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誰も間違っていない世界で  作者: 抹茶
第1章 選ばれる夜

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第7話 正しさの形

広場の空気は重かった。誰も大きな声を出さない。それでも視線だけが集まっている。さっきの行動がどう見られたかは分かりきっていた。


 守れなかった。それだけならまだいい。だが――。


「……あんた、何をした」


 低い声だった。振り向くと、一人の男が立っている。昼間、荷を運んでいた連中の一人だ。目が据わっている。


「見てたはずだ」


「見てたから聞いてる。あんた、わざと一人になったな」


 否定はしない。


「結果はどうだ」


 問いではない、確認だ。


「……一人死んだ」


 誰かが小さく言う。空気がさらに冷える。


「減ったか」


「……減ってない」


 誰も否定しない。事実だからだ。


「なら意味はあったのか」


 静かな問いだった。責めているわけではない。ただ答えを求めている。


 俺は少しだけ視線を外し、それから言う。


「完全には止められない。だが干渉はできる。減らせる可能性はある」


「可能性、か」


 男は小さく笑う。笑いになっていない。


「その“可能性”のために、一人見捨てたのか」


「……ああ」


 短く返すと、ざわめきが広がった。


「ふざけるなよ……」「助けられたかもしれないだろ!」


「全部助ける方法があるなら、最初からやってる。……ないからこうなってる」


 誰も反論しない。できないからだ。


 沈黙が落ちる。だが納得はされていない。


「……順番は守るべきだ」


 年配の男が言う。


「今まではそれで乗り切ってきた。誰が先かは決まっている。それを崩すから、余計なことが起きる」


 理屈は通っている。少なくともこの村の中では。


「順番通りなら、さっきの老人が先だった」「なら、あの子は助かったままだった」


 視線がリノに向く。少女は息を呑み、小さく身を縮めた。


「それでいいのか?」


 俺は静かに言う。


「何がだ」


「決まってるから仕方ないって、そうやって切り捨てるのが」


「仕方ないだろうが」


 即答だった。


「全員は助からない。だったら順番に従うしかない。それが一番被害が少ない」


 合理的だ。間違っていない。だからこそ厄介だ。


「……分かってる。お前らは間違ってない」


 その言葉に場が一瞬静まる。


「でも、それでいいとも思ってない。順番があるなら、それはただの決め方だ。最初から決まってるわけじゃない。決めてるだけだ」


「同じだろうが!」


「違うな。決められるなら、変えられる」


 沈黙が落ちる。誰もすぐには言い返せない。


「……変えて、どうする。さっきみたいに別の誰かが死ぬだけだろ」


「その通りだ。だから試してる」


 視線を上げる。


「減らせるかどうかを」


 男は黙る。歯を食いしばっている。


「……保証はあるのか」


「ない。でも、今のやり方にも保証はない」


 遮る。「三人か四人死ぬ。それ以上もそれ以下も分からない。止まる理由も分からない」


 事実だ。


「なら、どっちを選ぶかだ。決まってる方法で諦めるか、分からない方法で変えようとするか」


 正しさと正しさがぶつかる。どちらも間違っていない。だから決まらない。


 ――カン。


 音が鳴った。全員の動きが止まる。


 次が来る。


 議論は終わりだ。


 俺は剣に手をかける。


「……選べ」


 守るのか。従うのか。それとも――壊すのか。


 灰が、また動き出す。

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