春の訪れ19
絶望は伝播した。
ツインテエルから大熊へ。
否応もなく、存在としての格の違いに勝てないと打ちのめされる。
けれど、だ。
「うおっ⁉」
無理やり、掬い上げるように押し出し、腕を振りぬくことで大熊はヤンキエルを弾き飛ばす。
岩にでも叩き付けられてダメージがあれば万々歳。
そうでなくとも、仕切り直しにはなる。
「ガゥォオオオオオオオオオオ‼‼」
己を奮い立たせるような咆哮を上げ、追撃。
ヤンキエルは巨木の幹へ着地しておりダメージはなかったが、構わず突き刺す。
爪の犠牲など、生命の――あるいは敗北そのものよりも安いからだ。
「怪我も気にしねぇ我武者羅な攻撃・・・いいねぇ! 本気を感じるぜ‼」
軽々と避けてから、それを見てテンションを上げるヤンキエルはそこから、遊んでいるかのように何度も大熊を小突いてみては、反撃を躱して楽しんだ。
その度に手を変え品を変え、助言のような言葉を投げつける。
まるで言葉を理解していると確信しているような具合で。
しかし再び絶望は返る。
ツインテエルはただ、その光景を目の当たりにしていた。
勝てないと骨身に染み込ませられたはずの大熊が、子供かのように遊ばれる姿を。それでいて尚、諦めずに戦う大熊の姿を。
翻って、自らの立ち竦む姿を・・・目の当たりにしていた。
意識などしていなかった。
それでも比較してしまう。
自らと、その言葉と、今を。
逃げおおせるより戦って死んだ方がマシだと口にしておいて、なんだこの体たらくは? なぜ自らの理想を獣が体現している? その上でどうして、自分はただ突っ立っているだけなのだ?
答えは明確で、突き付けられる己の弱さ。
性能の差を埋められない力と技術。
諦めに抱かれ、逃げることさえやめてしまう体。
理想だけを吐き出す癖に、全うできない心。
見ているだけで惨めさが込み上げた。
しかもだ。
なによりも惨めなのは、この状況さえ庇われたが故に作られたという事実。
他者の献身、傲慢、庇護の下、ようやく許された生存。
つまらない思想を打ち砕くには十分過ぎた。
だが、
「あ~やべぇ、やっちまったな」
その均衡・・・いや余裕もここまで。
「「「グゥオオオオオオオオオオオ‼‼」」」
ここは神域の森。
どちらのホームかと言われれば当然、熊の生きる場所なのだ。
仲間を呼ぶこともあるだろう。
一致団結の秘訣とは、共通の敵を作ることなのだから。




