  作者: 抹茶
第1章 選ばれる夜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/11

第8話 揺れる選択

灰は止まらない。広場の外縁をなぞるように流れ、ゆっくりと形を作り始める。数は多くない。だが確実に“次”が来ている。


 さっきまでの言葉は、まだ空気に残っていた。誰も動かない。誰も決めていない。


 順番に従うのか、それとも壊すのか。ただ待つか、動くか。その間に、時間だけが過ぎていく。


「……どうする」


 誰かが呟くが、答える者はいない。決めるということは、誰かを切り捨てることだからだ。


 沈黙の中、俺は一歩前に出た。


「俺はやる。さっきと同じだ。一点に引きつける。分散させなければ、被害は減る」


「減るだけだろ」「ゼロにはならない」


「ああ。でも今よりはマシになる」


「保証はない」


「ない」


 即答すると、ざわめきが広がる。納得はされない。それでも言い切る。


「だから選べって言ったんだろ。何もしないで順番に任せるか、分からない方法で減らすか」


 どちらも正しい。どちらも間違っていない。だからこそ、決めるしかない。


 灰がまた動く。今度は広場の中央ではなく、家々の間をなぞるように流れている。選んでいる。誰かを。


「……俺は従う。今まで通りだ。それで生き残ってきた」


 年配の男の言葉に、数人が頷く。


「俺もだ」「下手に動いて、余計に増えたらどうする」


 合理的な判断だ。


 だが――


「……俺は、やる」


 別の声がした。振り向くと、最初に詰め寄ってきた男が立っている。


「さっきの見てた。完全じゃないのは分かってる。でも、何もしないで決まるのを待つのは……俺には無理だ」


 空気が揺れる。完全に割れたわけではない。だが一枚ではなくなった。


「……勝手にしろ。ただし巻き込むな」


「分かってる」


 それで十分だった。全員が同じ方向を見る必要はない。動く者がいればいい。


 俺は男を見る。


「名前は」


「……ダグ」


「いいか、ダグ。俺が中央に立つ。お前は外側を見ろ。分散したら声を出せ」


「分かった」


 迷いはない。決めた人間の動きだ。


 灰が形を取り始める。一つ、そしてもう一つ、さらにもう一つ。別々の場所で同時に。


「……来るぞ」


 ダグが低く言う。


 俺は中央へ歩く。意図的に一人になる。さっきと同じだ。


 違うのは、“見ている目”が増えたことだ。


 灰の流れが変わる。一つがこちらへ寄り、もう一つも引き寄せられる。だが三つ目が逸れる。


「右だ!」


 ダグの声が飛ぶ。


 視線だけ向ける。集中を分けない。中心を崩さない。


 影が形を取る。二つが目前に集まり、圧が増す。空気が重く、肺が軋む。それでも離さない。引きつける。それだけに集中する。


 ――カン。


 音が鳴る。近い。


 影が揺れる。もう一つが再び動く。


「左に流れた!」


 ダグが叫ぶ。


 いい。見えている。


 完全には止められない。だが、制御はできる。


 影の一つが途中で止まり、揺れ、戻る。俺の方へ。


「……効いてるな」


 小さく呟く。


 だがその瞬間、別の方向で短い悲鳴が上がった。


 全ては止められない。分かっていたことだ。それでも――さっきより遅い。確実に、遅れている。


「……続けろ!」


 ダグが叫ぶ。


 俺は応じない。ただ立ち続ける。引きつける。崩さない。それだけを繰り返す。


 やがて影が一つ消え、次にもう一つ消える。灰が崩れ、地面に落ちる。残る気配も徐々に薄れていく。


 完全ではない。だが、変わっている。


 夜が、少しだけ静かになる。


 広場に残るのは荒い呼吸と、押し殺した声だけだった。


「……減ったな」


 ダグが言う。


 誰も否定しない。さっきより明らかに。


「……ゼロじゃない」


「ああ」


 それでいい。完全じゃない。だが、選んだ結果だ。


 正しさの形は、一つじゃない。


 そのまま、夜は続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ