天使の世界3
「テメェ‼ いい気になりやがって‼」
「状況わかってんだろうな‼‼」
「覚悟しやがれ‼‼」
物騒な言葉遣いに引き寄せられる視線。
嫌がおうにも見えてしまうソレは、今となっては少々珍しい風景か。
女の子を複数の男達が取り囲んでいるのが遠巻きからもわかった。
「・・・・・・・・・」
逸人は迷う。
助けるべきだろうか?
迷う理由は単純だ。
逸人は荒事が得意ではない。もっとわかりやすく言うならば、喧嘩ができるほど強くない。むしろ弱いと言っていい。
しかしながら、思考とは裏腹にその体は。
吸い寄せられるように人だかりへ、そろそろと近付いていた。
「・・・ったく、こりねぇな」
だから聞こえた。
本心から面倒臭そうに零す声が。
「うぉおおおお―――ッ‼‼」
次の瞬間には、誰ともなく男が殴りかかる。
途切れぬ波のように、次から次へと。
普通なら、囲まれた女の子はもみくちゃにされ、怪我も負うような展開。
打撃音はアニメやゲームで聞くような音よりもずっと軽いんだな、なんて。
短い悲鳴や呻き声を耳から素通りさせたいがために思う逸人。
(介入するのが遅れたのが全ての原因だよなぁ。どうしようか・・・)
思考は次のステージへと移っている。
どうにか割って入って、謝ったら許してくれるだろうか?
多少殴られるぐらいで済むかな?
(でも女の子が狙われてる理由もわからないしなぁ――犯罪とかだとこっちが悪者だし・・・)
こういった場面に出会う経験が少なかった逸人の妄想が飛躍し始めた頃。
ビシッ‼‼ という音が耳元でなったことに驚き、そこでようやく気付く。
「・・・えっと、大丈夫―――そうだね?」
「あ? なんだ? お前!」
立っていたのは女の子の方だ。
取り囲んでいた男共は、どこかしらを抱えながら転がっている。
通りで悲鳴や呻き声が野太かったはずだ・・・などと、鈍い感想が浮かぶ。
その鈍さは筋金入りで、ここでもまだ。スラっと伸びた小麦色の足が視界の半分を埋めていることに、逸人は気付いていない。
ただ居心地の悪そうな女の子の顔を見て、疑問を抱く。
自分は何かしたんだろうかと、そうして視界の違和感を悟る。
女の子が動いている。
いや、動かなくなったら一大事だろうが。
攻撃のために動いていたのだ。
なにを思ったのか、女の子は逸人に対して”さっきよりも”強力な蹴りをお見舞いするために背を向けていて。
またしても、ビシッ‼‼ という音で終わる。
「ッスゥ―――――、凄い・・・ね?」
「なんだお前⁉⁉」
流石に一部始終を見ていれば、逸人とてなにが起こったのかは把握できる。
だが残念なことに、なにがしたかったのかまではわからなかった。
なぜなら、逸人には痛みがなかったのだから。
逸人からしてみれば、目の前でクルリとキレイな一回転を見せられた後、顔へ目掛けて蹴りを寸止めされただけ。
パフォーマンスにしか見えない上に。この女の子も、なんなら倒れている男達ですら、布一枚を服の如く身に纏っている状態だ。
そんな防御力の低い格好で、大きく体を使うような、しかも回転なんかを披露しようものなら、腕だの脇だのはもちろんのこと。脚どころか太もも、なんなら尻まで見えている。
見えてしまっていた。
ママエルに続いて、健全な男であるところの只野逸人は。
真理によってそれらへと釘付けになり、倫理によって勝手に罪悪感を抱く。
そんな中、捻り出した言葉が『凄いね』だ。
僅かにしか残っていないだろう脳のリソースから、誉め言葉を選び出した部分だけは称賛してあげるべきである。
例え、言われた側からだと皮肉にしか聞こえなくとも・・・だ。




