天使の世界1
憶測は限りなく真実に近付く。
2度目の衝撃。
それはさながら撃滅のセカンドブリット。
逸人は押し寄せる虚無感からか、視線を落としてしまう。
そこで目に入る白い大地。
それこそがトドメだったのかもしれない。
脳が確かに理解する。
自身の死を。
「だったら、そうね! 一緒に歩かない? 案内してあげる」
そうして差し伸べられたママエルの白い手は、さぞかし救いの手に見えただろう。
ほとんど条件反射的に手を取り、自然と立ち上がる逸人。
まだ完全に再起動したわけではない。
心ここにあらずといった様相だが、ママエルは気付かない。
「ここが入り口。まあでも、あなたは寮に住むと思うから、あんまり馴染みがないかもしれないけど、一応正門なのよ? 良かったら覚えておいてね」
トボトボと親に続くカルガモの様だった逸人も、言葉の力で蘇る。
「・・・正門?」
「そうよ。私達の学び舎。その由緒正しき入り口よ」
改めて視線をあげる逸人の瞳に映ったのは、既視感溢れる光景。
そう、ここは―――。
「大学・・・ッ⁉」
なんとなくイメージにある大学キャンパス。
自身が通う学園ではないが、見ればわかるあの感じ。
広く、キレイではあるが、雑多で、人でごった返す。
良く知る風景と合致していた。
「そうね! 人の記憶を頼りにするとそう見えると思うわ! あなたも今日からこの学園に通うことになるの。だから、一緒に見て回りましょうね‼」
さあ! と手を引くママエルの足取りは、少しだけ軽くなっていた。
逸人の反応が嬉しかったのかもしれない。
天使にとっては学園の存在は常識。それに驚くというのは新鮮で珍しい。だから楽しくなったのだろう。
「どこからがいいかしら?」
「いや、え? まぁ・・・食事処とか?」
「あら、いきなりごはん? でもいいわ! とっておきのところ、紹介しちゃうから!」
「―――ッ⁉⁉」
豊満な体の物凄い美人が楽し気に微笑む姿を見て、逸人はドキリと心臓を跳ねさせた。
こんな状況が続いたら好きになってしまう! と。
それは良くない。
多分、色んな意味で。
それ故に、ある種の覚悟を決めた。腹を据えたと言ってもいいだろう。
(話に集中しよう‼ そうすればきっと大丈夫・・・な、はず‼)
「ここが学園食堂よ! どんなメニューでも無料だから、遠慮せずに食べていいの! でも気を付けて? 食材を無駄にするような行為には罰則があるから、食べられる量とメニューを注文するの!」
「学食・・・・・・広い、ですね?」
「そうかしら? 在学する天使の半分も入らないせいで、拡張案が出てるくらいよ? あ! あそこで食券を選んで、こっちで出したら、そこの受け取り口でもらえるの! わすれちゃダメよ?」
「食券製なんだ・・・」
「正確には食券を選んだ時点でオーダーが通ってるの! だから提供も凄く早いわ! そこが一番の利点かしら? 味は普通よ」
「こっちは持ち帰り型になっててね。下界でいうチェーン店? に近いんじゃないかしら? 飲み物の種類が豊富で、一部天使達から愛用されているわ! かく言う私も、その・・・タイミングを見て買いに来たりしてるの。内緒よ?」
「お茶に紅茶、コーヒーにココア、果汁100%から炭酸、スポドリ、エナドリ・・・・・・タピオカにスムージーまで⁉⁉」
「飲み物をここで用意したら、あっちのお店でサンドウィッチを選ぶのが私のおすすめ! あ、でも男の子ならバーガーかしら? ホットドックとか、サイドメニューもいっぱいあるから、自分だけのお昼を見つけるのも楽しいはずよ、きっと! でも、ここはお金が掛かるから注意してね‼ 無銭飲食は罰則じゃ済まないんだから! 絶対にやっちゃダメよ⁉」
「しませんけど⁉ それにしても、お金か・・・」
「その辺りは後で教えるわね? 次に行きましょう?」
「この階段を下りていくと地下街があるわ」
「地下⁉ え⁉ 地下⁉⁉」
「うふふ、地下ぐらいあるわ。下界と違って地震なんてないのよ? ず~っと安全だわ。この地下街は本当に色んなお店が集まってるの。和食、洋食、中華にトルコ料理。イタリアンやフレンチだって! 粉もの、ラーメン、焼き鳥なんかもいいかもしれないわ――いけない、お腹が空いてきちゃう!」
「下りないんですか?」
「ダメよ‼ 今からなんて、そんなの許されないわ‼ 授業が・・・授業があるもの・・・」
「・・・そうなんですね。ちなみに出口はどこに繋がってるんです?」
「教員棟の直ぐ側よ‼」
「大変、なんですね」
「うう、内緒よ? みんなにはだらしないところを見せられないんだから」




