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天使の世界2

 その後もしばらく食べ物の話ばかり。

 逸人は薄っすらと理解していた。ママエルは食べるのが好きなのだと。もっと言えば、食べさせるのも好きなのだと。

 そのまま、ついに突入したデザート編の()っただ中で、


「それでね! あそこのアイスは――」


 ――キーンコーンカーンコーン。

 聞き慣れた(かね)の音が響く。


「いけないわ! 授業に遅れちゃう‼」


 まるで錬金術師の様にパンと胸の前で手を合わせたかと思うや否や、弾かれたように走り出すママエル。

 抜群のスタイルと(かも)し出す雰囲気からは想像もつかないほどの健脚(けんきゃく)で、あっという間に置き去りにされそうになる逸人。


「あの、俺は――っ⁉」


 (かろ)うじて手を伸ばしながら(たず)ねることに成功。

 ママエルは顔だけで振り返るようにして、


「大丈夫よ! まだ春休みだもの! 入学式は明日! 教員棟の前に案内図もあるから、学園のことで気になることがあったら探検してみてね‼ 誰かにお願いしてもいいのよ‼ それじゃあ、また後でね‼」


 疾風(はやて)のように走り去る。

 春休みの概念(がいねん)もあるんだ・・・と思う反面、だとしたら急いでるのは補習なんだろうななどと、冷静な判断も下していた逸人。

 しかし気付く。


(探検と言われましても・・・・・・それ以前に入学は絶対なの?)


 置いて行かれたとて、自身に明確な目的などないことに。

 ただそれは仕方のないことでもある。

 逸人はなぜ自分が今ここに居るのかを分かっていない。

 起きていること、目に見える現実そのものを受け入れられていない。

 だから、どうすればいいのかもわからない。


 気持ちとしては、大海原(おおうなばら)でボートだけを与えられた気分だ。

 オールはあれど、地図も目的も現在地さえ知らなければ、目指すものなど見つかるはずもない。


 それでも、逸人は歩き出さなければならなかった。

 原因はさっき聞かされた食事の話題の中にあった。

 そう、お金の問題である。


 幸運なことに、服装や持ち物を失ったわけではない。

 当然、財布も持っている。

 ただし、中身は日本円だ。


 それはそうだろう。

 只野逸人は日本人であり、日本で生活をしていたのだ。

 財布の中だって日本に染まり切っている。


 中はおよそ24,800円と行きつけのラーメン店の割引券に餃子無料券。

 カラオケのクーポンとスポーツショップの金券。

 レシートに保証書。

 後は交通機関に使えるチャージカードと緊急用のテレフォンカードに銀行のカード。その他ポイントカードぐらい。


 日本の大学に通う学生としては標準程度、何かがあっても対応出来そうな安心感があるが、ここじゃ恐らく全てか無価値。

 学食は無料だと説明されたが、入学前でも利用できるとは言われていない。

 家に帰れるわけもない以上、寝床もない。


 寮がどうこうとは聞いたものの、場所も部屋も教えられなかった今。

 無一文は不安でしかない。


 その感情こそが逸人の足を突き動かした。

 教員棟――名前だけじゃどこかわからなかっただろうが、既に道順は記憶している。

 食べ物の情報を大量に飲み下す間に、呼吸を試みておいてよかったと本当に思った瞬間だった。


 まだまだ朝食からさほど間を置いていない胃袋にも、刺激的な誘惑(ゆうわく)を充満させる日の当たらない道を真っ直ぐに突き進み、光り射す階段を上れば。

 外見からは違いが分からないが、ここが教員棟のはずである。


(棟の入口は―――・・・)


 お上りさんみたいにキョロキョロと首を振る逸人。

 スマホが使えれば左右だけでなく手元と合わせて顔で三角を描いただろう。

 だが、一見恥ずかしくも映るその姿を(さら)したおかげで、逸人はそれらしい扉を探し当てる事ができた。


 一先ず胸を撫で下ろそうかという矢先、問題が目に飛び込んでくる。

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