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誰も間違っていない世界で  作者: 抹茶
第1章 選ばれる夜

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第5話 順番の意味

夜は、まだ終わっていなかった。


 広場には、さっきまでのざわめきが残っている。だが誰も声を上げない。声を出せば何かに気づかれる、そんな空気があった。


 理解はできる。この状況で騒ぐのは悪手だ。


 俺は死体のそばにしゃがみ込む。外傷はない。血も出ていない。だが、生きていない。


 触れると、わずかに冷たい。さっき倒れたばかりのはずなのに、温度が抜けている。


「……持っていかれてるな」


 何を、とは言わない。言う必要がない。


 背後で足音がした。振り向くと、村長が立っている。昼間よりも、さらに老けたように見えた。


「……見たか」


「ああ」


 短く返すと、村長は視線を落とし、それから言った。


「これで四人目だ」


「順番ってのは何だ」


 間を置かずに聞く。村長はすぐには答えなかった。周囲を見渡し、誰も近くにいないことを確認してから口を開く。


「……最初は、三年前だ。最初の夜、三人死んだ」


「それから?」


「次の年は四人。その次は三人。そして今年が……」


「四人目」


 俺が言うと、村長は頷いた。


「数が決まってるわけじゃないのか」


「分からん。ただ、三か四で止まる」


 完全な無秩序ではない。


「順番は?」


「……決まっている」


 村長の声がわずかに硬くなる。


「最初は、外から来た者。次に、村の外れに住む者。次に……一人でいる者だ」


 広場の空気がわずかに冷える。


「最後は?」


「分からん」


 即答だった。


「だが、順番が崩れることがある」


 さっきのことだ。リノではなく、別の女が選ばれた。


「条件を満たしていても選ばれないことがある。逆に、外れるはずの者が選ばれることもある」


「完全じゃないってことか」


「……ああ」


 村長は小さく頷いた。


「だから皆、夜は一人にならないようにしている。戸を閉めて、外に出ない」


 全部、繋がる。


「……なら」


 俺は立ち上がる。


「さっきのは、なんで外れた」


 村長は答えない。代わりに俺の後ろを見る。


 視線を追うと、家の陰にリノがいた。こちらを見ている。


「……あの子は、一人でいることが多い」


 それだけで十分だった。


 条件に当てはまる。だから選ばれかけた。


「だが、外れた」


「……ああ」


「なんでだ」


 村長は首を振る。


「分からん」


 だが、その目は完全に知らないわけではない。


 俺は少女を見る。震えているが、目は逸らしていない。


「……お前、さっき何かしたか」


「……なにも。ただ、座ってただけ」


 嘘ではない。少なくとも自覚はない。


 なら、別の要因だ。


 順番。条件。そして例外。完全に固定されていない以上、“上書き”がある。


「……割り込めるのか」


 小さく呟く。


「何か言ったか」


「いや」


 村長に背を向け、広場の中央を見る。灰はまだ消えていない。つまり終わっていない。


 あと一人。あるいは、もう一人。


 そのどちらかだ。


「……なあ、村長」


「なんだ」


「最後の一人は、どうなる」


 村長は少しだけ目を細める。


「……例年通りなら、夜が明ける前に終わる」


 意味は分かる。必要な数が揃うまで終わらない。


 俺は空を見上げた。まだ暗い。時間はあるが、長くはない。


「……なるほどな」


 静かに息を吐く。


 守る。選ぶ。割り込む。全部同じだ。この“順番”もただの選択に過ぎない。


 なら――壊せる。


 順番があるなら乱せばいい。基準があるなら狂わせればいい。完璧じゃないなら、崩せる。


 そのはずだ。


 風が動く。灰が、はっきりと流れ始める。


 来る。次が。


 俺は剣に手をかけた。


 考えるのは後でいい。今はやることがある。

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