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天使の世界4

「見ねぇ顔だな? それに変な服着やがって、アタシになんの用だ⁉ それに―――・・・」

「いや! 用とかそういうのは無くて‼」


 もう一度になるが。逸人は今、少なからず(よこしま)な所を感じている。

 そこへ用件を尋ねられれば、咄嗟に否定せざるを得ないのが現代人である。


「なにッ⁉ 用もねぇのに近付いて、その上馬鹿にまでしやがったのか⁉」

「ええ⁉ 馬鹿にしたつもりなんかないんだけど⁉」

「なに言ってやがる‼ アタシの蹴りをモロに喰らっておいて、微動(びどう)だにもしねぇどころか、凄いねだとか煽って来た癖に‼ しらばっくれてんじゃねぇぞ‼」

「えぇ⁉ いやだって痛くなかったし、パフォー―――ッ‼‼」

「痛くねぇだと⁉ いいぜ‼ 渾身(こんしん)のをくれてやるよ‼‼」


 逸人の台詞を切り取って解釈(かいしゃく)し、続けざまに襲い掛かる女の子の足。

 今度は更に強力な、もう一段上の威力を出すため、身体ごと飛び上がって回転すると、体重と勢いを使ったとんでもない蹴りが繰り出される。


 確かにその場で出せる最大の蹴りであるとは思われる。

 回避を考慮せず、防御も容易に行えるほどの(すき)を晒す蹴りなのだから。

 そして、そこまで大々的に表明されれば、いかに喧嘩経験に乏しい逸人であっても、腕を持ち上げて顔を守ることぐらいは出来る。


「うわッ‼‼ ―――って、え?」


 痛くはない。

 なんというか、押されたような感覚だ。

 ぶつかったのではなく、触られてる状態から押し出されたかのような。

 その勢いにしても、踏ん張ればとどまれてしまうくらいのもので、例えるならば強風や、電車で感じる揺れに近かった。


「マジかよ⁉⁉」


 一方で女の子は驚きを隠せない。

 ぶっ飛ばすつもりの全力で挑んだからだ。

 なんなら途中で体の回転が止まったことに気付いた瞬間が一番驚いていた。

 まるで大木を蹴ったかの如く。むしろ押し返されるほどの不動。


「お前の身体! どうなってんだよ!」

「ちょっ――⁉」


 着地と同時に、押し倒す勢いで触りに来る女の子。

 それにビックリして半歩ほど退き仰け反る逸人。

 これにより不思議なことが起こった。


 逸人の胸の上に、女の子が乗り上げるような体勢で静止したのだ。


 普通なら倒れてしまうような状態で、しかしピクリとも動かない。

 本来ならそのことに違和感を覚えただろう。

 が、各々は内心により、そんなことには気付かない。気にも留めない。


 女の子は逸人の身体に夢中だ。

 それは筋肉なり、骨なりという意味だが・・・。

 逸人はその光景と感触に囚われている。

 なぜなら、視界では見知らぬ少女が自分に抱き着き、あまつさえ胸に頭をうずめているのだから。


 喧嘩経験の浅い逸人だが、恋愛経験については少ないどころか存在しない。

 彼女いない歴=年齢の悲しきモンスターである。


 こんなことになってしまえば、心音はバズり散らかし、音割れを開始。

 触感は鳩尾(みぞおち)辺りに集中し、異性の象徴(しょうちょう)ばかりにインプレッション。


 外側の世界の音よりも、内側の音量が暴れ始めた頃。

 それでも聞き逃しようのない言葉が脳を貫く。


「アタシをお前の女にしてくれ‼‼」


 漢、只野逸人。

 生涯(しょうがい)を終えた(のち)、初めて告白というものを観測する。

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