第7話 正しさの形
広場の空気は重かった。誰も大きな声を出さない。それでも視線だけが集まっている。さっきの行動がどう見られたかは分かりきっていた。
守れなかった。それだけならまだいい。だが――。
「……あんた、何をした」
低い声だった。振り向くと、一人の男が立っている。昼間、荷を運んでいた連中の一人だ。目が据わっている。
「見てたはずだ」
「見てたから聞いてる。あんた、わざと一人になったな」
否定はしない。
「結果はどうだ」
問いではない、確認だ。
「……一人死んだ」
誰かが小さく言う。空気がさらに冷える。
「減ったか」
「……減ってない」
誰も否定しない。事実だからだ。
「なら意味はあったのか」
静かな問いだった。責めているわけではない。ただ答えを求めている。
俺は少しだけ視線を外し、それから言う。
「完全には止められない。だが干渉はできる。減らせる可能性はある」
「可能性、か」
男は小さく笑う。笑いになっていない。
「その“可能性”のために、一人見捨てたのか」
「……ああ」
短く返すと、ざわめきが広がった。
「ふざけるなよ……」「助けられたかもしれないだろ!」
「全部助ける方法があるなら、最初からやってる。……ないからこうなってる」
誰も反論しない。できないからだ。
沈黙が落ちる。だが納得はされていない。
「……順番は守るべきだ」
年配の男が言う。
「今まではそれで乗り切ってきた。誰が先かは決まっている。それを崩すから、余計なことが起きる」
理屈は通っている。少なくともこの村の中では。
「順番通りなら、さっきの老人が先だった」「なら、あの子は助かったままだった」
視線がリノに向く。少女は息を呑み、小さく身を縮めた。
「それでいいのか?」
俺は静かに言う。
「何がだ」
「決まってるから仕方ないって、そうやって切り捨てるのが」
「仕方ないだろうが」
即答だった。
「全員は助からない。だったら順番に従うしかない。それが一番被害が少ない」
合理的だ。間違っていない。だからこそ厄介だ。
「……分かってる。お前らは間違ってない」
その言葉に場が一瞬静まる。
「でも、それでいいとも思ってない。順番があるなら、それはただの決め方だ。最初から決まってるわけじゃない。決めてるだけだ」
「同じだろうが!」
「違うな。決められるなら、変えられる」
沈黙が落ちる。誰もすぐには言い返せない。
「……変えて、どうする。さっきみたいに別の誰かが死ぬだけだろ」
「その通りだ。だから試してる」
視線を上げる。
「減らせるかどうかを」
男は黙る。歯を食いしばっている。
「……保証はあるのか」
「ない。でも、今のやり方にも保証はない」
遮る。「三人か四人死ぬ。それ以上もそれ以下も分からない。止まる理由も分からない」
事実だ。
「なら、どっちを選ぶかだ。決まってる方法で諦めるか、分からない方法で変えようとするか」
正しさと正しさがぶつかる。どちらも間違っていない。だから決まらない。
――カン。
音が鳴った。全員の動きが止まる。
次が来る。
議論は終わりだ。
俺は剣に手をかける。
「……選べ」
守るのか。従うのか。それとも――壊すのか。
灰が、また動き出す。




